第17話 倉庫行き改め遠征要員

 テーブルを囲んで三人が座っている。

 アーニーとウリカが並び、対面にはジャンヌが気まずそうにしていた。


 面接のようである。ウリカが問う。


「ジャンヌさん。あなたの職業は?」


 ますます面接じみてきた。


「パラディンです……」

「SSRでパラディンならパーティには困りませんよ? ここで活躍しなくても大丈夫ですよ」

「正直言いまして【使徒】の沽券に関わるというか。召喚されて即お払い箱とか、神々に合わす顔がないんです」

「そちらの都合ですよね、それ」


 容赦がないウリカ。アーニーとの生活寸前で居候されてはたまらないという焦燥感を隠し、能面のように理詰めでジャンヌを追い詰めている。

 その事実がアーニーには怖かった。これは逆らってはいけない案件。


「セイエンの回収にも影響でますし。『SSRあたった! まじ使える! 絶対欲しい!』ぐらい評判になってくれないと困るのです」

「わかりました」


 眉間に皺を寄せていたウリカだったが、結論が出たらしくコホンと咳払いした。


「なんというか。このままだと貴女を家においても、飼い殺し状態になってしまいます。それは貴女も不本意でしょう?」

「お二人、SSRなんですよね? どちらかが怪我した場合の控えとして……」

「俺は回避盾だから。あと攻撃魔法要員と。スカウト系スキル多数もちだ」


 アーニーが自己申告する。


「なにそれ…… 回避盾な上魔法攻撃とスカウト系スキルって。職業は勇者か何かですか」

「壺を漁る趣味はない。いいがかりはよせ」

「私は回復とMP回復できますから。アタッカー盾役回復MP支援スカウト系は間に合っています」

「え?」


 ジャンヌが絶句した。


「私たち常に二人行動なので、あなたに入る余地はありません」

「そのようですね!」


 よりにもよってあり得ない二人組に、ジャンヌも憤慨する。


「野外の倉庫はあるんですが…… せっかく来て頂いた【使徒】に番犬になってもらうには恐れ多いですし」

「いきなり倉庫行きっすか!」


 容赦ないウリカの提案に絶望するジャンヌ。

 倉庫行きとは使えない冒険者の代名詞でもある。


「でもね。あなたが私たちの役に立って、SSRの才能を生かす。そんな道もあるんですよ」

「本当ですか!」

「逆にこの案を飲めなければ、貴女を天に帰すか、本気で独立してもらうしかないですが。聞きます?」


 ウリカがにっこり笑った。

 目が笑っていない。それがジャンヌとアーニーには怖かった。


「き、聞きます。天に帰すとか物騒なこと言うのは本気でやめてください」


 ジャンヌに選択の余地はない。


「貴女を第二パーティのリーダーとして任命します」

「第二パーティ!」

「遠征要……げふん、貴女の力を生かして、率先して皆を導いて欲しいのです」

「遠征要員って資源回収でもするの?」

「資源違います。素材です――えっとあとはあなたの実力を見込んでソウルランクが低い方を中心に育成して欲しいのです」

「本当に遠征要員にされるんだ、私! 遠征している間は放置ですよね?」

「大事な仕事です。その仕事をこなせる冒険者は貴女しかいない」

「えー、本当にそうかなあ……」

「SSR引けて良かったと思いますもん。ね? アーニーさん」

「おぅ」

「個人事業やり手夫婦のブラック面接になっていませんか?」

「夫婦だなんて、やだなー、もう! 夫婦、ってアーニーさん。ですよねー?」

「褒めてないからな彼女」


 浮かれているウリカにため息をつくアーニーだった。


「実際俺たちはSSR。PTに入ってくれるアンコモンやレアの冒険者を、俺たちと戦えるように育成して欲しい。そうしてくれたら本当に助かるよ」


 それは事実だった。パーティからあぶれて燻っている特殊スキル系アタッカー余りが近年の冒険者組合から問題視されており、この町も例外ではない。


「二人でソウルランク合計12ですからね。わかりました」

「それにコスト制限がないクエストがありましたら、もちろんジャンヌさんを誘いますからね」

「アーニーさんが回避盾するのに?」


 ジャンヌ、いじられすぎてちょっと疑心暗鬼になっていた。


「その場合はアタッカー専念するから」

「おぅ……それなら私の力が生きる!」

「アーニーさんの魔法は通常の魔法ファイターの四倍発射されますので頑張って敵意ヘイト維持してくださいね」

「え?」


 愕然とアーニーをみる。

 そもそも盾職の役割は、モンスターの敵意を自分に集中させターゲットを固定し後衛の安全を守り、アタッカーに背面を取らすことである。

 魔法職はターゲットを奪いやすく、火力調節が大変だ。本職より落ちるとはいえ、四倍近い魔法を投射できるなら並の者より強いということだろう。


「無理ゲーでは」

「SSRの盾職ですよね?」

「もはやイジメだと思うのです、ジャンヌちゃんにとってこの状況は」


 本当に泣きが入り始めたジャンヌに、アーニーもさすがにフォローを入れるため話題を変える。


「そういうわけで俺たちの第二パーティのリーダーを任せたい」

「釈然とはしませんが……お引き受けいたします」

「それではさらに金貨10枚です。家のほうは私のほうが探しておきますので、それまでは宿屋で」

「ここには泊めてもらえませんか? 倉庫は嫌ですけど…… 私のマスター、召喚主のアーニーさんなので」

「ごめんなさい!」


 即答だ。


「私たち、今日から、やっと二人での生活が始まるんです。長かった。でもようやく……」


 遠い目をするウリカ。

 アーニーもまったく鈍感ではないので、泊めてやっても、などはいわない。

 ウリカの地雷であることはわかりきっているので最初から追い出す方向だった。


「そうだな。楽しみだったしな」


 と言ってまた自分から内堀を埋めてしまう。


「えへへ。一緒にお風呂はまだ難易度が高いですから。膝枕は今日からですね」

「お風呂一緒に入らないぞ!」

「えー。そのうちそのうち」

「なんでこの家風呂あるの? 私バカップルののろけに付き合わされているの? 死ぬの?」

「何度も言っていますが、独立してもいいんですよ、ジャンヌさん」

「ごめんなさい」


 アーニーが内容の恥ずかしさから、ごほんと咳払いして無理矢理話題を変える。


「というわけで、方針は決まった。また昼過ぎにここにくるといい。育成して欲しい人材の方向性や向かって欲しい遠征先の話をしよう」

「わかりました。ありがとうございます。宿屋に、泊まります」


 最後はちょっと恨み節が混じっていた。


「神様には報告とかするのかな?」

「強制ではありませんが、生み出された以上、多少は。次のガチャのフィードバックもありますしね」

「では俺から提案だ。気が向いたら伝えておいてくれ」

「なんでしょう?」

「冒険者組合の制限がある以上、SSRの通常能力【使徒】より、低ソウルランクのレア職や需要職の【使徒】の方が需要ありますよ、と」

「……伝えておきます」


 SSRであること弊害を、思うさま突きつけられたジャンヌはしみじみと同意した。


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