いつも僕を助けてくれた親友の初恋 ~親友の好きな人と、目立たない僕なんかが付き合うことになった理由~

美濃由乃

第1話 プロローグ


 神田かんだ太一たいちは身動きがとれないまま、押し寄せる快感にただ耐えることしかできなかった。


 太一の身体に押し付けられているのは、クラスメイトである女の子の肢体。スベスベとした絹のような柔肌がしっとりと太一を包み込み、時には圧迫されそうになるくらいこすりつけられる。


 衣服が擦れ、肌と肌がすり合う度に太一は脳内を駆け巡る刺激に意識が飛びそうになっていた。


 抵抗しようにもまともに身体に力を込めることもできない太一。脚はガクガクと震えて生まれたての動物よりも立つ力がなく、普通なら一番役に立つはずの両腕は、力なく頭の上に押し上げられてしまっている。


「ぁ、もう、ぅぁめ、ぇ……」

「え? どしたの?」


 太一としては『やめて』と言ったつもりだった。ただまともに呂律の回らない口では、そんな短い言葉もしっかりと発音する事ができていない。


 だらしなく開いた口からは涎がたれ、太一が意識を保っているのが精一杯であることをよく表している。


「ふふ、ホント可愛いなぁ~」


 太一の言葉を聞いているのかいないのか、密着している女の子は愛おしそうに太一の頭を撫でる。こんな状況でなければ太一も少しは暖かい気持ちになれたかもしれないが、現実はとてもそんな状況とは言えなかった。


 まともに回らない思考で太一はそれでも懸命に考える。


 いったい自分たちはどこで道を間違えてしまったのだろうか。自分はどうすればよかったのか。


 太一の心はそんな後悔の念で埋め尽くされていたが、それでも快楽には勝てずまともに思考することができない。


 何の考えもまとまらないまま頭の回転は徐々に止まっていき、太一は快楽に身をゆだねて意識を手放してしまいそうになる。だがそんな状態の太一に聞こえてきた声が、意識を飛ばすことを許さなかった。


『おい……おい太一! お前何やってんだよ!!!』


 少し離れたところから聞こえてくる男の叫ぶような声。


 今までに何度も聞いてきた耳慣れたその声は、今は普段の様子からは想像もできない程、焦りと怒りに満ち溢れ男の必死な心情を嫌でも伝えてくる。


『てめぇ太一! ふざけんなよお前、離れろ! 離れやがれ!!』


 ふざけてはいないし、そうしたくても身体に力が入らないから離れられない。


 そんな言い訳が太一の心の中だけで膨れ上がる。けれど声にしなければ誰に伝わることもないのだ。太一は最後の力を振り絞ってお腹に力を込めた。


 だが、太一が声を発することは出来なかった。


 口を何かで塞がれたからだ。


 その瞬間、聞こえていた男の声が怒りから悲痛な叫びに変わった。


『あぁ、なんで、そんな、どうして……どうして太一なんかに』


 泣いているのか、男の声がくぐもる。


 太一の口を塞いでいたものが一瞬離れ、すぐ傍で笑い声が聞こえた。


 惚けていた太一が息継ぎをするのを忘れていると、すぐにまた口が塞がれてしまった。口内を駆け巡るヌルヌルとした感触に襲われて、太一の身体はビクビクッと軽く痙攣する。


 もはや太一は意識を保つだけでも限界で、男の泣き叫ぶような声でさえあまり聞こえなくなってしまっていた。


 朦朧とする意識の中でも太一は考え続ける。


 自分がどこで間違ったのか。


 答えは出ることなく、ついに太一は快楽に負けてわずかに残っていた意識を手放した。

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