伍話:異端いつき 其の壱

ー語り・壱ー


「よっ!みこと!!ん?おかしいなぁ……いつもなら縊齋いつき君と雑談でもしてる時間なのに……」

 時はお泊り会終了から一夜明けた日の昼下がり。

珍しくが話しかけてきた所から話は始まる。

 「ちょっくら訳ありでしてねぇ。で、つつでこそ珍しいね。前昼飯誘った時は『昼は孤高に浸るのが最高なのさ!!』って言ってたのに」

「人を厨二病みたいに扱うな!ツツデはゆったりと時間を楽しみたいだけだよ!!」

 「別にそんなつもりで言った訳じゃ無いんだけどなぁ。それでどうしたの?」

「あーとそーですねー……折角の機会ですしお寿司、縊齋いつき君との距離を縮めたいなぁ……なんて思い立ちまして……。まぁ、残念ながら、今日の期待は今まさにへし折られたとこですが。なので明日また出直してきます」

 「私をそちらの恋愛事情に巻き込まないでもらいたいですね、ほんと。やるなら縊齋いつき一人の時に、どうぞ」

「そんな事言うなよぉ。仲継役が一人居た方がツツデだって気が楽だしさぁ、ねぇ?」

 「丁重に断ります」

 私は未だに縊齋いつきと話せないでいた。

ここ数日の距離感が嘘のように消し飛んでしまった。

主な原因は突然の仲間COと最後に後ろから抱きつくというとんでもない行為をした彼に対する警戒心だ。

……警戒心のハズだ、多分、恐らく。

 とにかく、私は困り果て、一人もやもやしてランチタイムをむかえていたのだ。

「あら、珍しいわね。二人が昼時間に一緒に居るだなんて」

 ここで真打登場。

が合流してきたことでいよいよいつもの三人が揃う。

昼下がりにそんな事が起きただけでも珍しいのだが……。

こそどうしたのさ。今日の女子会はもうお開きなの?」

「そんな大層な……私が開いているのは『クラス女子の親睦と団結を高め深める為の優雅で華麗なお茶会』ですの。その程度で女子会だなんて言い張るのは滅相も無い事ですわ。女子会に失礼だわ。あ、もしよければ二人とも参加してくださるとありがたいのだけど……?」

 「それを女子会と言うのだよ、ふじ。あと、私はもっとクラス全体と仲良くなりたいからさ、その後で参加するよ」

「なんならネーミング的にはそっちの方が立派そうじゃないか。ツツデは孤独が好きなのでパスで……」

 「やっぱ孤独が好きなんじゃん」

 時々は私達と価値観が違う時がある。

お嬢様気質だから……で済ませたら良いのだが、どうもズレ方がまた普通よりズレていて……。

今回のように一般的なものを通常より格式高く見てる節があるようなのだ。

まあ、日常生活には多少の影響程度しかないだろうから、問題は無いんだろうけど。

「そうですか、残念ですわ。会話の上手な二人が参加してくれればより盛り上がると思ったのですが……。あぁそれと一つ間違いがありますわ。私、抜け出してきたのよ」

 「主催者が居なくていいの?」

「えぇ、どうせ数人しか参加してないのですから。それで、この場で紹介したい人物が居るのですわ」

「そんな悲しい事を堂々と言える辺りがらしいよねぇ」

 「で紹介したい人って……スミちゃんのこと?」

 そう、先程から気になって仕方が無かった事。

それはの後ろに隠れるようにして立ち竦む少女の事であった。

澄田すみたすみ、クラスでも特に大人しく、はっきり言って存在感の無い子だ。

ずいぶんと人見知りで内気な性格のようで、私ですら一度も会話をした事の無い子だ。

現在進行形で彼女はその特性を存分に発揮しており、常に少し俯き加減で、目元に至っては長い前髪で完全に隠されてしまっている。

この子の視界からは、一体世界はどう見えているのだろうか。

いや、そもそも見えてるのかも怪しい。

そんな彼女をが連れているだなんて、違和感を抱かずにはいられない。

「スミさん、まだクラスに馴染めていないのよ。だからまず、私達がスミさんと仲良くなるべきじゃないかと、そう思い立ったのですわ!私達で彼女の事を理解して、クラス全体で迎え入れるべきなのよ!!」

 「ちなみに本人に了承は取ってあるので?」

「残念な事に、私一人ではスミさんの心を開けなかったのよ。だから、三人でならどうにかなるのではないかと」

「ふーん、つまりはのお節介ね、りょーかい」

 「そういう事は任せて!コミュ力強つよの私がスミちゃんの心理の扉を開いて見せる!!」

「自分で強つよ言うのはフラグなんだよなぁ。ついでにその扉の先を見たら『もっていかれ』そうだね、うん」

 「前にも自己紹介はしたと思うけど、改めまして!!私は九院坂くいんざか尊命みこと!!よろしくね!!」

「……」

 「澄田すみたすみ……って素敵な名前だね!スミちゃんって気軽に呼んでもいいかな……ってもう呼んじゃってたね、あはは……」

「……」

 「えっとー、なんか好きな物とかある?漫画とか、アニメとか、二次創作とか……」

「まるまる見事にの趣味しか質問してなくて草生える」

 「は黙ってて」

「……」

 「うーん……あー……そうだ!好きな人、いる?」

「ツツデは縊齋いつき君一択です」

 「つつでには聞いてない……てかもう知ってる」

「……」

 ぐぬぬ……この扉、物凄く頑丈だ……。

『アロン〇ルファ』で塗り固めたぐらいには頑丈だ……。

「みこと、まだ親しくも無い相手に好きな人を聞くのは失礼ですわ。ほら、スミさんも黙ってしまったわ」

「それはずっとでは?」

 「いやーそれぐらい切れ味が鋭い方が逆に効果的だと思ったんだけどなぁ……そう上手くはいかない、か」

 う~ん、ここまで反応されないと萎えちゃうなぁ。

にしても何故私は好きな人を聞いてしまったのだろうか。

『鋭い切れ味』だのとカッコつけたが、何度考えても悪手だ。

……これも占いの所為か?

私はまた、「青春」に踊らされているとでもいうのか?

「くっくっく……みことは『まだまだだね』!!距離感が近すぎるんだよ、ちみはぁ」

 「地味にテニヌの件を掘り返さないでください。尊命みこと、泣いちゃいます」

「さぁ、見よ!!これが『土手王国ツツデキングダム』だ!!……あ、スミちゃん、初めましてぇ。私ぃ、小堤こづつみ土手つつでって言いますぅ」

 「スルーの上にまだ擦るのかテニヌネタ……何処がどうキングダムなんだい?普通の改まった挨拶じゃないのかい?」

「……」

「駄目ですな、こりゃあ」

 「諦め早いな、おい。には自尊心プライドのプの字もありゃしないね」

 の茶番に私は付き合ってあげる私ってめためた優しい!

普通に考えて、私虐に耐えて面白ツッコミ入れてるのって凄い事だよね!

……なんて自画自賛でトラウマを追い払おうと思ったが、超人テニスの苦い記憶をそうそう消えてくれるものではない様だ。

あぁ、虚しい……。

「そういえば、みこと。縊齋いつき君と喧嘩でもしたので?朝から二人が話している現場を見かけなかったものだから気になっていたものでしてね……」

 「……喧嘩では、無いんだけどねぇ……」

 どうやらは日常会話でスミを釣ろうとしているようだ。

あまり好ましくない話題だが仕方が無い。

乗ってあげるとしようか。

私、優しいし……この自画自賛、余計に虚しくなるだけだわ。

もう止めよ。

 「……私と縊齋いつきってそんなに一緒に居るかなぁ?」

「えぇ、見ている限りはしょっちゅう絡んでいるわね。それこそお付き合いしてる程には仲がよろしいんでしょうね」

 「あはは!縊齋いつきと私が付き合ってる?んな馬鹿な!御冗談が上手いねぇ、はいつも」

「みこと……顔……」

 「え?」

 思わず顔に手を触れる。

同時にの策略にまんまと引っ掛かった恥ずかしさで顔が真っ赤に染まるのを感じた。

この尼、私がさっきの質問で動揺してるのに感づいて、カマかけやがった!!

くすくすと口元を抑えているあたり、確信犯に違いない!!

単純に嫌な話題だったから避けようとしてただけなのに、私が顔触っちゃったら、縊齋いつきにその、こ……好意を抱いてるみたいになっちゃうじゃないか!!

いや、違うから、認めないから!!

断じて、これは恋では無い……そう、故意なんだよ、故意!!

あのどっかのTVでやってた(?)占いに嵌められて、その上にも嵌められた……これはそういう故意的な事象なんだ!!

 実際、にそう思われようが私にはどうだっていい。

問題は、この場にこれを聞かれてはまずい人物が居るという事であってーー。

「みことぉ?今の、どういう事?」

 「えっと……違うの。ほんと。私は断じてそんな事……」

「この裏切り者!!あぁ、ツツデの縊齋いつき様がぁ!!ゆ、許さん!!」

 「話聞いてよ!!誤解だって!!てか、おい。いつから縊齋いつきはつつでの物になったのさ。てか、様付けはいよいよ問題あるんよ。そもそもなんで私にツッコませてんだよ。逆に落ち着いちゃったよ、まったくもう」

「くぅ!!こうなりゃ、の赤面をクラスメイトに知らしめてやる!!ほれ、カシャカシャっと!!ぷぷっ、めっちゃ可愛……こほん。み、みことぉ、恥をかいてかきまくれ!!」

 「だから違……待て。ジャストアセカンド。今、笑ったよね?絶対笑ったよね?もしかしてだけど……私で遊んでる?」

「イヤイヤソンナワケナイジャナイデスカァ、ミコトサン。ツツデ、ホンキデプンスカシテルデスヨ」

 「めためた棒読みじゃんか。私、今心から勘違いさせて申し訳無いと思ってたんだけどな。も許せねぇよなぁ?あと、止めて。スマホで私を撮るの、まじ止めて」

 あー、こいつら……。

私の事、散々弄りやがってぇ。

ちくしょうっ!!

此処に私の味方は居ないという事なのか!?

これも全て、「青春」の所為なのか!?

いよいよ「青春」までもがトラウマになりそうだよ!!

もうテニヌ案件だけでお腹一杯だよ!!

「あっ……」

 その一声で私達の一切の行動が停止した。

スマホで私の赤面をぱしゃぱしゃと撮り続けるも、それに必死に抵抗する私も、その様子を少し離れて笑いながら眺めているも、全てが『The・World』を使用されたかの如く。

まるで世界の時間がその一声を発した人物、澄田すみたすみのものと言わんばかりに。

「それって……A-Fhone Season8?」

 そう、あの子が、すみが自ら口を開いたのである。

いつまでもだんまりを決め込んでいた彼女が、だ。

「もしかして……スミちゃんってこういうのが好きなの?」

 つつでがおそるおそるスマホを純に向けながら尋ねる。

すると、すみは今まで下に向けていた顔を正面へと上げ、キラッと効果音が入る程に輝く虹色の瞳で私達を見つめながら語り出した。

「そう!そうなの!私、近代機械が大好きなの!!あ、だけどね、私が好きなのはね、精密機械なの!スマホとか!パソコンとか!そういった機材とプログラム、それが私が好きな物なの!!あ、これだけじゃ良くないよね!私がどの点が好きなのか分からないもんね!うん!私はね、人類の発展って感じがするの!!少し前までは電気すら存在しなかった!それが気付けばこうして便利な世の中になった!だけどね、それは序の口!!此処から進化していく事が私の好きなものなの!!そのA-Phone Season8だってそう!!これまでより優秀な内在システムを搭載!!より多くの人が使いやすいデザイン!!その上、これまで以上の防水性能と耐久性!!さらにはーー」

 ……どうやら地雷を踏んだみたい。

スミは捲し立てるようにしてA-Phoneについて語り続けている。

この子がこんなにオタクタイプだったとは……。

私達が呆気にとられている間にもスミは止まる事は無くーー気付けば数分。

スミが新しい話題に踏み込もうとした時だった。

「ーーでねでね!A-Phoneの技術を応用して作られたのがーー」

「よぉっしゃあぁぁぁぁぁぁっ!!返ってきたぜ!!あたしの愛するスマートフォーンッ!!」

「ひゃいっ!!」

 ガラガラと大きな音を立てて空いた扉から叫ばれたその大声に驚き、スミは可愛らしい悲鳴と共に語るのを中断した。

「わぁ……スミ、かわいいじゃん」

「スミさん、今の可愛らしかったですわ」

 「スミちゃんって凄く可愛いよね」

「か、可愛いなんてそんな事……///」

 よし、成功。

こことぞばかりに私達からKawaiラッシュを食らったスミは、肩を小刻みに震わせながら、モジモジと最初の状態へ戻っていく。

……ごめんね、スミちゃん。

私達も昼休みを丸ごとスミちゃんの語りで終わらされたくないからね。

 なんやかんやはありつつも、どうにか純について詳しく知る事は出来たかな。

後はこの情報を活かして、スミをクラスに馴染ませていかねば。

とりあえずこっちの話はひと段落済んだので、今の声の確認をしてみよう。

「よっしゃっ!!また今日から、動画見放題!!歌も聞き放題だっ!!」

 あれは新報部の江蒲つくも乱丸らんまるちゃんか。

確かこの前、スマホを使っていたのがバレて一条いちじょう先生に呼び出しを食らったものの、件の集団ヒステリー事件によって帳消しとなったのだが、調子に乗って次の日もスマホを使い続けた結果、一週間程スマホを没収されていたらしい。

「あっ!!あれはMilkyWayのtypeーーむぐっ!!?」

 先程の会話で最高にハイってやつになっちゃったスミちゃんの口を私は慌てて塞ぐ。

ごめんよ、スミちゃん。

私だってこんな事したくなかったんだヨ。

スミちゃんが止まらないのがいけないんだヨ。

「皆っ!!早速だけど昨日のあれ見よっ!!ほら、『Mスタ』の特番だよ!!事前情報だと最近人気の若手バンドから大物演歌歌手!!天声の少女に他楽器使いの老人!!世界をまたぐ天才ピアニストに、な、なんとあの『ショウコ』様まで!!?こりゃあ期待しか無いっしょ!!」

「ラン……それはコマーシャルか何かかな?それと私、昨日見ちゃったんだけど……」

「いいじゃんいいじゃん!!何度見たって素晴らしいって事には変わり無い!!ヒユももっと肩を楽にして楽しもーよ!!委員長としての責任を休み時間まで引きずるなんて疲れるっしょ?あ、男子の参加は厳禁だかんな!!いいか?絶対邪魔をーー」

 乱丸らんまるがそう言いかけた時だった。

「待ちたまえ!!乱丸らんまる君、学校内でのスマートフォンの使用は原則禁止だとついこの前一条先生に注意を受けたばかりだろう?私個人としては非常に興味の無い事ではあるが、副委員長であるからには、規律と秩序の為、この飯ケ谷いいがや護伴ごはんは、君のその行為を認めるわけにはいかない!!乱丸らんまる君、今すぐスマートフォンを仕舞いたまえ!!従わないようであれば、そのスマートフォンを没収し、一条いちじょう先生へ渡させてもらおう!!」

 飯ケ谷いいがや護伴ごはんは丁寧な手付きで教室の扉を開き、厳しい物言いで乱丸らんまるの行いを正した。

片手で乱丸を指差し、片手で眼鏡をくいっと上げるその動作は、まるで風紀委員長であるかのようだ。

……実際の所、副委員長なんですけども。

何故風紀委員にならなかったのかと疑問に思う程、より清く正しいクラスを目指そうという高い志を持ち合わせた男子生徒だ。

巷ではセイ……失礼、マサヨシ君とのキャラ被り論争が行われているそうだ。

「うわぁ……これまた面倒なヤツ来たわぁ……」

乱丸らんまる君、その言い草は何だね?相手に失礼じゃないか!!それと氷佑ひゆ君!!委員長の君が居ながら、何故乱丸らんまる君の好きにさせているのだ!!いいかね?君はこのクラスを支えていかねばならんのだ!!少しの乱れも許してはならないのだ!!」

「……ごめん、飯ケ谷いいがや君。でもーー」

「言い訳無用!!返事には解答のみで答えるのが社会の常識だ!!言い訳は相手の承諾次第!!それまではひたすらに謝罪と今後の意気込みをーー」

「おい、副いいんちょーさん?ヒユはこの件に関係ねぇだろ?あくまで主軸はあたしのスマホ問題。勝手に他人を巻き込んでんじゃねぇよ」

 委員長にまで指導が飛び火した護伴ごはんに対し、乱丸らんまるは怒りを顕にする。

乱丸らんまると私はそれほど交流は深く無いが、彼女が少し不器用ながらも友人への思いやりに長けた人物である事は把握している。

……まぁ、行動全般には少し問題があるけれど。

「……その通りだ。あぁ、まったく、私とした事が矛先を間違えてしまっていたようだ。すまなかった、氷佑ひゆ君。今の会話は後回しにさせてくれ。さぁ、乱丸らんまる君!!そのスマートフォンを渡しなさい!!」

「うげぇっ!話の方向戻しちまった!!ちょっ!誰か!!この暴走副委員長を止めーーあ!!明知あけち!!丁度良い所に!!」

「は?何?僕がどうかしたのかい?」

 結局自分から不利な方向へ話を進めてしまった乱丸らんまるは、昼休みも終わりに差し掛かったが為に教室に戻ってきた男子生徒、明知あけち小悟郎こごろうを頼る事にしたようだ。

彼は乱丸らんまると同じ新報部所属でこのクラスのイケメン5に選ばれる程の優れた容姿を持つ。

その一方で性格に難があるとの話だが……。

「スマホを弄ろうとしたら、副委員長に絡まれたんだ!頼む!明知あけち、助けてくれ!!」

「断る。僕には関係の無い話だ。規則を破った方が悪い」

「そんな事言うなよぉ……同じ部活の仲間だろぉ?」

「はっ、仲間?僕に仲間なんていないさ。所詮お前らは歯車の一つに過ぎない。僕がより深い真実を探求し、それを世間一般に広める為の過程に過ぎないのさ!!」

「……はぁ~、ほんと明知あけちはクズだな。流石は女垂らしだ」

「……クズだの何だの言われようが僕の知ったこっちゃ無いが、女垂らしだけは心外だな。あいつらは僕を好んで付いてくるんだ。僕は一人一人を大事にしてやってる、それだけでもありがたい事だろう?」

「だからそこがクズなんだよ、明知あけちは。それにさ、まだあたし達記事一つも書いてないじゃんか」

「僕は未来の話をしたまでの事。ふふっ、今に年上だからって上から目線でうざったらしい先輩どもを超えて、この学校のあらゆる真実を暴く、そんな記者になってやるさ。今や時代は実力主義、年功序列制度なんて時代遅れなんだよ」

 ……明知あけち小悟郎こごろう、名誉ある名とは裏腹に相当性格に難があるようだ。

正直ここまでとは思ってなかったよ。

あまりにも衝撃が大きいな。

この前会話時に優しくしてくれたのって、私が近寄ってきたんだと思ったからだったなんて。

「……勝手に言ってろ。もうあたし、明知あけちに頼るのは止めるわ」

「あぁ、それが妥当さ。どうせお前みたいな女っぽさの欠片も無いヤツにどんなに頼まれようと、僕はお断りだからね」

「あ?明知あけち、それ今言う必要ある?」

「そろそろいいかね?言い逃れは通用しない!!さぁ、乱丸らんまる君よ!!今すぐそのスマートフォンをーー」

「うっせぇなっ!!一々君付けすんな!!まるであたしが男みたいじゃねぇか!!」

「おやおや……僕、驚いたな。男勝りな乱丸らんまる君がそんな事を気にしてるなんて」

「何だよ、悪いか?あたしはさ、名前とか仕草とかで男っぽいとか言われたくねぇんだよ!!あたしだって好きでこんな名前じゃねぇし、したくてこんな風には……ともかく!!今はジェンダーに厳しいんだって!!」

「の割には男子に厳しすぎるような気がするけどな」

「さっきから細かい事を突いてきやがって……もう無理だわ。我慢の限界だわ。明知あけち、あたしはなぁーー」

 口論がいよいよ激化してきたその時、その微かな音がそれらを一瞬で沈静化させた。

ブー……ブー……無機質に教室内に響き渡る電子音。

これは……。

「……スマートフォンの音だな。当然使用及び電源を付ける行為は禁じられているはずだが?」

 副委員長はそう言うと、乱丸らんまるの方を向く。

しかし乱丸は首を横に振るとスマホの画面を見せた。

その画面は真っ暗なまんま、つまりは電源を付けていないという事だ。

乱丸らんまる君では無いようだな。誰だね?今手を挙げれば許してやろう!!」

 護伴の問に答える人は一人もいない。

すると副委員長は教室内を歩き始めた。

犯人捜しでもしているのかな?

 そして私は彼にバレないように細心の注意を払いつつ、鞄の中身を漁り始めた。

これには先程の電子音がやたら近くで聞こえたからである。

だからといってつつでは早い段階でスマホをしまっており、そうなると……。

 あ、やば。

やらかしたかも。

どうやら私、電源を切り忘れてたみたい。

咄嗟に見えない位置にスマホを移動させ、届いたメールを確認する。

金田一:〈今日の学校終わり、事務所へ来るように〉

金田一:〈よろしく~〉

九院坂:〈了解です〉

 金田一さんの『Root』トークルームへの返信をする。

相変わらず要件以外の一つも書かれていない、単調なものだ。

その為何の用事か知らないが、どうやら今日の放課後の学校見回りは幽真はるまに任せるしか無い様だ。

「あ!アクシスsenseβ!!」

 「ちょっと!!スミちゃん、声が大きーー」

「君だったのか、尊命みこと君。何をしているのだね?」

 スミの過剰な反応に、いつの間にか背後に迫って来ていた副委員長に気付かれてしまったようだ。

 「あー、あのー……ですね、うん。これはー……なんていうか、そのー……」

「見苦しいぞ、尊命みこと君!!私がそのような誤魔化しを許す訳が無い、無い、無い、無い、断じて無い!!」

 この後、私はどうにかして副委員長を説得し、スマホの没収を逃れる事が出来た。

また、こちらの話題に反れた事で、乱丸らんまるもまた一先ずは回避に成功したようだ。

そして私は放課後、事務所へと向かったのだった。

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