第29話 二人だけの秘密④


「まぁ私は何を言われても気にしなかったから、今でもこんな感じだけどね」

「あはは、うん。それでこそ上埜さんって感じだよ」


 ひょんなことから由貴の意外な過去を聞いた太一。


 重い内容のはずなのに、由貴は包み隠さずにすべてを話してくれた。


 こんなことまで教えてくれることに、太一は由貴との仲がより深まったような気がして少し嬉しかった。


「あ、そろそろホントに出ないとね」

「おっけ~……そうだ! ちょっとこっち来て太一」

「なに?」


 太一は手招きをされて由貴に近づく、由貴はポンポンと自分の隣の席を叩き、太一にも座るように促してくる。


 太一が大人しく従って隣に座ると、由貴に肩を組まれて身体を引き寄せられた。


「ちょっと上埜さん!?」

「太一の初めて記念にさ、二人で写真撮ろうよ」


 由貴はそう言って太一に密着したままスマホを構えた。


 由貴の横顔が太一の顔にくっつくほど近くにあり、頬には由貴の髪があたっている。


 サラサラの髪が撫でるように頬を滑るのがくすぐったく、身体にはいろいろと意識してはいけない感触が伝わってきて、太一は固まって動くことが出来ない。


 しかも、由貴はスマホの画面を見ていて気にしていないようだが、真横にいる太一には由貴のあいている胸元が丸見えだった。


「ほい、撮るよ~」

「……」

「……おっけ~。いいんじゃないこれ?」

「……」

「どれどれ……プッ、ちょっと太一!?」

「へ? な、なに?」

「ほらこれ……ちゃんとカメラ見ないと、いったいどこ見てたのかなぁ?」

「……ぁ」


 由貴が撮った写真には、顔を赤くしながらもじっと由貴の胸の谷間を覗き込んでいる太一の姿がしっかりと映ってしまっていた。


「いや、これは、あの」


 もはや恥ずかしすぎて頭が回らない太一。


 それでも何とか言い訳をしようとするも、実際に由貴の胸元を凝視している自分の姿が写真に収められているのだから、どんな言い訳をしても無意味なのだった。


 どうしてこれから写真を撮るというのに、自分はこんな事をしてしまったのかと後悔する太一だったが、今更もう遅い。


 精神的に追い詰められた太一はもう謝ることしか考えられず、地面に手をついて頭を下げた。


「……本当にごめんなさい!」

「アハハ、そんなに慌てないでよ! 別に私は怒ってないんだから」


 どんな罵声や罵倒を言われてしまうのかと怯えていた太一は、心底おかしそうな由貴の声に驚いて顔を上げた。


 そう、驚いて顔を上げた。


 だからそれを見てしまったのは、本当にわざとではない。


 顔を上げた太一の目の前には、ほどよい肉感の太ももと、その間に開かれたスカートの中身が広がっていた。


「……」

「……何色だった?」

「ッ! ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」

「アハハハハハ! もう! 太一慌てすぎだから」

「ごめんなさい。今のは、いや今のも本当にわざとじゃなくて!」

「ちょっと揶揄っただけだから、そんなに慌てさせてむしろごめんって」

「あの、写真のも、なのというかつい、ごめんなさい」

「いいのいいの。それだけ私が太一には魅力的に見えるってことでしょ? なんならもっと見てもいいよ?」

「あの、ホント許してください」

「ふふ、太一はホントかわいいなぁ」

「……あれ?」

「どした~?」


 どうやら由貴に嫌われなくて済んだらしい太一は、少しほっとした時に、何か違和感に気が付いた。


 今日、いつからだったかどうにも引っかかりを感じていたのだが、それが今になってはっきりとしたのだ。

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