第7話 閑話 神々(運営)はガチャを回してもらいたい

 神界。

 神が棲まう空間である。

 光柱が発生し、神が顕現する。

 いくつもの光柱が発生し、神々が姿を顕す。


 中央の威厳ある初老の男が宣言する。主神だった。

 気苦労が多いのか、髪型は後退しつつあり、M字型になりかけている。


「第46回運営会議を開催する」


 それぞれの神がうなずいた。


「ガチャによる冒険者強化。この方針は今でも変わらぬ」

「二千年前の召喚戦争は危なかったですね」


 この世界の成り立ちには、モデルとなる別世界がある。

 別世界の各地に伝わる神話、伝承、そして遊戯がこの世界に影響し、形作っているのだ。

 別世界の住人は依然としてこの世界に関与している。彼らの数と彼らのもたらす利益でこの世界は成立していると言っても過言ではない。


「そうじゃ。現実世界に伝わる神話のモンスターたちを召喚させ、術者たちを戦わせる。世界は滅亡し、異世界の術者はこの世界での肉体を失い、守護遊霊として干渉しておる」

「神すら飲み込むフェンリルと、世界を焼き尽くすテュポーン。あの2匹はもうホントに勘弁してくれ。誰だよ喚べるようにしたの」

「わしじゃ」

「主神よ……」

「あれは失敗だった。あとフェンリルの子供たちはもうすっかりこの世界に定着しておる」


 沈黙が降りた。


「そして世界に魔物が氾濫し、通常の人間では太刀打ちできない。ガチャによって冒険者たちを支援し、対抗させているわけじゃ」

「守護遊霊が落とすセイエンも、この世界の維持に必要ですからね」

「守護遊霊が興味を持ち、思わず冒険者たちを支援したくなるガチャを用意することが重要じゃ」


 神々は一斉にうなずいた。


 かつて召喚術者として活躍していた別世界の人間たちは、世界の崩壊によって干渉する手段を失った。

 再興しつつあるこの世界には守護遊霊として、冒険者を見守る守護存在に変わっている。

 彼らの意思はガチャを通じ冒険者に伝わり、世界の脅威と戦う術となるのだ。


 守護遊霊たちは端末と呼ばれる手鏡に、この世界を投影し観察しているといわれている。


「今回は前回に引き続き、封印された魔神をアドバイザーとする」


 天使たちにひきずられながら、一人に青年が奥から顕れた。

 青い肌に赤い瞳が特徴的な美青年だった。


「最近セイエンの回収が悪くてな。前回のガチャは魔神に手伝ってもらったが……抵抗を受けてSSRの内容を表示できなんだ」

「強制したくせに」


 憎々しげに言い放つ魔神。


「そのせいか、SSRになれるという破格なガチャだったにも関わらず、回収はいまいちじゃった」

「24時間限定にするほうが悪い」

「ちと世界の均衡を気にしすぎたかのう」


 主神はため息をついた。


「おぬしも以前はこの神界のメンバー。お主とてセイエンが必要であることに変わるまい。忌憚ない発言は許そうぞ」


 主神は寛大だ。


「お前たちのやり方は容赦が無い。何度も言っている。天井をつけろ」


 やれやれ、と主神は首を振る。


「できないといっているだろう。さて。常設のガチャと限定ガチャの話をしよう」


「再度、私の提案をご検討ください」


 美の女神が進言する。


「ふむ。ガチャのなかから冒険者を発生させ、仲間にさせるという案じゃな」

「ガチャから人間が生まれたら気持ち悪いわ!」


 魔神がツッコむ。


「そもそもガチャから人間が生まれてみろ。冒険者は神が生み出した存在だらけになるわ!」

「魔神の言うことももっともじゃ」

「ならわしの案はどうじゃ!」


 眼帯の神が前に進み出る。

 片志は義足。鍛冶の神だった。


「ガチャに武器を混ぜる。今でもやっておるではないか」

「あんな入門用初心者向けじゃなくてな。こう、ドラゴン特効やら魔神特効とかな!」

「さりげなく我を抹殺しようとするのやめてもらえません?」

「この案は悪くないと思うんじゃがのう。常設は強めの武器をSSRに入れておるじゃろ?」

「鳥頭の神々どもめ。武器や防具がガチャから出てみろ。冒険者は何を目的で冒険するのだ?」

「あ」


 神々も気付いた。


「ガチャか? 違うだろ? 未知のものがあり、一攫千金の宝が眠り、強い武具を入手するために冒険しているのだ。ガチャから入手した武器なぞ、運が良い引き自慢を生むだけだ!」

「魔神の言うことはもっとももじゃ」

「何より武器防具なんぞ、絵にならんし声もつかん。胸の大きい美少女がデーン! 華奢で中性的なイケメンがバーン! と七色に輝きながら出る。それがガチャの華よ。かといってそれをやると先ほどの問題点にいきつく。冒険者が神々の代理人になるだけだ」

「メタい発言するではない」

「失礼」


 主神は苦悩を隠そうともせず、深いため息をつく。


「いっそのこと、そこその冒険者をガチャにだして、その冒険者に武器防具を持たせたらどうだ」


 ひげ面の大男が言った。戦神である。


「神々にそこそこの性能に設定された冒険者が可哀想だぞ。武器防具目的で生み出される冒険者が可哀想すぎる」


 魔神が真っ向から反対する。


「不要な冒険者は戦争で間引きすればいいわ!」


 美の女神が手をぽんと叩きアイデアを披露する。

 

「我以上に不穏だよね、それ」

「スキルではどうだろうか。ガチャでスキルを入手できるようにするとか」


 旅人の神が聞いてきた。


「修行してないどころか経験したことがないことが可能になったら気持ち悪くない?」

「確かに……」


 いちいち正論を告げる魔神に、神々も手を焼く。


「こつこつやらずにガチャを回すだけの人類になってしまう」

「却下だな。さすがだ。魔神」

「ガチャを回してくれるだけでいいのに」

「なんてことをいうんだ! 美の女神!」


 恐ろしいことをのたまう美の女神に主神が動揺を隠せない。


「まったく蛮神には困ったもの。やはりここは使い魔的ペットでどうでしょう。マスコット的にもビジュアル的にもケモ耳系だせば……!」


 自然と豊穣の女神が提案する。


「使い魔システムは流行らんと何故理解できないのだ。冒険者は自分が強くなりたいのだ。使い魔で強くなりたいわけではない。どんなに愛らしい容姿でも結果的に性能でしか見られなくなるぞ、いいのか豊穣の女神よ。せいぜい回復ボット。それにビジュアル的にウリにならん」

「ボットとかいうなし」

「古いぞ主神」


 はっとした主神が口ごもる。


「何故魔神はそこまでビジュアル的なものにこだわるのか。あとボイスも」

「それに関しては、真実にございますから」


 主神の疑問に美の女神が答える。


「守護遊霊が生み出すセイエンは美とボイスが重要要素。守護遊霊たちが重要視する、萌えという価値観の一つでございます」

「萌えとか古くない? 推しとか今風の言い方が……」

「魔神は一言多い」


 美の女神は眉をしかめる。


「このまま放っておくと、神が無理矢理生み出した軍勢で守護遊霊が死に絶え、セイエンも供給し、世界が停止するわ」

「我々が創り出した人間には守護遊霊がつかないからな」

 主神も認めた。


「守護遊霊離れも最近加速しておる。正直ヤバイのよ」

「だからガチャに天井をつけろと」


 魔神がそういった瞬間、場の空気が凍った。


「黙れ! それが原因で神々に戦いを挑んだおぬしが言うとしゃれにならんわ!」


 激高した主神だったが、ため息をつき落ち着きを取り戻した。


「では魔神よ。天井をつけろと天界に謀反した魔神ではなく、かつての汝。——キャパシティの神として問う。守護遊霊が欲しがるガチャを」

「待遇改善を要求する」

「内容が良ければ確約してやろう。夕食後のデザートでどうだ」

「良いだろう」


 魔神がうなずいた。


「——冒険者だからまずいのだ。天使、悪魔、精霊などどれでも良い。冒険者と同じ能力を持つ【使徒】として送り出せば良い」

「同じではないか」

「使徒は冒険者付きにすればよい。冒険者個人の仲間だな」

「奴隷か?」

「違うな。【使徒】を奴隷にはできない。絆だな、絆とか運命ディスティニー的なエピソードクエストで紐付けし、絆がマックスになればケッコンし子孫を残せるようにすれば良い」

「またメタくさいことをいう…… 絆を構築できないような冒険者は使徒を授けるにふさわしくない。離反させるようにするという手もあるな」

「手に入れた冒険者離反など、守護遊霊離れが加速し売上はかなり下がるが良いのか?」

「その案没ね。――【使徒】を浸透させるにはかなりの時間が必要だぞ」

「きわめて強力な【使徒】を直接レンタルも導入すればよい」

「は?」

「セイエンで貸し出せというのだ。仲間になる冒険者タイプの【使徒】。ソウルランクの制限も受ける。これは皆もわかるな」

「うむ」

「貸し出しタイプの説明をしよう。強力な【伝説の使徒】の場合は、制限なしで冒険者サポート。ガチャで入手済だと一日一回魔霊石一つ。直接レンタルだと大魔霊石一つで5日とかな」

「……恐ろしい男よ。魔神は。守銭奴神と名前を改めてもいいぞ」

 

 主神の顔がひきつっていた。


「戦力を純粋なセイエンで売り出すということですか?」


 自然の神が問う。


「そうだ。所有はさせない。あくまでレンタルだ」

「ひぃ」


 セイエンを回収させるのに、所有はさせないのだという。その発想に彼女は恐怖した。


「はずれが【使徒】だらけになるも問題だ。アイテムもいる。高性能の武器防具ではなく、その核となる素材をガチャに導入すれば恒常ガチャもにぎやかしになるだろう、素材は冒険者に回収させろ。排出するアイテムは核で良い」

「その手があったか」


 鍛冶の神もうなずく。


「最後に術式を載せた文様だな」

「文様?」

「現在武器と防具、そしてアクセサリ類だ。それに加え、魔法的な保護を施した紋章で冒険者を底上げすればよい」

「例えばどのような?」

「スキル効果を持つものでもいいし、能力を底上げするものでもよい。アイテムと違って術式文様はガチャでしか入手できないようにすればよい」

「それだ!」


 主神が飛びついた。


「さすがは、かつては、ということじゃのう。おぬし、天界に反逆したわりには協力的だしの」

「我も人間と守護遊霊がいなくなる事態は困るからな。——デザートは頼んだ」

「わかった。天使たちよ。連れて行け」


 身振りで天使に指示を送り、魔神はまた連れ出された。


「くくく。これで次のガチャは皆、目の色変えて回すわい」


 主神とも思えぬ悪い顔をしていた。


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