第4話 目を覚ましたらSSR!
アーニーは床から身を起こした。
違和感に気付く。体が発光しているのだ。
「ん?」
体の奥から力が沸いてくる。こんなことは今までなかった。
発光は体だけではなく、懐もひときわ強く光っていた。光源に心当たりはある。
取り出すと、ギルドカードが輝いていた。
「なんだこれ……」
ギルドカードの内容が、見慣れないものになっていた。
自分の☆の数が五つ。ソウルランクがSSRになっていた。
「俺がSSRだと!」
アイテムでもなく武器でもなく自分の存在が変わっているのだ。驚くに決まっている。
表面でパラメータを確認して愕然とする。敏捷と精神が人間離れした数値になっていた。職の影響だろう。
裏には【職業技能】と【能動発動技能】と【常時発動技能】が記載されている。
「ガチャの当たりは、アイテムではなくて俺自身の覚醒、ということか」
自分の身に起きたことを検証する。
「噂に聞いていたが、
ソウルランク——またの名を
一般人は大抵☆1つのコモンである。☆2のアンコモンは100人に40人ぐらい。☆3はレアというだけあって100人に10人前後。☆4のスーパーレアに至っては100人に3人いるかどうかだ。
この☆の数が重要で、☆の数だけ所得できる技能が制限される。
☆2の場合、【
ソウルランクは上げることは可能である。王族のキングやプリンス、騎士団長、聖女などレア職のものはソウルランクが上がると言われる。
冒険者でも上位職になるとソウルランクは上がる。
そして☆5のSSR——ダブルスーパーレア。口語ではエスエスアールとも呼ばれている。百人に一人もいないといわれる能力を秘めた冒険者。
ソウルランクが5ではなく、6。各種6個のスキルを一気に獲得できる。
「——参ったな」
喜んでばかりもいられない。
大いなる力は大いなる責任を伴う。
SSRの力を持つことは、それだけの成果も期待される。義務はない。罰則もない。
力を期待され、嫉妬され、権力の陰謀にさえ巻き込まれる可能性もある。
「しかし、これで…… 俺が持つ【壊れ】の体質も」
アーニーがガチャを回し続けた理由。
ソロ専門にならざる得なかった理由。
SSRになったことで化ける可能性が出てきたのだ。
「長かったな」
別に冒険者生活が終わるわけではない。ただ、実感だった。
「ということは、最初の10連でSSRを引いていたってことか」
大量のアイテムの山をみながら、アーニーは結論を呟いた。
「って、わかりづらいんじゃー!」
一人絶叫した。
無理もない。大量の魔霊石追加によるガチャ。
守護遊霊のセイエンも無限ではない。むしろセイエンを投入しない守護遊霊のほうが多数派といえる。
「しかし、この体質はまずい。早めに町を出よう。そしてそれに伴う問題について、だ」
あぐらを組んで顔を覆う。目の前の大量のアイテムについてだ。
ガチャのハズレです、と主張するような消耗品の山。
もちろん使えるものも多いのではあるが。
「仕方ない。売って減らすか」
嘆息は尽きなかった。
その後アーニーは外に出た。まずは冒険者組合だった。
「珍しいですね。こんな早朝に」
受付嬢から声をかけられた。
「この町をでようと思ってね」
「え?」
「借りている宿舎の返却手続きをしたい」
「あ、あのアーニーさん?」
「ん?」
「早まっちゃだめです。生きていればきっといいことがあります」
受付嬢は真剣だった。目が笑っていない。
「ん?」
かみ合わない話にアーニーが混乱している。彼に対して受付嬢は決死の説得を試みているのだ。
「確かに超レア演出きたあとの何もなし。爆笑も——大変辛いと思います。ですが覚悟を決めることはないじゃないですか」
受付嬢は必死の説得に入っていた。
「今爆笑ものって言いかけただろ」
「気のせいです」
外套の陰からみえるアーニーの冷たい視線に咳払いでごまかす受付嬢。
「覚悟を決めるってなんだよ。待て」
「いいえ! 待ちません! ガチャ爆死で身辺整理ですよね?」
通行人がこっちをちらちらみる。
別の意味でこの町にいられないかもしれない。
「だから違う!」
「本当ですか?」
「ああ。早く手続きを頼む」
ガチャ爆死で自死を選ぶと思われていたとショックを受けるアーニー。
目当てのもの?はでているので、爆死ではない。問題点はそこではないのだが彼は気付かない。
その後の回した回数は推して知るべし——
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
次にアーニーが向かった先は、ポーション類の店だった。
20代前半の、黒帽子の黒外套姿の見るからに魔法使いのような女性がいた。
丸顔でぽっちゃり。愛嬌がある顔立ち。
「アーニー。来ると思ってたよ」
「もう聞いているのか。ポーラ」
彼女にはガチャのはずれを毎回買い取ってもらっている。間違いなくこの町で一番の常連だ。
彼女はこうみえて、A級冒険者なのである。優秀な魔法使いだ。
実家がこのポーション屋のため、アーニーは彼女が子供の頃からの顔なじみになる。
「どうせ帰宅したあとも回したんでしょ? 毎度あり」
にしし、といたずらっぽく笑う。
「毎度ありは俺のほうだが」
「貴重なガチャ産ポーションを大量に仕入れできる。それもみんなはガーチャー様のおかげでございます♪」
「せめてアーニー様っていってくれよ」
「はい♪ アーニー様♪」
声が弾んでいる。
苦笑しながら大量のポーションをカウンターに並べる。
さすがの量にポーラも目を白黒させる。
「こりゃまた回しましたね」
「ざっと査定してくれたらいいぞ」
「了解でございます♪」
提示された金貨の数に内心びっくりしながら、査定金額で取引に応じた。
「まいど!」
「おう。世話になったな。明日にはこの町からでていくんだ」
「え」
上機嫌だったポーラの顔が一気に暗くなる。
「なんで。冗談……だよね」
絞り出すような声だった。
「お前まで俺が爆死で俺が自殺するって言うんじゃないだろうな」
「いわないわよ! 縁起でもないこといわないで!」
悲鳴に近かった。
「ああ、すまない」
「あてはあるの? どこいくのよ」
「まだ決めてないな」
「そんな…… 急すぎるよ……」
「すまんな。急に仕入れ減って困るだろ」
「……ばか」
「そんなに怒るなよ」
「そうじゃないって。わかんないの、ばか」
アーニーはさっぱりわからない。
「はあ。……もういいわ。せめて、私を友人だと思ってくれるなら落ち着いたら手紙ぐらい出しなさいよね」
「わかったよ」
「約束だからね! 破ったら、呪いの毒針千本飲んでもらうからね!」
本当に針の束を手に持って、見せつけるポーラ。顔はちょっと泣き笑いだ。
頷いて、背を向け店を出ようとするアーニー。
立ち止まった。
外套を引っ張られている。
うつむいて、外套を握りしめているポーラがいた。
「本当に連絡しなよ」
表情は帽子で見えない。
「約束する」
「……うん」
ポーラが手を離す。
「……いってらっしゃい」
「いってきます」
いってらっしゃいと声をかけてくれる人がいる。
それだけでも、この町にいて良かったと思えた。
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