第18話 閑話 期待外れのガチャにユーザーは厳しい

 天界会議。

 今日も魔神は連行されて、参加させられている。


「新しいガチャが不評だ」


 主神がうめくように呟く。


「月間セールスランキングは211位だ」

「生々しい数字だな、おい」

「なんのランキングだよ主神!」

「死ねよ主神」」


 戦神と鍛冶の神がツッコミを入れる。


「そ、それは……人造人間と欠けた黄金の果実の……う……頭が……」


 禁則事項に引っかかり激痛の悶え苦しむ主神。


「あー主神。本気で死なれたら困りますので、無理に言わなくてもいいですから」


 自然の女神がフォローに入った。


「マーケティング担当に調査させたんじゃがのう」

「マーケティング屋に任せるなんてダメだ。うわべだけの数字を追いかけると、声のでかい守護遊霊の意見だけを反映させてしまうからな」


 魔神がたしなめる。相変わらず鎖で縛られているので威厳はない。


「マーケティングで収集した情報が、本来の意味でセイエンを使っているユーザーかどうか、というのもありますよね」


 美の女神も同意する。


「新しいことが広がるためには何か。現実世界リアルにおけるロジャース博士のイノベーター理論だ。新しいガチャは初期採用者アーリーアダプターに受け入れなければならない。彼らを手本に早期追随者が実際に試し評価し、広めてくれる」

「また魔神が意識高い系みたいなこと言いだしよったわ!」


 主神が呻く。


「主神がそんなことでどうする…… まあこの考えだけではないが、何が必要か、それで過剰にならないかが問題なわけだ。今回は良いデータが取れただろう」

「不評じゃったがな」

「冒険者の制限が思った以上に厳しいですね。SSRが少ない世界でいきなりSSRばらまいたらそりゃ冒険者も混乱するってもんです」

「いきなり強い助っ人を与えられたところで、自分より強かったら冒険者は面白くないだろうしな」


 ほかの神々も思うところはあったようだ。


「しかし我々にはアップデートの失敗をしているほど余裕はないからの」

「思いっきり失敗した直後でそれ言うの? ――今後の糧とし、早急に対策しましょう」

「魔術文様は好評じゃったな」

「あれは冒険者を強くするためですからね。新しい守護遊霊を呼び込む手段にはなりえませんが、既存のこの世界を見守ってくれる守護遊霊には好評です」

「コストかからんしな」

「バランス感覚は忘れずに」


 魔神が釘を刺すのを忘れない。


「初期にでたアイテムが後半になって新規の守護遊霊が手に入らなくなり、格差がでることはよくあることだ」

「それを逆手にとって、大々的に復刻ガチャに入れればいいじゃろうて」

「復刻…… 確かに」

「そこらへんは慎重じゃよ。下手に弱体化したら、セイエンを守護遊霊に還さないといけないしのう」

「かといって弱い品だとガチャは回らない、か。難しいものだ」

「魔術文様はこのまま進めていくものとする。問題はやはり【使徒】じゃ」

「ジャンヌより報告があがっていますね。冒険者にとって高レアSSRよりも低レアで需要職の【使徒】が欲しいと」


 美の女神が書面を眺めている。


「そんなもん人口無能ボットと変わらんじゃろ」

「主神殿! 言い過ぎです」

「儂、しっとるもん。そんなもん広がると、治癒職ヒーラー補助魔法職バツファーの居場所がなくなって、アタッカーが俺ツエーするだけ……」

「なに言い出すんです。ひょっとして治癒職ヒーラー補助魔法職バツファーの魔法に攻撃魔法仕込んでるのもそのせいですか?」

「高レベルになるまで放置のくせに美味しい狩り場になると手のひら返してきやがる。対人戦で多少活躍しようものなら嫉妬がものすごいしのぅ。その環境を変えるために……」

「落ち着いて主神!」


 早口でぶつぶつ言い始めた主神。トラウマがあるようだ。


「うーむ。【希少技能ユニークスキル】を持たせるか? しかしそれこそ、冒険者が自分で使いたいだろうしな」

「今回のガチャでわかったニーズは、冒険者個人が強くなる品が好評で、【使徒】などのお助けキャラは慎重に、ということですね」

「ジャンヌは遠征要員になったとのことです」

「むしろ、遠征特化の【使徒】中心にするか。冒険者は鉱夫や採取人も兼ねておるからの」

「遠征特化は面白い試みですね。ですが、問題が。ようはいきなり人一人養うことになるので、やはりそれを上回るメリットがないと難しいでしょうね」

「ジャンヌは追い出されそうになったようだしな」


 戦の神も嘆息する。


「新婚家庭にいきなり棲まわせてくれとはいってはだめだろ」


 魔神が当然とばかりに言う。


「妙に詳しいな、魔神」

「我の末裔すえだからな。あの片割れ。あれに襲いかかるであろう苦難をなんとかするためにおぬしらに協力している面もあるんだぞ」


 赤い瞳は彼の末裔である証なのだ。


「何、そうだったのか」

「その話はいずれ。我も魔王の誕生なぞ望んでおらぬが…… 一部の愚かしい人間どもが、な」

「邪神……か……」

「我の生み出したシステムを悪用するとは許せぬが封印されている身でな。冒険者を早く強くするのだ、神々よ。今はその話はよそう」


 真剣な顔付きの魔神に、一同は同意した。


「我を解放してくれてもいいんだが」

「それはだめ」

「ちぇ」


 にべもない。もっとも、魔神も解放されるとは思ってはいないが。


「ガチャで人間を生み出そうとしたことが間違いかもしれぬ」

「ぶっちゃけてしまえば、スカウトやら雇用やら言い換えても、ガチャから人が生まれる事態には変わらないし」

「魔神はぶっちゃけすぎです」

「そもそも【使徒】がダブったらどうするのだ」

「そこはほら、ダブった使徒の肉体を融合フォージユンさせて能力を底上げして……」

「気持ち悪ッ!」

「二千年前のモンスターバトルではごく普通の光景だったのですが」

「モンスターと人間一緒にしちゃだめだよ、まじで」


 神々との認識のずれを実感する魔神だが、思わず口調が乱れてしまう。


「では【使徒】を融合させるシステムはなしということで」

「ダブりSSR対策も考えないといけないのか」


 美の女神が結論を出し、戦の神が嘆息する。


「むしろ同じSSRをたくさん引かせる方向でいくのじゃ」

「やめろ!」


 天界のほうでも課題は山積みのようであった。


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