第47話 打開策②
こんなになってまでもまだ昴に尽くそうとする明里。
太一はそんな明里に納得できなかった。
「どうして? どうしてそこまでするの? 明里はもう充分昴のために頑張ったじゃないか?」
「太一なら、私のために自分の想いを諦めてくれた太一なら、私の気持ちを分かってくれるでしょ?」
「ぅっ……その言い方はずるいよ明里」
「ふふ、ごめんね太一。でも、太一が自分の気持ちを諦めたのだってそういうことなんでしょ? なら太一に私を止める資格はないし、私の気持ちを誰よりも分かってくれるはずだよ」
真剣な表情の明里にそう言われて、太一は黙って頷いた。
太一は本気で明里にもう無理をして欲しくないと思っている。それは、昔から明里のことを想っていたから。
そして、そんな明里もずっと昴のことを想ってきたからこそ、限界を迎えても無理をし続ける。
本質は同じ。
そう言われてしまえば、太一にもう返す言葉はなかった。
「だから協力してほしいの。太一の気持ちを利用するみたいで最低ってことは分かってる。けど、それでも私は昴のために何かしたい」
「……わかったよ。明里の決意が変わらないなら明里に協力する。僕はいつでも明里の味方だから」
「うん。ありがとう、よろしくね太一」
太一は明里の説得を諦めるしかないと理解した。
それだけ明里の昴への想いは軽いものではない。
健気な明里は、たとえ自分がどんなに傷つこうとも、昴のために行動し続けるのだろう。
太一にできることは、せめて明里の負担を少なくしてあげるくらいのものだ。
自分ではそんなことしかできないのかと、太一は拳を握りしめた。
どうにかしたい。明里をこれ以上傷つけないためには何をすればいいのだろうか。
そう考えながら太一は握っている拳に力を入れ続ける。
力の込めすぎで掌が赤くなってきたころ、明里がそっと手を重ねて来た。
「あのね、昴は太一と付き合うなんて女として最悪だって言ってたでしょ?」
「……うん。僕なんかが相手だと、それはそうだよね」
「そんなことないよ。昴のあの言葉だけは私は同意できないもの。こんなにも優しくて、真摯に私の事を思ってくれる太一は、ちゃんと魅力的だよ」
太一は肩に重みを感じた。
気が付くと明里が寄りかかってきて肩に頭を乗せている。
「私、初めて付き合った人が太一でよかったよ」
太一の心臓が大きくはねた。
むりもない、初恋の相手から寄りかかられているのだ。
肩に明里の体温を感じ、太一の身体にも熱が戻って来た。
空の下でしばらくそのままでいたというのに、太一は寒さを感じなかった。
それから、太一は明里を送ってから家に帰った。
部屋に閉じこもった太一がグルグルと考えてしまうのは明里のこと。
何とかしてあげたいけれど、何もできない。
そもそも明里の決意が変わらないのだから応援するしかない。
それでも、無理をしている明里が心配になる。
そんな堂々巡りに太一が陥っていると、ベットに放り投げていたスマホが振動した。
『駅裏のカラオケにいるから』
『待ってるから、絶対来てね』
それは由貴からのチャットだった。
あんな別れ方をした以上、もう由貴から連絡が来ることはないと太一は思っていたのだが、どうやらまだ見限られてはいないらしい。
太一は上着を掴んですぐに家から飛び出した。
「待たせてごめん!」
「へーきへーき、って汗すごいじゃん太一! 早く拭かないと風邪ひいちゃうよ」
「だ、大丈夫だよ、これくらい自分で拭くから!」
由貴から送られてきた集合場所は何度か一緒に行っていたカラオケ店の個室だった。
一度家に帰っていて、かなり由貴を待たせてしまった太一は内心怯えていた。
だが由貴はいつも通りの明るさで迎えてくれて、太一はホッと胸をなでおろした。
「ていうか、今日は来てくれないと思ってた」
太一がハンカチで汗を拭いていると、顔をそらした由貴が不意に呟いた。
「それは、僕の方というか……あんな帰り方をしちゃったから、もう連絡はもらえないと思ってたよ」
「ふ、ふ、ふ~。私は優しいからね~。感謝してくれてもいいけど?」
「え~と、ありがとうございます」
「よろしい! 許してあげましょう」
明るく笑いかけてくれる由貴が気を遣ってくれていることくらい、太一にもすぐに分かった。
由貴はソワソワしている自分の身体を押さえつけるように腕を抱き、いつも通りを演じてくれている。
本当ならすぐにでも放課後のことを話したいのだろうに、そうして待ってくれている由貴から、太一は温かい優しさを感じた。
「あのね由貴さん、聞いて欲しいことがあるんだ。放課後のことと、それに関係する今までのこと全部」
太一は由貴から連絡をもらい、ここまでやってくる間ですでに心を決めていた。
昴の作戦で明里と無理やり付き合うことになってしまったことを由貴に相談し、助けを求めようと考えたのだ。
無理やりとは言え、自分の初恋の相手と恋人になれたことに少しでも嬉しさを感じてしまった自分を太一は許せなかった。
本当に明里のことを考えているのなら、無理やり好きでもない男と付き合わされることになってしまった明里のために動くべきだったのだ。
太一はここに来る前に泣き崩れた明里を説得したが、明里には聞き入れてもらえなかった。
自分が傷ついても昴のためならという明里の意志は想像以上のもので、とても尊いものだとは思いつつも、太一としてはやはり明里にはこれ以上傷ついて欲しくなかった。
あんなに泣いた明里を太一は初めて見たし、それくらい明里の心はもう限界を超えてしまっているということだ。
だからこそもう居ても立っても居られなかった。
昴が惚れている相手の由貴に相談し、その由貴の言葉なら暴走している昴も聞いてくれるのではないかと、そんな他人任せな事を思いついたのだった。
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