第37話 闇速攻
『神々の要請だよ』
「神々から一介の守護遊霊に? ただごとではないな」
アーニーの眉間が険しくなる。
予想もしない大事になりそうだ。
『あれは知識がないと対応できない。まだ召喚モンスターだからなんとかなったが……』
「あんたには知識がある、ってことか?」
『とっくに引退したけどね。懐かしいよ。TCGとのコラボかと思ったが違うみたいだ』
「何を言っているか分からない。それがあんたが干渉してくれる理由、なのか?」
守護遊霊世界の単語だ。聞き取れるが意味はわからなかった。
『すまない。ただ干渉は違うな。俺は何もできない。今回の件では助言ができるだけだ』
「それだけでもありがたいが……」
守護遊霊は神々に文句があるようだ。
『根本的な仕様の違いを加味して対応しろと、神々。無茶いいやがるな。卓上仕様を電脳仕様に変換すると逆順処理や
ぶつぶつと呟いている。対応を考えているのだと思われた。
「無茶振りされてるのか?」
『かもね。最終的にはアーニーに負担が行く。やっかいな話だが――放置すると邪神復活になる』
「ちょいまって。それかなり大事なんだが」
もちろんアーニーも邪神がなんたるか知っている。
かつて全ての神々を殺そうとした、欲望の神。
邪神の使徒は欲望のまま振る舞う。人類の敵といっても過言ではない。
『お前たちといつでも連絡がとれるわけではない。要所要所、話しかける。俺もかなり無茶している』
「頼んだよ」
守護遊霊の気配が消えた。
こちらをみているウリカとパイロンはあっけにとられていた。
「守護遊霊が戦闘中に助言くださるのも前代未聞ですが……邪神?」
「一回戻ろうとしたが、ダメだな。先に召喚術士を探すか」
守護遊霊の探せ、は無視できないだろう。
「アーニーさん、とんでもないっすね。あんな守護遊霊がついているなんて」
「あの守護遊霊とアーニーさんが特殊すぎるんです」
ウリカのあやしいフォローが入っていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ゆったりとした黒の外套を着た男は二人の護衛を連れて森を駆けていた。
できる限りその場を離れようとする。
闇騎士が二体も倒されるとは想定外だったのだ。
「逃げ足は遅いな」
予測していた通り、追いつかれた。
真っ黒なローブを着た男が背後に迫っている。アーニーだ。
いかつい顔の男は忌々しげに睨んでくる。顔は青白く、耳は尖っている。一目で人間ではないことがわかった。
「馬鹿な奴だ。下手に追ってこなければ長生きできたものを」
「冒険者を襲った理由を聞かせてもらわねば、ね。邪神の【使徒】」
「どうして貴様が知っている!」
男が叫ぶ。
アーニーの後ろから青い甲冑を着た男と、美しい少女が現れた。
「アーニーさん、早すぎ!」
「なんて早さなんですか」
彼を捕まえるために、アーニーは一人で森を駆け抜けてきたのだろう。
アサルトパイオニアゆえは偵察技術にも卓越している。彼が追跡者だったことが、男の不運だった。
「なっ」
しかし、男は現れた少女をみて絶句する。
「なんということだ、私の目的が自ら現れてくれるなど…… 貴様ら。その紅き瞳の娘を寄越せ。さすれば命だけ助けてやる」
アーニーは眉をひそめてウリカと男の射線に立ち塞がる。
ウリカはそっと身構えた。
「まさに邪神の導きよ。感謝いたします」
「確かに好都合だ。余計な面倒ごとを速攻終わらせることができるってな」
アーニーも戦闘に備え、武器を構える。
「馬鹿め。闇騎士ごときを倒したぐらいでいい気になるな!」
男は護衛の頭をつかんだ。
護衛は自我がないようだ。焦点の合わない瞳で、立っている。
「我が供物を受け取れ! 【
護衛の足下に魔方陣が現れる。
醜悪な触手が護衛を取り込んで、めきめきと圧殺していく。
護衛は苦悶の声をあげて、死んでいった。
『予想通り闇速攻か。闇の魔力を一気に解放してやがる。以前禁呪になったほどの呪文だ。アーニー、頼んだ』
守護遊霊の声が届く。
「わかった。今、頭のなかに浮かんだ呪法を使えということか」
『そういうこと』
「この魔力なら呼び出せる。いでよ、【
黒い霧のような肉体を持ち、眼球が4つある不気味な魔物が現れた。
『あいつは! お前の頭から直接魔法を引っこ抜く! 最悪の魔法使い殺しの一つ。長期戦になるほど不利だ! いけ!』
「あんたの予想通りだったな! 雷の精霊よ、力を貸せ! 【
精霊魔法の雷を放つ。召喚されたばかりの邪霊を撃つ。
轟音とともに邪霊が悲鳴をあげ、消えていく。
たったの一発の雷撃魔法で雲散霧消した。。
男が呆然とした。
「あ、あの」
「なんだ」
「もう少し魔力たまるまで待ってもらっていいですか?」
「ダメに決まっているだろう」
どうやら打つ手がなくなったらしい男は、もう一人の自我がない護衛を置いて逃げだそうとした。
その背中をアーニーが蹴り倒し昏倒させる。
『お見事。あいつはすぐ焼くに限る。闇騎士二体に錯乱の邪霊対処したなら手持ちもなくなるだろうなー。あとは頼んだ!』
「助かったよ」
守護遊霊に礼をいいながら、持っている縄でぐるぐる巻きにする。
「お前の処遇だが…… 紅い瞳の娘とやらを探していたこともある。我らが領主様に取り調べしていただくことが筋ってもんだろう、な?」
アーニーが薄く笑った。その結末が楽しみであるかのように。
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