第37話 諦めたはずだったのに③
一方、太一の話を聞いていた由貴はといえば、割とすぐに険しい表情を消して、いつもの様子に戻っていた。
あまり気にしていなさそうな由貴の様子を見て、太一は自分がそこまで気に入られていたわけではないのかもしれないと思った。
自意識過剰だった事への恥ずかしさと、胸を締め付けるような寂しさを同時に感じていた太一。
だが、由貴から返ってきた言葉でその全てを吹き飛ばされることになった。
「なぁんだ。じゃあこれからは、そんなの気にせず遊びに行けばいいじゃん」
由貴は事も無げに、そう言い放ったのだ。
「いや、それは無理だよ」
「どうして?」
「どうしてって、それは……」
「その友達に遠慮してるの?」
「……まぁ、そんな感じ、かな」
「そうすると、そのお友達が私のことを聞いてたのは、私を狙ってるからってことなわけだ?」
ここまでくると太一頷くしかなかった。
好みのタイプや彼氏がいるかどうかも聞いているのだから、今更それを否定するには苦しすぎたからだ。
「じゃあ私はその人のこと嫌い。告白されても断ります! はい、これでおっけーでしょ? じゃあ遊びに行こ?」
「ちょ、ちょっと!?」
いきなりの爆弾発言をされて慌てる太一だったが、由貴はおかしそうに笑っている。
太一が呆気に取られて何も言えないでいると、近寄って来た由貴に腕を組まれた。
「太一は友達が私のことを好きだから遠慮してるんでしょ? だったらもう遠慮する必要ないよね? だって私にはまったくその気がないから、その人の気持ちは無駄なんだもん」
耳元でささやかれて太一は震えた。
そのまま頷いてしまいそうになるも、太一は最後の力を振り絞って由貴から離れる。
「それでもダメだよ! 僕はもう上埜さんとは一緒に遊べない」
「どうして? 太一の友達が告白してきても無駄なんだよ? 初めから結果が分かってるんだから遠慮しなくていいのに」
「でも、上埜さんは僕の友達が誰か分からないでしょ? 凄いイケメンだったら気が変わるかもしれないじゃないか。もしかしたら凄く相性がいいかもしれないよ? だから何があるか分からないし、僕は友達の邪魔にならないようにしたいんだ」
「ふ~ん……じゃあ太一はもう本気で私と遊ぶ気はないわけ?」
「うっ……そうだよ」
太一は由貴の目を見て言い切った。
少し言葉につまりながらも、それでも昴への、まるで忠誠心のような友情を優先した。
だが――
「なら、私はその人に告白された時、あんたのせいで太一と遊べなくなったから嫌い、って言っちゃおっかなぁ?」
「え?」
――太一の決意を聞いた由貴は、その顔に意地の悪い笑みを浮かべていた。
ニヤニヤと笑っている由貴と目が合った瞬間。太一はそれが冗談でもなんでもないことをすぐに理解した。
由貴は本気でそう言って断るつもりなのだ。
「そんなことできるわけない! だって上埜さんは誰が僕の友達かわからないじゃないか! たまたま告白してくる人もいるかもしれないんだよ?」
「もしそんな人がいても、全員に太一と遊べなくなったからって言ってみればいいんだよ。反応見れば誰が当たりかなんてすぐわかるって」
「やめてよ! そんなことされたら、僕はもうその友達と一緒にいれなくなっちゃうよ!」
「別にいいんじゃない? その友達って他のクラスなんでしょ? 太一にはほら、仲良しのお二人がいるじゃん」
「いや、それは、そうだけど……」
由貴はそう軽く考えているようだが、それは太一の嘘を信じているからだろう。
本当はまさかその仲良しの一人が由貴を狙っているとは思っていないはずだ。
太一は本当に困っていた。
由貴とこれからも遊ぶならば、明確に昴を裏切ることになってしまう。
かといって、昴の言う事を聞いて由貴と距離をとれば、今度は由貴がそれを理由にして告白してきた人を全てふるというのだ。
もし昴が告白した時にそんな事を言われたら、間違いなく不味い事になる。
だからと言ってまた由貴と遊んでも状況は変わらない。どちらにしても昴からは恨まれてしまうだろう。
今日は朝から由貴との関係で昴とごたごたがあり、太一にとっては精神的な負担が続いていた。
さらに追い打ちをかけるように、由貴からこんなことを言われてしまった太一の精神は疲れ切っていて、もはやまともに判断する力もなくなりつつあった。
「とにかくダメだよ! お願いだからそんなこと言うのはやめて!」
由貴と距離をとらなければ、昴を裏切ることになってしまう。
初め太一は昴の言う事を聞いて、大人しく由貴と距離を取るつもりだったのに、由貴が太一と遊べなくなったことを理由に昴をふってしまえば、太一が身を引く意味もない。
昴の言う事を聞いて由貴と距離を取るか。
それとも由貴に従ってこれからも一緒に遊ぶことにするのか。
必死になって考えたところで、今の追い詰められた太一にはどうすればいいのか解決策など思いつきもしなかった。できることは、ただ由貴に懇願するだけ。
「上埜さん、お願いだよ」
「え~どうしよっかなぁ~。私はさぁ、そのお友達のせいで太一と遊べなくなりそうで結構怒ってるんだよねぇ。これでも太一の前だから抑えてるんだよ? あぁでもダメ、考えるだけでもイライラしてくる。そいつのことグチャグチャに貶してふってやろうかなぁ」
「ダメだよ! そんなこと止めてよ! お願いだから、僕にとって本当に数少ない友達なんだ。お願い、何でもするから」
太一が必死に頭を下げると、由貴は口角を釣り上げて笑い、それから満足そうに頷いた。
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