第2話 太一と幼馴染


 神田太一が今年の四月に高校二年生になって、もう半年の月日が流れていた。


 十一月を目前にしている今、まるで秋がなくなってしまったかのように、いっきに冬が訪れようとしている。


 太一はすっかりと肌寒くなった朝の外気に身を震わせながら家を出た。


 人一倍真面目な太一は今まで遅刻をした事がない。


 真面目だからと言って勉強が得意なわけでもなく、身体が小さく引っ込み思案。そんな自分に自信の持てない太一が人に誇れる事と言ったらそれくらいのものしかなかった。


 自分の長所を見つけられないのは太一にとってコンプレックスでもあるのだが、そんな暗くなりそうなことは考えないようにして今日も太一はいつもの集合場所に向かう。


 近所にある小さな公園。


 たまに小学生が何人かで遊んでいるが、すぐに飽きてしまうのかあまり人がいる所を太一も見たことはない。


 そんな寂れた公園だが太一にとっては大切な待ち合わせ場所だった。


 太一には昔からいつも一緒にすごしている二人の幼馴染がいる。


 太一が待ち合わせ場所に向かうと、すでに公園の入り口には制服に身を包んだ一人の女の子が立っていた。


 まず目を引くのは綺麗な長い黒髪だろう。きっと毎日手入れを欠かしていない見事な質感の髪。


 細身で同年の女の子のなかでも高い身長にその長い髪がよく映えている。前髪は揃えられていて整った顔立ちがよく見える。


 誰もが口をそろえて大和撫子と形容したくなるような美少女だ。


 口元をマフラーに隠し寒そうに手をこすり合わせ、寒そうにしているその少女こそ太一の大切な幼馴染の一人、田端たばた明里あかりだ。


「明里~!」

「太一、おはよう」

「待たせてごめん。今日も早いね」

「ふふ、気にしないで、二人を待つのは好きだから」


 見る者全てを癒してくれるような柔らかく温かい笑顔。


 明里は大和撫子という外見の印象がピッタリの性格をしている。物静かで大人しく、お淑やかだ。


 派手さや自分から目立ったりする事はないが、いるだけで周りを癒してくれるような心優しい女の子だ。幸運にも太一は明里とは家が近所で小さい頃から友達になり、以来明里は太一に優しくしてくれている。


 可愛くて頭がよく、性格も優しいと完璧な美少女が幼馴染にいれば、太一のようなモテない男子が意識するのも無理はなく、当然のように明里は太一にとっての初恋の人でもあった。


「お~い! お待たせ!」


 太一と明里が談笑していると、すぐにもう一人の待ち人がやって来た。


 太一にとって二人目の幼馴染、赤羽あかばねすばるだ。


「今日も俺が最後かぁ。太一も明里も早すぎないか?」


 少し離れた所から走って来た昴は、それでも息一つ乱していなかった。


 太一と比べると頭一つ分以上大きい恵まれた体格。日々部活動で鍛えている身体はほどよく引き締まっていて無駄がない。


 顔もまだ幼さが残る太一とは違って、すっかりと大人びていて精悍さを感じさせる顔つきだ。


 道ですれ違う女の子はだいたい振り返るくらいのイケメンであり、期待を裏切らない優れた身体能力と、恵まれていることに奢ることのない善良な性格の持ち主。


 それが太一のもう一人の幼馴染である昴という男だった。


「そんな事ないわよ。ね、太一」

「うん! いつも通りだね~」


 昴を揶揄うような明里に合わせて太一も笑う。それを見ていた昴は少し肩をすくめた。


「この仲良し共め、俺も仲間にいれろって」


 太一と明里の間に無理やり身体を滑り込ませて来る昴と、その姿を見てこらえきれず笑う明里。


 昴に肩を組まれた太一は自分も背伸びをして昴の肩に手をまわした。


「これで太一は俺のものだな!」

「あ、ずるい! 太一は私の味方だよね? ね?」

「えぇ~、朝から究極の選択なんだけど」


 今太一の目の前には幸せな日常が広がっていた。


 これが太一にとっての日常。


 大切な幼馴染たちと過ごす、この宝石のような輝いた時間。


 三人でいればどこだろうといつだろうと全てが尊いものになる。


 昴と明里。すべてを兼ね備えて生まれて来たような完璧な二人は、自分に自信の持てない太一には幼い頃からの憧れであり、何にも代えがたい大切な存在で、今でも太一の日常になくてはならないかけがえのない存在なのだった。

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