第5話 あなたと一緒にガチャしたい!
町の中央広場にまできて、アーニーは立ち止まった。
人がまばらに往来するなかで後ろを振り返る。
「俺に何か用か?」
尾行されていることには気付いていた。
「お姿を見かけまして。アーニーさん」
外套をかぶった人物。折れそうなほど華奢な体付きは少年のようにも見える。
皮鎧に小剣で武装している。冒険者だ。
どことなく見覚えがある。
「以前、石竜の迷宮で置いていかれたところを助けていただいたヒーラーです」
「ん? ああ、半年前の……」
彼は迷宮でよく人助けはしている。置いていかれたヒーラーは珍しいので覚えていた。
「改めて名乗らせていただきます。私の名はウリカ。以前は名前も聞いてくれなかったですからね」
「おかしな状況で女性に貸しを作りたくなかっただけだ」
「気遣い上手なんですね」
「余計なトラブルに巻き込まれたくないだけだよ」
ややうんざりした口調に、ウリカがクスっと笑みを漏らす。
何か過去にあったのだろうか。
「大切なこと、たくさん教えてくれました。そして命も。返せない程の借りです」
「大げさだ」
ウリカは
「私には守護遊霊の加護がありません。復活魔法対象外なのです。あのままだと終わっていました。決して大げさではありません」
「まあ、なんだ。あまり気にされると困る。それに、どうやら礼だけではなさそうだ」
彼にとって貸しに入らない出来事だ。命があって感謝してくれるなら、それでいい。
「今日はお礼と、お誘いです。たまたま冒険者組合に、アーニーさん指定で依頼を出そうと思ったら、明日には出られると聞いて。探しました」
「タイミング悪かったな。その通り、町を出る」
「よかった。町に出る前に話しかけることができて」
「俺に用なんて思いつかないんだが……」
アーニーは基本、冒険者組合の冒険者とは接点がない。
ソロ専であり、他人にあまり興味がないからだ。
「行き先は決まっていますか?」
「いや、まだだな」
まず町を出る。そして迷宮の多い町へ移動しようとしていたのだ。
「——私と一緒にタトルの大森林へ行きませんか」
ウリカが切り出した。
「遙か昔、古代魔法帝国があったとされる大森林か」
アーニーも聞いたことがある。
かつて魔法帝国が栄えたが、神の怒りを買い一夜にして崩壊。大森林が発生したと言われる地。
魔神が封印されているとも言われている。
しかし、近年あまたの迷宮、遺跡が眠っているとの話が広がり、各国が森林の周囲をこぞって開拓し始めているという。
強力なモンスターが徘徊し、それなりの軍備もいる。
それが仇となり、遺跡や開拓地を巡って、町や砦同士の紛争まで勃発しているようだ。
「かなり遠い場所ですが、攻略する価値のある迷宮があるのです」
「しかし、その迷宮は二人で攻略できるようなものでもないだろう?」
彼女の実力はわからないが、二人で迷宮は厳しい。
「戦力不足なら、現地で仲間を探すという手もあります」
「それは別にいいが…… 何故俺なんだ。俺のことを探していたなら、俺の噂も聞いているだろう」
自分がこの町の冒険者の中では有名人という自覚はある。
「もちろん知っていますとも。無類のガチャ好きと」
ウリカも知っていたようだ。肯定する。
「効率のためにいつも一人さ」
本当は別に理由があるのだが、そういうことにしたほうがいいのだ。
「そんな変人に声をかけるなんて、酔狂にもほどがある」
「酔狂でも物好きでもありません。ちゃんと理由があるんですよ」
「理由?」
ウリカの口下に笑みが浮かんだ。
「理由。——あなたと一緒にガチャしたい!」
「ん?」
「あなたと回したいガチャがあります。それが誘う理由です」
アーニーが固まった。
「理由になりませんか?」
「なるが…… 告白?」
そんなわけはない。わかっている。
ガチャ廃にそんな話を持ちかけるなど告白と同じであるだろうとアーニーは悪戯心を起こしたのだった。
「なんでそうなるんですか!」
見る見るフードから垣間見える顔が紅くなるウリカ。
「破壊力ありすぎだろ」
「え、あ」
ウリカの外套から覗かせる口下部分が真っ赤だ。
「まあ。そこらの解釈はお任せします。強い否定はしませんです。はい」
かなり慌てている。
「冗談だ。落ち着け」
こんな美少女がいきなり告白してくるわけがない。
アーニーも自分を理解している。そこまで接点もない。
「えっと……それはそれで不本意です」
何故か抗議された。
「ウリカ?」
「うー」
ウリカの語彙力が低下していく。
「それはともかく。アーニーさんは教えてくれました。私が一緒に冒険したい人と。もしくは私と一緒に冒険したい人を。私は貴方と一緒に迷宮を攻略したい。だから私はアーニーさんを……」
「わかった」
自分の言ったことは覚えている。彼女がアーニーと冒険したいなら、それは十分な理由だ。
「いいんですか?」
「俺が言ったことだからな」
必要といってくれる人と一緒にいたい。彼の本音だった。先のことは分からないが、一緒に旅をするぐらいはいいだろう。
ガチャしたいと言ってくれた人間など、今までいなかったのだから。
「ありがとうございます。では話しましょう、目的の地のことを」
ウリカは外套を脱いだ。
輝くような金髪が舞う。細い顔立ちの美しい少女がそこにいた。
セミロングがよく似合う、幼さが残るも透き通るような肌の白さが印象に残る。
——そして目を引く、紅の瞳孔。見る者を魅了する、強い意志。
「魔神の末裔たる、一族に伝わる迷宮の話を。この瞳が、その証拠なのです」
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