1章 チュートリアル
1. 男を知れ
第1話 男の始まり
「ええぇぇぇぇぇ!?」
俺はギルドの床に崩れ落ちた。
今聞いたことが信じられなくて、もう1回聞いてしまう。
「この金額では、足りないんですか……?」
「全然足りません。数年働いて貯金を作ってから来てください」
まさか、ギルドの会員登録が出来ないなんて思わなかった。ダンジョンのモンスターに苦戦することは想像していたが、まさかダンジョンにすら入れないなんて。
「諦めるしか、ないのか」
生まれ育った集落を飛び出て何とかここまで来た。
時には死にそうになることもあった。
それでもここまで諦めなかったのは、何のためか。
「……ダンジョンの最下層、無限の財宝……」
最底辺のような生活から抜け出すため?
いや、違う。財が、ただ欲しかった。
だが、ギルドの会員になる為には金が、財がいる。
なら、こんなところでグズグズしている場合じゃない!
「すみません、ここら辺で稼げ―――」
「金なら僕が出そうか?」
俺の言葉を無理矢理止めたのは、ついさっき会ったイケメンだった。
「お前……」
「君が警戒するのも分かるが、悪いようにはならないよ」
「本当に金を払ってくれるんだな?」
「簡単に信じてはくれな……え?」
「金、払うんだよな?」
「あ、あぁ。もちろん、僕は嘘をつかないし、つくことはない」
その言葉にイケメンの信念が篭っているのを感じた。確かに嘘はついていなそうだ。
「いやー、助かるわ。ちょうど金が足りなくてよー」
「……君は、現金なんだね。少し理解したよ」
イケメンは呆れたように言う。
「そうか?……まあ、罠だったらぶっ壊すだけだ」
♦
「これにて、貴方はギルドの会員となりました。規則を破ったり、ギルドに不利益を与える場合は罰則がありますのでご注意ください」
「分かった。これで俺はダンジョンに潜ってもいいんだよな?」
「はい、ダンジョンの入場手続きの際に、先程お渡しした会員カードを使用すれば問題ありません」
「そうか……」
これで、ダンジョンに潜ることができるようになった。
会員になった場合は自動的に蘇り保険に入るらしく、ダンジョンで死んだ時にギルドの個室で生き返るようになったとか。
「よし、早速ダンジョンに行くとするか」
金はないが、ダンジョンの1Fぐらいならアイテムを買わなくても問題ないだろう。
さあ、これから俺の冒険が始まる―――
「待て待て待て待て、ちょっと待った」
「なんだ?邪魔をするなら金の恩人とは言え容赦はしないぞ」
「そうじゃないくて、助言しようと思ってね。君、もしかして1Fぐらいなら1人でも余裕だと思ってない?」
「???」
何を言っているんだ、この金持ちイケメン野郎は。
1Fとは、要はダンジョンを入ってすぐのところだ。深く潜れば潜るほど敵が強くなるというダンジョンの性質上、1Fは1番弱いということになる。
「1Fは雑魚じゃないのか?」
「……はぁ。やっぱり、情報を集めてないみたいだね。1Fは、誰もがレベル1で戦うことになる。ダンジョンの力で増幅された力なんて無い、自力だけでモンスターに勝たなければいけない」
「……」
「1体ならいい。必死にやれば勝てるだろう。強力な武器があれば余裕だろう。だが、ダンジョンは広い。一日で1Fを踏破できるなんてことは極めて稀だ。一日中、自分より強い敵を警戒しながら探索するという行為の危険さは分かるだろう?」
貼り付けたような笑顔ではなく、真剣な表情で説得してくる。
「何が言いたい」
「1人では無理だ、と言っているんだよ。確実にね」
「こちとら金がなくてね。ダンジョンに潜らなきゃ、今日の宿どころか、飯すら食えないんだ」
1人が危険だからどうした。今までも1人でやってきた。ダンジョンだろうがなんだろうが、俺の道を進む。
なら、俺の邪魔をするこいつはなんだ?悪意ではない、だが善意でもない。こいつの目的はなんなんだ……?
「ちょうど僕も1人でさ、頼りになりそうな人を探していたんだ」
「は?」
「ダンジョンでは皆レベル1からのスタートだ。アイテムの持ち込みはあれど、純粋な能力は大して変わらない」
「……」
俺とイケメンの間には壁が3つぐらいある。それぐらい強さがかけ離れているのだ。その差が関係なくなるほど、レベルの恩恵は大きいと言うのか?
「お前が何を考えてるのかは分からない」
イケメンの目はすっと細くなる。見ているだけで体に力が入りそうになるような、強者の目。
あぁ、俄然分からない。これほどの強者が俺を誘うのか。
「だが、お前の誘いに乗ってやる。乗った上で俺は俺の道を行く。お前の思い通りにはならないから覚悟しとけ」
「はは、ははははは!!今からダンジョン攻略が楽しみだよ。……足掻いてみろ、やれるものならな」
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