第22話 言い訳①
『太一?』
『俺は部活終わって家着いたぞ』
『上埜さんに聞けたか?』
昴からそんなチャットが届いた時、太一はまだ帰り道の途中で家に着いていなかった。
部活も終わりもう家に着いている昴は、当然のように太一も家に帰っていると思っているのだろう。
こっちももう帰ってきた、だから遠慮しないで早く連絡をくれ。そういう意図が文面から透けて見える。
いつもなら太一はもう家に着いてしばらく経っているから昴の間隔は間違ってはいない。普段通りなら部屋でゆっくりと漫画でも読んでいる頃だ。
それが、今日の太一はまだ帰宅途中だった。
辺りはすっかり真っ暗で昼間よりも格段に寒くなっている。
太一がこんなに遅くまで家に帰らなかったことはこれまでに一度もない。
家に帰った瞬間、親に怒られないかと太一はハラハラしながらも早足で歩いていた。
ここまで太一の帰りが遅くなってしまったのは、由貴とファミレスにいたからなのだが、まさか太一もここまで時間が経っているとは思っていなかった。
なんなら太一は、部活帰りの昴より遅くなってしまうなんて今でも少し信じられない気分だった。
初めはただ昴からの頼みを聞くだけのつもりだった。
だが由貴からおかしな条件を出され、紆余曲折ありながらも条件をのんだ。
だというのに、すぐに教えてくれると思った彼氏がいるかどうかも、結局帰り際まではぐらかされ、知らぬ間にペースに飲まれていた太一は、由貴との会話に夢中になってしまっていた。
いつもなら太一は女の子と会話をするだけでも緊張してしまい、まともに顔も上げれれずしどろもどろになってしまうのに、不思議と由貴とはそうならずに会話が弾んだのだ。
どうしてそんなことができたのか太一にも分からない。
揶揄われることはあるけれど、本気で馬鹿にされるような感じは一切しないし、由貴の方からどんどんと話題をふってくれるのは、話下手な太一にはありがたかった。
普段から幼馴染三人でいる時も太一は昴の聞き手になることがほとんどで、由貴との会話もそれに近く、無理に話題を考えようとする必要がなかったことは太一にとって相性がよかったと言えるのかもしれない。
由貴との会話は途切れることなく、なんだかんだと話し込んでいるうちに、気が付くと普段ならもう家で夕食を食べているような時間になってしまっていたのだった。
スマホに親からのメッセージも来ており、それに気が付いた太一はあの時慌てて由貴に帰らなければならないことを伝え、お開きとなった。
――――――――――――――――
「そっか、なら今日はもう帰ろっか。楽しかったね」
「そうですね……って、まだ質問の答えを聞いてないよ!」
「アハハ! ちゃんと覚えてたんだ、偉い偉い」
「覚えてますよ。あと、ナチュラルに撫でないでください」
由貴は前からボディタッチが多く、今日だけでももっと過激な目にあった太一は、もう頭をなられるくらいなら慌てなくなるまで進歩していた。
「彼氏はいないよ」
「……あ、そう、なんですか」
ここまで引き伸ばされた割に、由貴はあっさりと答えてくれて太一は少しあっけにとられてしまう。
まるでもう引き伸ばす理由がなくなったかのような反応だった。
「安心した?」
「なっ!? 別に安心とか意味が分かりませんから、僕は関係ないので」
「アハハ、そうだったね。じゃあ今日も一緒に帰ろ」
「うっ、まぁ一緒の電車ですしね」
――――――――――――――――
そうして今日も由貴と一緒に帰って来た太一。
電車でも由貴に揶揄われたりしながらも家の最寄駅で別れ、今だ帰り道の途中で家にも着いていなかった。
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