新施設続々! 技術振興開始!

第19話 伐倒技術――受け口、追い口、枝打ち

 タトルの大森林。木々はカーテンとなり周囲は日陰。

 日差しが遠く、天から垣間見える。

 そして弱肉強食という自然のルールが適用される、モンスター溢れる世界だ。


「兄さん! しっかりしろ兄さん!」


 緑色の服を着たドワーフが倒れている。

 その男を抱える灰色の服を着たドワーフが必死に呼びかける。


「俺はいい。兄貴たちを助けに……」

「わかった。兄さん、死ぬなよ」


 そこに人影が現れたとき、彼は死を覚悟した。


 別の場所では牛の顔をした魔物ミノタウロスと戦うドワーフ二人組がいた。青い服と赤い服である。

 伐採用の斧を両手に戦っている。

 ミノタウロスは巨大な棍棒。戦力差は圧倒的だった。


「こいや! おらぁ!」

「ケツからゲロだせてやんよ!」


 口汚く罵りながらも、ミノタウロスに立ち向かっていく二人。


 ドワーフは意外なことに戦闘に向いているとは言い難い。種族特有によるタフさゆえの誤解である。

 人間の平均より上の筋力、体力、そして手先の器用さが武器だが、とにかく鈍く、愚直で応用が利かない。

 

 この二人もゾンビのように起き上がっては斬りかかるが、ミノタウロスに殴られ、蹴られ弾き飛ばされていた。


「相手がミノなら人間じゃないんだ…… 儂だって!」

「へへ。敵ながらパワーが、ダンチだぜ……」


 二人とも血を吐きながらも立ち上がる。


「おーい、無理をするな、二人とも」

 のんきな声が後ろから聞こえてきた。

 ミノタウロスは、彼らではなく、彼らの背後を凝視している。


「ばかもんが! 早く逃げろ!」

「みえんのか、こいつが!」


 二人は慌てた。ミノタウロスは並の人間が太刀打ちできる相手ではない。

慌てて振り返る。


 彼らの背後には外套を被った人間がいたのだ。

 目元はよくわからないが、口下は笑みが浮かんでいた。


「あんたらは優しいな」

「ここは儂らが抑えるから! 途中にいたじゃろ、ドワーフが。そいつらを連れて逃げてくれ」

「ああ、もう助けたさ」

「なんじゃと!」


 アーニーはミノタウロスに突進する。

 棍棒は軽くステップで避ける。


「今の俺は魔法向きのビルドじゃないんでね。——行くぞ、牛」

 身を低くし、再度突進する。横薙ぎされる棍棒を回避するため、さらに加速する。


 現在——野外探索中だったアーニーの常時発動技能は魔法系ではなく【敏捷倍化】にしてある。移動速度、回避にボーナスがつく状態だ。

 大ぶりの棍棒など、当たるものではない。

 

 青筋を浮かべ、必死に棍棒を揮うミノタウロス。

 顔色一つ変えず、冷静に回避するアーニー。


 ミノタウロスの懐に入り込み、そのまま腕を切り上げる。棍棒ごと、腕は弾き飛んだ。

 振り上げた剣をそのまま横薙ぎに切り払う。ミノタウロスは悲鳴を上げて後ろに下がった。


 四回連続行動——アーニーだけが得ることができる猛攻。

 ミノタウロスを切りつける一刀ごとが、必殺の攻撃。オークなら即死するレベルの攻撃が加えられる。


 ファイターではないドワーフたちには、何が起きたか捉えることすらできなかった。


「逃がさんよ」


 軽く跳躍し、渾身の力を込め、一気に心臓を貫いた。


 GAAAA!


 意味をなさない悲鳴を上げてミノタウロスは絶命した。


「なんと…… ミノタウロスの反撃を許さず一気に倒したとは……」

「さぞや名のある冒険者であろうか」


 ドワーフが感嘆の声を上げる。


「大丈夫か。これ飲んでくれ」


 アーニーがポートからポーションを取り出す。いつものガチャのハズレポーションだ。


「ありがたい! 助かる!」

「ビールはないからな」


 アーニーが笑いながら告げる。


「残念じゃ」


 もう一人のドワーフがにやりと笑いながら飲む。


「もう二人組のドワーフもポーションを与えておいた。先に町に戻れと言って置いたが……」

「兄さんー!」


 言ってる側から、二人がやってきた。


「やっぱりきたか」


 苦笑した。


「なんと礼をいってよいやら…… 旅人よ」

「旅人? いや、会ったことあるぞ。あんたとは」


 外套を脱いだ。

 ドワーフは顔を睨むように見上げ、声を上げた。


「おぬし! この前、お嬢が連れてきた!」

「ああ。ブラオさんだっけ」

「そうじゃ! 覚えて置いてくれて嬉しい」

「無事で良かったよ。なんで鍛冶屋のあんたがここに?」

「兄弟たちの手伝いじゃよ。伐採じゃ。儂も使うしのう」

「なるほど。そういえば赤い服の——ロートさんだっけ。素敵な家をありがとう」

「こらこら、命の恩人に礼を言われると立場ないわい。こちらこそ助かった。帰ったら宴会をしないとな」


 ドワーフ兄弟たちが歓声を上げる。


「ドワーフたちと飲むとか恐ろしい。俺は酒が苦手でね。町の人間を助けるなんてことは当然だ」

「つまみでも食ってていいから付き合えよ! そして俺からも礼を言うよ。アーニーさん」


 灰色の服を着たドワーフが手を差し出した。アーニーも手に取る。


「俺は細工職人のグラオ。よろしくな」

「お前たちばっかずるいぞ。儂はグリューン。木こりじゃ」


 ドワーフたちに囲まれる。


「伐採するのか。手伝うぞ」

「そんなことまでできるのかよ。おぬし、冒険者じゃろ」

「んー。俺はレンジャーの派生職みたいな職業でね。伐倒技術――受け口、追い口や枝打ちとかなら」


 アサルトパイオニア戦闘工兵であるアーニーは伐倒技術と呼ばれる、大木を切り倒す技術は前提技能にあたる。

 枝打ちなどを行い丸太を作る作業や即席の建造物までならカバー可能だ。


「なんでもありじゃな、お前さん」


 ドワーフたちも呆れる多芸である。


「しかしありがたい。甘えてばっかりで済まないが手伝ってもらえるか」

「早く済まないとな。俺たちがアーニー殿を捕まえてしまうと、ウリカ嬢に怒られてしまう」

「違いない」


 そこは否定しないアーニーだった。

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