古代召喚の脅威
第36話 闇騎士
「冒険者が襲撃されている?」
アーニーとウリカ、エルゼは冒険者組合併設の酒場にきて情報を集めていた。
「ああ。負傷者も何人かいる。目的はわからん」
中年のギルドマスターが告げる。
アーニーたちを見かけたので注意喚起しにきたのだった。
「今回襲われた冒険者が四天王だから無事切り抜けることができた。あいつら対人や単独相手のモンスターには強いからな」
低需要職四天王ことだ。
彼らのみで狩りにでることはある。
「四天王か。無事か?」
「無事だよ。あそこにいる」
ギルドマスターが指刺した先には四人が会話していた。
「話は聞いた。どういった敵だったか教えてくれるか」
「アーニーさん」
ニックが軽く会釈をした。
軽くエルゼと四天王の挨拶を済ませ、本題に入った。
「俺と似たような姿だった。だが、人間ではないな」
テラーナイトのラルフが答える。
「ニックの最大攻撃と私の跳躍攻撃で一体が限度でした」
「それは強いな」
ニックとパイロンは狩り効率が悪い特殊アタッカーであるが、その瞬間火力は絶大だ。その二人でようやく一体ならば、狩り主体クラスであれば全滅だってあり得る。
「たまたま我々四人で狩りしていたからよかったものの、低レベルの冒険者だったらあっという間にやられたかもしれない」
騎士であるラルフがなんとか守り切った結果だった。
「実際助かったよ。新米どもには襲ってくる黒い甲冑にはすぐ逃げろと言っている」
ギルドマスターが補足した。
「あれはかなりやばい。人とか亜人とかじゃねーし、モンスターかどうかもあやしい」
「どういう意味だ?」
「迷宮で発生した魔物じゃない。召喚された……ただの召喚じゃない。直接異世界から召喚された類だ」
「――どうしてそう思う?」
「勘としかいいようがないか…… 違和感だな、しいていえば。すまねえな。うまく説明できなくて」
「十分だ」
冒険者が覚える違和感は大事にしなければならない。
「変なオーラを感じるんだよ。斬りつけるだろ。金属の鎧を着ているのに、分厚い木材を切ったような、そんな感じだ」
「グラディエイターの【
ニックが使える最大の攻撃スキルの名前だ。この攻撃は凄まじく、ドラゴンにさえ致命傷を与える可能性を秘めている。
「そうだな。斬ったはずなのに、ダメージを受けた奴は遠くにいるような、そんな感じだ」
「それは召喚系の特徴だな。参考になる」
「どういうことですか?」
エルゼが尋ねる。
「召喚されたモンスターってやつは基本的に現し身なんだよ。本体は異次元なり元の世界にいる」
「ではこの世界に現れたモンスターは?」
「投影された影みたいなもんだな。もちろん本体が来る場合もあるが……」
「古代の召喚戦争に近い?」
彼らの世界を一度滅ぼした、古代の召喚戦争。
伝説では、守護遊霊たちがいる現実世界に伝わる神話の神々やモンスターが顕現化し、召喚士たちはこぞって勝敗を競ったのだ。
問題もあった。強くなりすぎたモンスターを神々さえも制御不可能となり、強さのインフレを起こし、挙げ句の果てに世界のバランスは崩壊した。
世界はその時一度
今現在いるモンスターたちは、その戦争の末裔ともいわれている。
ドラゴン、キメラ、ナーガ、ベヒーモス、フェンリルはその代表だ。
「そういうことだ。あの時代は何体も重ねるため同じ存在を幾度も召喚し、全て集めると本来の力を発揮できるような召喚だったらしい」
アーニーは分析するため、自らの知識や守護遊霊に聞いた話を思い出そうとする。
「そんなモンスターが何故出現したのか。調べないといけないな」
「アーニーさんはとくに一人で活動が多いから、気を付けてくれ」
「そうだな、そうするよ。ありがとう」」
アーニーは一人考え込み、思考を巡らす。
急に耳を引っ張られる。ウリカだった。
「アーニーさんこっちきなさい!」
「痛い。どうしたウリカ、痛いって」
「また一人で調査しようとか考えてるんでしょ。いい加減にしてくださいよ、もう。ほら、こっち!」
そのまま別のテーブルに引きずられていくアーニー。五人に頭を下げ、エルゼも追いかける。
ギルドマスターは苦笑しながらカウンターに戻り、四人は優しい笑顔を浮かべアーニーたちを見送り、自分たちの会話に戻っていった。
森の中二人は離れていた。
調査時の敵戦力は不明。念のためエルゼを待機させ そのかわり、ドラゴンファイターのパイロンが同行していた。
「襲撃場所の特定は完了、と……」
地図を片手に襲撃された冒険者たちの場所にチェックしていく。
「何かわかりましたか?」
ウリカが不安げに尋ねた。
「一定距離で町から離れている。遺跡に向かう冒険者を狩っているのか?」
「そういえば私たちも遺跡に向かっていましたね」
「どの遺跡に?」
「カルキノスの迷宮ですね」
「化け蟹の迷宮か。モンスターが色違いの蟹だらけだという……」
「我々は蟹を狩り続ける。いわばキャンサースレイヤー」
巨大蟹はいわゆる美味しいモンスターだ。素材は売れるし、攻撃力は高いが経験値も良い。
殊攻撃も少ないという、対処法さえ覚えてしまえば、御しやすい部類のモンスターだ。
また迷宮にでる巨大蟹は階層によって色違いの蟹がでる場合が多く、地域によっては永遠に蟹を狩り続けて生を終える冒険者もいるという。
欠点もある。蟹がでる迷宮は、宝箱などの報酬はよくないと言われている。
「あの場所に何があるとは思えないが、向かってみるか」
彼らはカルキノスの迷宮に向かった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「そんなすぐ現れない、か」
カルキノスの迷宮に到着した彼らは、付近を探索していた。パイロンがぼやく。
「それはそうだ。すぐに出てきてくれたら楽なんだが……」
気付いた時には遅かった。
ウリカに襲いかかる黒い影。
ウリカは手に持っているショートソードでなんとか受けきる。
「なっ!」
パイロンが絶句する。アーニーはすぐさま跳躍し、飛びかかる。
「大丈夫か!」
「なんとか…… 受けきりましたが、次は持ちません」
目の前にいたものは漆黒の甲冑姿だった。確かにテラーナイトに似ている。
だが、すぐに気付いた。中身は、人間のそれではない、と。
「【マジックランス】」
マジックランスを飛ばすが、甲冑姿はダメージは受けていないようだ。
すかさず武器に持ち替え、甲冑姿とウリカの間に割り込む。
「食らえ!」
パイロンが跳躍し躍りかかる。
この跳躍は天高く飛ぶタイプではなく、地面を蹴り上げ突進するタイプだ。体をぞうきんのように絞らせながら突進し、筋肉のバネを一気に解き放し、全力で両手槍の刺突を叩き込む。
鈍い音とともに、胸に槍が突き刺さる。だが、これで倒せないこともわかっている。
「もう一体!」
ウリカが叫んだ。奥からもう一体の甲冑が現れる。
「【
ウリカが呪文を捉える。光の塊が甲冑姿を覆い——霧散した。
「無効化…… された?!」
『聞け、そいつらには精霊魔法を使え!』
突然アーニーの守護遊霊の声が響く。
『敵の名前は
「
守護遊霊が戦闘中に介入するなど、前代未聞である。
『闇闇で召喚、神聖無効、おまけに特殊能力は【先攻】だ。先手を取られると思え!』
守護遊霊の緊迫した声で伝えてくる。
何を言っているかこの世界の住人には理解不可能だが言葉の意味はわかる。守護遊霊はその正体を知っているということだ。
「神聖魔法無効なんて……」
ウリカも絶句する。
「先攻か――俺の天敵だな」
アーニーは確かに四回行動できる。
しかしそれも奇襲や先制を受けて即死するような攻撃を受けたら意味が無い。
奇襲はアサルトパイオニアという職の関係上、よほどでないと受けないが、技能である先制はまず防げない。
「アーニーさんはまず下がって。私が前にでよう」
重装のパイロンが前にでる。
「頼んだ。俺は後方から——」
魔法戦闘へシフトした。
「精霊魔法が効くなら…… 火よ力を貸せ。【
炎の塊が射出される。闇騎士は声なき絶叫をあげ、消滅した。
もう一体の闇騎士が動く——
パイロンが苦悶の声を上げる。
それは闇騎士の早業。
長剣の先制攻撃を受けたのだ。
「先攻って嘘じゃ無いな…… 初撃が早すぎる……」
それでも耐えきったパイロン。まだ跳躍はディレイ中だ。
アーニーが躊躇する。今精霊魔法を使ったらパイロンを巻き込むのだ。
それをみたウリカがもう一度呪文を使う。
「神聖が無理なら…… これはどうかな! 【
理力魔法に切り替え、ウリカが支援する。地面に魔力が集中し、闇騎士は動けなくなった。
「今のうちに離れて! パイロンさん!」
「助かる!」
地面を転がるように離脱する。
「こっちもだ!
火炎撃はディレイ中に使えない。かまいたちを飛ばして闇騎士を攻撃する。
動けない闇騎士はもだえているが、死んではいない。
「タフいな、こいつ」
『法則が違うとこうも化けるか……』
守護遊霊も驚いていた。
「木々の精霊よ。力を貸せ。【
ここは森のなかだ。舞い散る木の葉が鋭い刃となる。
一陣の風となり、闇騎士を覆う。
闇騎士は切り刻まれ、消滅した。
ウリカは駆け寄ってパイロンに治癒魔法をかける。
『
アーニーは肩で息をしながらも、虚空を睨んだ。
「わかった、しかし――守護幽霊であるあんたが介入してきた理由、教えてもらえるんだろうな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます