それは兵器。
夕日ゆうや
そいつは戦場を血で汚すもの。
俺は油の染みこんだ衣服を着込んで、そいつの目の前に立つ。
「できたか? 佐藤」
「はい。五十センチ砲B2マグナム。開発コードらしくなってきました」
「しかし、なんでカップ麺の形をしているんだ?」
半球が潰れたような形をしている。まるでカップ麺の形そのままだ。
大きさは直径約五メートルほど。中にはコクピットが備わっている。
ヒッグス粒子の応用により反重力装置の開発。耐熱タイルによる装甲強化。
今までの銃弾では耐えられなかった爆発も新素材のために強化されている。つまり、より強力な銃弾が撃てる、ということだ。
「それより、こっちをみてくださいよ。相羽先輩」
「ああ。どうだ?」
俺は佐藤の案内でカップ麺の下に潜る。
「なるほどな。圧着がうまくいってないな。工具を」
すっとさしだしてくる佐藤。
手にした圧着工具で強めに抑え込む。
「一度、全部を点検し直す必要がありそうだな」
「うへ~。骨が折れそうです」
「しかたないだろ。こいつを戦場へ送るにはしかたのない話だ」
戦場。
我々は北と南とで対立を深めている。
そのきっかけになったのが〝雨樋爆破事件〟。
保守派が大事にしてきた雨樋を、あろうことか破壊してしまう改革派。
確かにそれぞれの価値観の中で、いろんな人がいるのは知っている。
だが、市民を守るのが軍人の勤め。
この最新兵器で俺は戦争を止める。
保守派の代表になった覚えはないが、この国の文化を大事にしていきたいとは思っている。
考えながら作業をしていると、佐藤が口を開く。
「そこの回線切れてません?」
「ああ。そうだな。これでは動くものも動けんぞ」
俺は切れた回線をつなぎ合わせる。
「どうだ? 東山。出力は安定したか?」
「いえ。まだです。粒子放出、最大二十パーセントです」
反ヒッグス粒子の放出量が少ないのは誤算だった。
しかし、
「それなら粒子タンクの増設をしないといけないな」
さっそく内部に取り付け作業が始まる。
ライトアップされた赤い機影には見覚えがある。
ここまで五分かかった。カップ麺ができる時間だ。
それもこいつと同じ赤いきつねだ。ペイントも真似てみた。
「開発コードで呼ぶのも味気ないな。こいつは〝赤いきつね〟。戦場を血の海に変える兵器だ」
そのそばで緑のたぬきをすする佐藤。
「うまいですよ? 先輩もどうです?」
「ああ。いただくよ」
それは兵器。 夕日ゆうや @PT03wing
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます