第43話 神々(運営)曰く「簡単にクリアされたら悔しい」

 タトルの大森林で哨戒中のアーニーは、冒険者の遺体を発見した。今日だけでもで二回目。

  今回は複数の遺体――パーティ全滅の様相だ。


 見せしめのように木に吊され掲げられている。


「マスター…… これって」


 同行していたジャンヌが呟く。


「ああ。わかっている」


 アーニーが嘆息した。


「早くウリカを差し出せっていう、敵のメッセージだ。ウリカには内緒だぞ、いいな」


 ジャンヌは唇をかみしめる。

 町に戻ったアーニーはマレックに報告した。


「ということは交戦は近いな」

「ああ」


 冒険者に直接手を出してきたのだ。

 敵が仕掛けてくるとみたほうがいいだろう。


「向こうも時間がないということか?」

「世界の修正があったものが影響したかもしれないな。召喚系の制限が入ったであろう?」


 先日冒険者組合より、最新環境報告があったばかりだ。


「神々も修正が早い。できれば【使徒】そのものを防いで欲しかったが」

「俺たちに不利益な不具合は遅く、有利な不具合は修正が早い。いつもはこうなんだがな」


 予想以上に早い神々の動きをみても、今回の一件はかなりやばい案件である。


「本当に修正が早いよな。強化魔法は昔、乗算だった計算式が加算に変更された」

「ガチャもな。出やすい時間帯というがあったんだが、その時間しか回さなくなってな。すぐに修正されたよ」

「神々なんて【簡単にクリアされたら悔しい】と言い放ったらしいからな」


 略して簡悔である。ひとしきり神々への毒を吐く。これぐらいは許されるのだ。


「で、どうする。アーニー。ウリカを。探索に連れ出すかね?」

「いや、今まで通りだ。相手に手土産もっていっても仕方ないだろ」


 向こうもウリカを連れ出すとは思ってはいないだろう。


「冷静だな。私としては安心だが」

「相手の勝利条件を考えれば、な。ウリカには知らせていない。責任を感じてついてくるって言い出すに決まってる」

「亡くなった冒険者は復活可能か?」

「ダメだった。守護遊霊付の守護有りはいなかった」


 復活呪文は受ける側にも条件がある。守護遊霊の守護が必須なのだ。


「そうか……」


 ウリカはきっと気にするだろう。マレックはそれがわかっていた。


「敵の目的は俺をおびき寄せるためだと思う。俺を処分したあと、ウリカ拉致を検討するんだろう」


 すでに【使徒】は捕らえたのだ。向こうもなんらかの手を打ってくるはずだ。


「昼に無力な自分が恨めしいよ」

「そのかわり夜は盤石だろ。どれだけ安心できると思っているんだ」


 アーニーたちが夜、安心できるのもマレックの力のおかげだ。


「そういってもらえると助かるがね」

「敵の仕掛けがどんなものか想像つかないことが難点だ。【古代召喚】は厄介すぎる」

「何かわかったことがあるのかね?」

「守護遊霊が言うには【古代召喚】のなかでも古い術式らしい。【選択規則レギユレーシヨン 】がかなり古いとか俺ではわからんことを言っていた」

「選択規則が古い? 確かに不明だな」


 永い年月を生きた吸血鬼公にも心当たりはなかった。


「【古代召喚】の戦闘は、時期によって細かく選択できる呪文が変わるらしい。そして新しい呪文を得るためにガチャみたいなものを引かないと手に入らないそうだ」

「今もろくでもないが、古代もろくなもんじゃないな」

「同意しておく。そして【選択規則レギユレーシヨン 】の選択規則が古いほど、戦闘の展開が早いとのことだ」

「決着がすぐにつく、という意味か?」

「ニュアンスの問題だから分かりづらいんだよな…… 長引けばどんどん魔力が強大になり、手遅れになるとは聞いた。どうやら【古代召喚】はいかに早く自分の必勝パターンに入るかが重要らしい」

「ふむ。皆目見当がつかん」


 【古代召喚】は、千年前のマレックの時代にしても、すでに過去の遺物だった。

 強大な力ゆえに徹底的に痕跡を消されていたのだ。


「手探りだ」


 不死者ですらわからない情報なのだ。アーニーとしても、試行錯誤するしかない。


「相手が一対一できてくれたら楽なんだけどな」

「無理だろうな」

「同じ場所を同時に襲ってくることはないらしいぞ。もともとは召喚術士同士の決闘ルールらしいからな。ただ、戦場の同時展開はありうる」

「詳しいな。お前の守護遊霊、つくづく変わっている」

「俺のような変人につくんだ。変わりもの以外いないだろ」

「違いない」


 美形の青年の目元が緩んだ。


「用意して欲しいものがあれば言ってくれ。できるだけのことはしよう」

「助かる」


 戦争前夜を思わせる二人の会話だった。


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