第9話 覚醒した力
ブルーベアを探して、二人は森深くへ入っていく。
「誤解しているかもしれないが……俺がここまで戦えるようになった時期はつい最近。【SSR】になってからだ」
ウリカが誤解しているようなので、アーニーは念のため言った。
オーク相手の場合、数が多ければ苦戦はしていたかもしれない。
「そうなんですか? 初めてあったときは魔法主体の戦い方でしたよね」
最初出会った時もマジックアローを乱れ打ちしていたのだ。
ウリカはアーニーが魔法ファイター系列としては、あり得ない強さを持っていると踏んでいた。
「能力の制限をかなり受けていたが、利点に変わった、ということかな」
彼女に誤解を与えないよう、慎重に言葉を選んでいるようだった。
「気になります」
「この狩りが終わって説明しよう」
「はい!」
「もうすぐだ。支援魔法を頼む」
指差した場所には、大きな足跡が続いていた。
「足跡……大きいですね。了解です」
支援魔法をアーニーにかけていく。
「戦いが始まったら、しばらくヒールやMPは寄越さないように。すぐにそっちに敵意が移る」
アーニーの言葉にウリカは従う。ヘイト管理はヒーラーにとっても生命線だ。
身をかがめ、森を進む。恐る恐るウリカが後をついていく。
アーニーが立ち止まった。後ろを振り返り、指をそっと指す。
その先にブルーベアがいた。3メートル近い巨体。そのパワーはオーガロードに匹敵するという。
ブルーベアも人間を好んで食べる魔物だ。人間の魔力を食べるためと言われている。
アーニーは小さな杭を五本用意し、そっと地面に突き刺す。
大地に語りかけるように呪文を唱えると、淡い光が五角形の形で輝く。
「【ディグウェル】」
「これは?」
「俺の職専門の呪文だな。井戸を掘る呪文の応用で一気に落とし穴を作った」
「そんな呪文が……」
こんな短時間で穴を掘る呪文が存在するとは思わなかったのだ。
ただし相手はブルーベアだ。
野生の熊なら、人力で掘った落とし穴や、石の重みで圧殺する石罠、バネ式のベアートラップだろうか。
魔物と化したブルーベアにはほぼ効果がない。
落とし穴も気休めだ。
「——行くぞ、そこを動くな。戦闘開始したら立ち上がれ」
小声でウリカに告げる。ウリカも杖を握りしめる。
アーニーは片手を突き出し、魔力を集中させる。
「精霊よ、力を貸せ。【ライトニング】」
閃光が放たれ、ブルーベアを襲う。
電撃をまともに受けながらも、ブルーベアは怒りのうなり声をあげ突進してくた。
『GUAAA!』
かすかに光る罠に気付かなかったブルーベアはそのまま下半身がめり込んでしまう。
「【ファイアエクスプロージョン】」
その隙に落とし穴に向けて火球を放り込む。ブルーベアに接触した火球は激しい爆発を起こした。 炸裂音が轟く。
落とし穴のなかに叩き込んだことで威力も跳ね上がっている。
そのまま後ろに飛び退く。
先ほどまでいた位置ブルーベアの豪腕が振り下ろされていた。空振りではあったが、直撃を食らえば無事では済まないだろう。
威嚇のうなり声。
ブルーベアの恐ろしさはパワーではなく、スピードなのだ。
本来なら消費の激しい攻撃魔法を連続して使ったアーニーのMPも尽きかけなのだが、ウリカのMP回復速度上昇のおかげで助かっていた。
次の魔法に移るべく行動しようとしたアーニーだが、それを許さぬブルーベアの突進。
フェイントを交えた剛腕の攻撃に、なんとか剣で受けたアーニーだったが吹き飛ばされる。
「ノックバックかっ…… さすがに本物のベアナックルは違うな」
甲冑でさえひしゃげる攻撃を、アーニーは耐えきった。
「アーニーさん!」
すかさずウリカから【ヒール】が飛ぶ。
その【ヒール】にすら反応するブルーベア。横を向き、ウリカに視線を移す。
治癒魔法や支援魔法は敵位が高い。
モンスターは本能的に継戦能力を高める魔法使いを知っているといわれている。
ヒーラーが倒されれば、前衛は破れ、パーティは崩壊する。
ブルーベアが吠える。
魔法の衝撃波が口から放たれた。
ウリカは小剣で受けようとするが、魔法のダメージは軽減できない。
なんとかバランスを崩さず、立っていた。
「お前さんの相手はこの俺だ。——よそ見していると、死ぬぞ」
展開する【マジックランス】。空中に2本漂っている。
それが4本、6本、最後に8本にまで増えた。
「ダメージクリスタル——装填完了」
ダメージクリスタルは魔法の威力をあげるための消耗品だ。武器にくくりつけるように使う。
魔法ダメージが上がるアイテムだが、このクリスタルは高価なため乱用は厳禁だ。
「青い体毛……魔力抵抗力、物理抵抗力があがっているのをぶち抜くために、一気に叩き付ける。——行け。【マジックランス】」
槍衾——幾多のマジックランスに貫かれ、ブルーベアは絶命した。
油断せず、剣を構えて近づくアーニー。止めとばかりに喉元に剣を突き立てるが、反応はなかった。
剣を構えて身構えるウリカの側に近寄る。
「いい心がけだ、ウリカ。油断しないという心構えは大切だ。——終わったよ。おつかれ」
「は、はい!」
その言葉で終わったと気付いたウリカは気の抜けた声を出し、緊張を解いた。
おずおずと、片手をあげる。その意図を察したアーニーは口下を緩め、二人はハイタッチを行った。
小気味良い音が森に響いた、
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