覚醒の時
第8話 神引き一枚抜き
二人がノラエガの街を出立し、一週間経過した。
中継地の街、コッパーの街に到着した。
「これなんてどうでしょうか」
「報酬は、魔霊石5個——決まりだな」
お互いが連携するために、冒険者組合の依頼をこなそうと話が出たのだ。
今回選んだ仕事は魔物化した熊退治。ブルーベアの討伐だ。
このブルーベア。普通の熊ですら手強いのに、魔物化したので魔法も使ってくるのだ。
クエスト選択もガチャ重視であることが二人らしかった。
二人は宿屋で、打ち合わせを行う。
アーニーが別部屋を希望したが、ウリカが野宿を共にしている以上、二人部屋が良いと主張したため相部屋になった。
二人連れの冒険者は珍しくないので宿屋としては問題ない。
「天井があるっていいなあ」
部屋についたアーニーは、天井を見上げながら言った。
「天井あるって本当に素晴らしいですよね。——低ければ低いほど安心します」
「ああ、天井がなかったり、あまりに高すぎる天井はごめんだ」
しみじみという二人。二人とも外套は外している。
「ところで、ここに着くまでに話した疑問だが。——何故俺が旅立つと分かった? 本当に偶然か」
「違いますね。——私もSSRになったんですよ」
ウリカは意味深な笑みを浮かべる。
「も?」
「アーニーさんの組合での出来事は聞きましたよ。光り輝く演出で何も出なかった、と。だから、SSRになっていると踏んだのです。突然SSRになったら、活動しにくいですよね」
「これで合点がいったよ。その通りだ」
アーニーは合点がいった。いきなりSSRになったら、
「即効果が現れたものじゃないからな。どれぐらいで引いたんだ?」
後ろめたい表情をして、ウリカはそっと視線を逸らした。
「ウリカ?」
「……一枚で」
「え?」
「報酬がわからない表記だったので、お試しで一枚引いて、出ました……」
ガチャSSR一枚抜き。
あり得ないその奇跡。とは言い過ぎでたまに聞く。稀によくあるヤツ、という。
アーニーも思うところはあったが、自分も10連でいきなり引いている。その後の消費は自業自得であることは理解している。
「おめ?」
「あ、あり?」
そして二人で見つめ合い、二人とも笑い出した。
ガチャの結果報告ができる関係というものは素晴らしい。
「SSRになってスキルが六種類選択できるようになったことは、本当に生まれ変わったみたいでした。SSR専用スキルなんて、なにこれチート? みたいな」
「わかる。俺はスキルが二つだったからな」
「私は三つでした。使えないヒーラーから、どこまで成長できたか不明ですが……」
ウリカは自分のギルドカードを取り出した。
「ん? みていいのか」
「アーニーさんは見せてくれたではないですか。信頼されているみたいで、あれ結構うれしいんですよ」
「普通の冒険者は見せないからな。——では失礼して]
カードを覗き込む。
職業欄を見て、アーニーが驚愕する。
「君はマナヒーラーなのか」
「はい。まだまだ未熟ですが」
「MP回復特化の術士。パーティでひっぱりだこな」
最初に出会った場面を思い出す。
強引に連れていかれた理由もわかった。低レベルのマナヒーラーでもMP節約になるのだ。
言語道断な話ではあるが。
「しかし通常の回復能力は劣りますから、あんな目に遭います。低レベルだとHP維持のほうが重要視されますしね」
「俺としては助かるが…… 相方が俺でいいのか、と聞きたくなる」
マナヒーラーはそれぐらいパーティでは人気がある、超需要職なのだ。
MP回復が可能な職などレッド・ウィザードやバードぐらい。
低レベル冒険者ほどHPが重視されるが、高効率PTが多くなる高レベル帯の冒険者ではMP管理が問われる。
「あなたと旅したいのです」
ウリカの迷いのない瞳に、アーニーは気恥ずかしくなり目を逸らした。
「多分だが相性は悪くないはずだと思う。燃費が悪いから頼りにしているよ」
「はい。明日が楽しみです」
本当に楽しそうに、ウリカは微笑んだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
(——すごい)
ウリカは内心舌を巻いていた。
アーニーは予想以上に強かった。いや、出会うときも十分強いと思っていたが、SSRになった彼は別物になっていた。
(これなら、二人でいける。どこまでも)
確信を持ってそういえた。
「しばらくはペアになりそうですね」
「SSR二人組ってそういないしな」
「まさか自分に制限問題がでるとは思いもしませんでした」
「俺もだ」
二人が話している内容は、冒険者組合の制限だった。
パーティを組む場合、ソウルランクによる編成制限がかかるのだ。
冒険の難易度によって編成のソウルランクは違うが、低レベルの場合はソウルランクの合計が12が目安である。ソウルランクが4の者の場合は3名、3の場合は4名が人数制限である。
これは高レア同士のものたちが集中することを防ぐためであり、低レアの冒険者の育成機会を増やすためでもある。ソウルランクは上がるのだから。
編成制限でソウルランクがSSRのソウルランク6二人より、ソウルランク6が一人にRの3二人やソウルランク2が六人のほうが成功率は高い。
過去、冒険者がSSRだらけになったための反省処置と言われているが、真偽は定かではない。
二人はソウルランクが6という破格の数字だ。二人だけで制限になってしまうのである。
中堅になれば16になるが、それなりの難易度のクエストになる。
依頼を受けるとき受付の人間が目を白黒させていた。王都であればそれぞれパーティ リーダーになって分かれて行動するよう指導が入るだろう案件だ。それだ、SSRは稀少なのだった。
「アーニーさん、道がわかっているかのように進んでいきますね」
人里を離れるほど強い魔物がいる。
アーニーは依頼の情報をもとに森を踏破していく。
ゴブリンに何度か遭遇したが、瞬殺だった。
「俺のクラスはある意味レンジャーの派生職みたいなものでね。森林でスキルが生きるんだ」
大きな段差を軽快に登りながら、ことなげにいう。
差し出された手をとり、ウリカは納得する。
「そうみたいですね。でも地下迷宮に住んでいたのでしょう?」
「住んではないぞ住んでは。——ガチャの石集めだ。仕方ない」
「ガーゴイルのレアドロップも魔霊石でしたね……」
段差を乗り越えたところで、アーニーの動きが止まった。
「……いるな」
「魔物ですか?」
「ああ、ここを登って一休みをしている冒険者を襲う……って手合いだ」
「ウリカ! 抵抗力上昇!」
「はい!」
アーニーの指示に従い、すぐさま魔法抵抗力を上げる呪文の詠唱に入る。
飛んでくる氷の矢。敵が森のなかに住む者だと分かった。火を使わないからだ。
凶悪な豚面の、人型の魔物——オークが四匹顕れた。短めの槍を持っている。
アーニーはすぐさまオークの前方に飛び出る。
地面を叩き付けて魔法を発動させる。
「【ペイン・サークル】」
閃光が広がり、オークたちが悲鳴を上げて、すぐさま睨み付ける。
低威力の範囲魔法だった。
低威力には低威力の使い道がある。
これで、モンスターたちの敵意を集めることに成功した。こうなれば、ウリカの危険度は減る。
四匹がアーニーに群がる。
敵の攻撃をことごとく受け流し、反撃に転じる。
一匹目は懐に入り、そのまま袈裟切りで仕留める。背後に回ってきたオークを流れるような動作で振り向きざま首を飛ばした。
唖然としているオークに向かい、長剣を突き刺す。オークが槍を捨て、長剣を掴んだ。
「そんなに欲しいならくれてやる」
柄を蹴倒し、さらに突き込む。3匹目のオークも絶命した。
最後の槍を構え突進してくる。短剣を引き抜き、流れるような動作で左脇をすり抜け、背後に立つ。
逆手に構えた短刀を頸椎に向かって振り下ろし止めを刺した。
「見物は終わりか。でてこいよ」
オークの死体から長剣を引き抜く。アーニーの声とともに、ひときわ大きなオークが現れた。
「予想通り——オークシャーマンか」
オークのなかでも特別な力を持つものがオークシャーマンだ。攻撃、支援、回復どれも使えるという。
オークシャーマンはアーニーの後ろ、ウリカのほうをみて下卑た笑みを浮かべる。ウリカは恐怖を覚え、そっと身構える。
ゴブリンと違い、オークやオーガ、ミノタウロス種は人間や亜人を使って繁殖する。
その中でも魔力が高いエルフや女魔法使いから生まれた種は、高位種のキングやシャーマンが生まれやすい。
数が増えると大きな勢力にもなりやすいため、積極的な討伐対象だが、亜人系モンスターにありがちなドロップのまずさ、そしてその忌むべき性癖から引き受ける冒険者は多くない。
また女性冒険者は討伐を避けるように冒険者組合からも告知がでている。
それでも被害が減らない理由は、その数の多さ、遭遇率の高さからであろう。
視線を遮るようにアーニーがウリカの前に立つ。
表情は極めて無表情だ。
オークシャーマンが魔法を唱えはじめた。
「遅い! 【マジックアロー】
アーニーが先にマジックアローを飛ばす。
オークシャーマンが慌てて障壁を張る。16本のマジックアローによって障壁はあっさり消し飛んだ。
「まだまだいくぞ」
「ブヒ?!」
さらにマジックアローを使い続ける。さらに16本のマジックアローを食らい、苦悶の声を上げる。
続けざま、マジックアローを2連続で放つ。さながらマジックアローの雨だ。
「死なないか。しぶといな」
冷たい声に、オークシャーマンがおびえた。
その参加を影が覆う。
頸椎に向かって、ロングソードを突き刺すアーニー。オークシャーマンは絶叫を残し、息絶えた。
「【ファイア】」
問答無用でオークシャーマンの死体を燃やす。
ウリカを狙ったことが許せなかったその八つ当たりだ。ウリカはそのことに気付き、内心頬が緩みそうになるのを必死に堪えていた。
「はじめて出会ったときも思いましたが 【マジックアロー】をあんな乱れ打ちできるとか。おかしいですよ!」
「俺はちょっと特殊でね。本職のウィザードならあれぐらい撃てるんじゃないかな」
「無理です!」
呆れた顔を隠さずにウリカが言った。
「でも、私のために怒ってくれて、守るために戦ってくれた、みたいな。うれしいです」
「……いこう」
照れるアーニーの後ろで、目映いばかりの笑顔で嬉しさを隠そうともしないウリカがいた。
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