弐話:みこと開き 其の弐
ー弐ー
「
『そう言われてもねぇ……【霊能者】が毎日毎日【怪異】を捕まえてたら前科無しの【怪異】なんていなくなっちゃうからね。それよりみことちゃん、【霊能】活動を積極的に行うのはいいけど節度は守ってくれないとさぁ……今回は結果的に問題なかったけど、下手したら一般の方々に見られてた可能性だってあるんだから』
「……はい、反省してます。次からは連絡を優先します」
『それと、はるま君……だっけ?その子の事情聴取よろしくね。まー本当はする必要ないんだけど、これからの事も踏まえて、ね。じゃ、よろしくー』
プツッ、ツー、ツー、そんな音を鳴らしてスマホの通信は切れた。
まだ報告したいことがあったんだけどなぁ。
あの人って相変わらず会話一方的だよなぁ、なんてことを思いながら、私は鳥居をくぐる。
「電話終わったの?相手はみことの上司か?」
「うん、そう。
私は投げかけられた質問にそう応えた。
質問者は賽銭箱の上に腰掛けていた。
彼ははるま、今から私が事情聴取をする相手……って、
「なんてとこに座ってんの!?!はるま、早く、そこどけてよ!!」
「罰当たりってのは分かってるけど……座るとこないからさ、この神社」
私達は今、
此処は神社としての信仰の他、
北東には【
夜は満天の星空の下、
正確には名所になるはずの場所だった……といったとこかな。
数年前にはこの神社周辺は観光名所にするための整備が行われていた。
しかし、工事中のトラブルや財政難などでその計画はおしゃかになってしまったのだ。
そもそもの話、この神社に登るための登山道が不便なところにあり、もし観光計画が上手くいっていたとしてもそれほどの成果は出なかっただろう。
ま、私にとっては最高の名所に違いないんだけども。
そして
境内はあまり人が訪れないせいか、落ち葉や枯れ枝などで荒れ果ててしまっている。
私は昼休憩の際、この神社のやたら段差の険しい階段に座って、一人ゆっくりと絶景を眺めるのが日課だ。
「それ僕のこと言えないじゃないか。神様の通り道を塞ぐ方が失礼だろうに」
「いやいや私ちゃんと端によけてるから。神様への信仰の証に座る方がよっぽど失礼だよ」
「投げ銭ならもうしたし、それに……もう【神性】の【霊気】もないから」
この神社の土着信仰はとっくの昔に果てている。
今やただこの神社の名物の風車のみがカラカラと虚しく音を響かせるだけ。
そのもの寂しさがより一層景色の美しさをきわだたせてくれるわけだけどね。
「にしても凄いね、はるまの【霊能探知】。【霊感】とかとは比べ物にならないね」
なんやかんや言いつつも私は
石段に座るのもお尻痛くなるし、多少の無礼ぐらい許されるよね?
「その呼び方止めてくれよ。そんな大層なものじゃないし」
「いやいやぁ、そんな謙遜しなさんなって」
通常、人間は【霊感】の強さに応じて【怪異】が見えるか見えないかが異なってくる。
これは【霊能】と深く関われば関わるほど高まるが、
ある程度本人の周辺の【霊気】を察知出来る他、一度感じた【霊気】を見分けることが出来るらしい。
今日私を見つけたのも、昨日手を握った時に感じた【霊気】を追ってきたからだそう。
うーむ、羨ましい能力。
私にもあれば活動が楽なんだけどなぁ。
「謙遜はしてないさ。実際のところあまり使い勝手は良くないよ。正確な位置までは分からないし、【霊気】が高い場所だと身体の負担が大きいし……
「あー、それは【霊場】だからだよ。
平成中期、突如として
それによって
『山に囲われているから【霊力】が溜まりやすい』だの、『名前が
自然の【霊能】の対処には【忌み付け】を理解することが最も有効であるから当然その調査が必要になってくる。
そのため、この
私の所属する【
所長の
……どーせ私は入りたてほやほやの新人なんですがね。
「多分はるまの探してる
「仕方ないよ。
「そういやさ、はるまってどこの高校なの?」
「
「わぁお……偶然ってあるもんだねぇ。私も
こんな偶然があるとは驚きである。
いや、待て。
冷静に考えよう。
【霊気探知】持ちと同じ学校だと?
これは偶然というより【運命】なのでは?
今より親密な関係になればこれからの活動も楽になるのでは?
よーし、落ち着け私。
まずは媚売ってくのが妥当かな。
「……はるま君って、いつから【霊能界】に関わり始めたんですか?」
「突然どうしたんだよ。敬語なんか使ってさ」
「特に意味なんて無いですよぉ。何となくです、何となく」
丁寧な口調での質問は媚の常習手段。
その上での身の上話の強要というのは自分自身が求められているという感覚から相手に優越感を与えることの出来る必殺技!
そして私は聞き上手!!(だと私自身は思っている)
これで落とせない人間など居るはずがない!
「何となく、ねぇ……僕は幼い頃から【怪異】が見えてたから関わり始めは生まれた瞬間とも言えるだろうけど、本格的に【霊能】活動を始めたのは二年前になるかな」
「……まじか」
ここで幽真がそんな大先輩だなんて予想する人おる?
流れとしては『はるまは【霊能界』に入りたて→それでいて【霊感】が強いなんて、と褒めちぎる→完璧に堕ちて完全勝利』を想定してただけに対応しようがないじゃないか!!
「みこと、多分協力を仰ぐ為に僕を持ち上げようとしてたんだろうけど……流れ下手くそすぎない?堕ちる人なんて居ないと思うよ」
「……ばれてたんすね、私の作戦」
「ばれるとかそういう次元の話じゃなかったけどね。ちなみにみことはいつからなの?」
「【怪異】を見たのが一年半前で【霊能者】デビューが最近の素人です、はい。まるで熟練者のように気取ってしまい、はるま大先輩には申し訳なく思っています」
考えてみると気取れてもいなかった。
初っ端から捕まってるとこ助けられたんだった。
「そんなに縮こまらないでよ。【霊能界】の知識はみことの方が上だろうし」
「二年も関わってるはるまの方が私は詳しいと思うけど」
「あくまで【祓い屋」だからね、あまり詳しくないんだよ。それに、みことの祓詞は精密だったから、僕より【霊能】の扱いも上手いんじゃないかな?」
「詳しくないって嘘じゃんか!祓詞知ってんじゃんか!」
「ほれほれ、逆ギレ止めなさいな。祓詞自体は【霊能】初歩ですぞ」
「あやし言葉止めい!私は頑固なお婆さんじゃない!!」
「泣き喚く子供をあやしてるつもりだったんだけどな」
「ぶふっ!!こ、降参、私の負け。はるま強すぎるよ」
会話自体は下らないのだが、それを真顔で真剣に続ける
途中からお笑いコントになった会話を本題に戻す。
「はぁ、上手くいけると思ったのになぁ。はるまレーダーを使えば活動が楽になるからラッキーだと思ったのにな」
「僕はみことの道具か何かなのか?それでなんだけど、別に協力はしてもいいよ」
「まじですか!?流石ははるま大先生!私が予期しないことをやってのける!そこに痺れる!!憧れるぅ!!!」
「みこと、もう媚びなくていいよ。後地味に先輩から先生にランクアップさせるなって。で、何故にジョ〇ョ構文?」
「私、ジ〇ジョ好きなもんでして」
「ジョ女子ってわけだね」
「はるま、それスベってるから。……でどうして私の手助けをしてくれるわけで?」
「なんかギャグへの当たりが強い気がするけどまあいいや。その程度の協力なら大したことじゃないから喜んで手助けするさ。そのついでに
出会って間もない私とこんなに親密な会話をし、それでいて手助けをしてくれるなんて普通そんなに気安い人間はそう居ないだろう。
確かに私は距離感近いだのと言われがちだが、ここまで馴れ合うのが早いのは初めてのことだ。
それも
それに
私は私を避けようとして壁にぶつかった少年を介抱しただけ。
それも祓詞を唱えるという直接的に何の効果すらないことを行ったまでだ。
だというのに、
どれもこれも
そして、私とどことなく似ているからだ。
性格も境遇も何もかも違うのにどこかに通っている、そんな気がしてならない。
会話が弾むのもきっと私達が似ているから、そう思えてならない。
だというのに私は何だってんだ?
幽真に対して何も出来てないじゃないか。
それでいいのか、みこと。
どこか似ている優しい人を助けなくていいのか?
私に今出来ることはないのか?
いや、ある。
私は賽銭箱から立って、階段前の鳥居に向かう。
鳥居の奥には
「みこと?突然立ち上がってどうしたんだ?」
「私に協力してくれるっていうのにお礼が無いなんておかしな話だよね」
「そんなことないさ。お礼なんて求めてないよ」
「いや、私の精神が許さないんだよ。何かしてもらうなら、何かを返さなきゃって。だから……その
結局私自身で出来ることは一つもない。
けど、私を通して助けられることなら確かにある。
私が、私達が
「それってみことが勝手に決めていいことなのか?」
「いいや。ほんとは許可とか手続きとか、色々な作業はあるんだけどね。決めるのは
お礼ではなく恩返し。
御恩と奉公、その関係性なら私だって用意できる。
「だから、これからよろしくね!はるま!!」
私は
私なりの満面の笑顔を
同じくして、
「みことっ!!手を掴んでっ!!」
やけに焦った様子で荒々しく叫ぶ。
よろしくの握手かな?
そう思って私は呑気に右手を伸ばした。
その時、私は後ろに引っ張られる。
背後は階段、ようやく私の身に起きている危険を認識し、私は体を立て直そうとした。
動かない、余程強い力で引っ張られているようだ。
鳥居の奥には扉があった。
観音開きの二枚扉がどこまでも続いていたのだ。
そして、そこから現れた手が私を引き込もうとしている。
手首までしか無い無数の青白い手。
切り口の部分は青紫のオーラによって隠されている。
「離せよっ!!このっ!!」
見える範囲の手を振り払おうとするが、手は動じる様子を見せない。
「ごめん!!耐えきれない!!」
いつの間にか手は
私達は引力に抗えず、扉の中へと引き込まれる。
私の目の前で、扉が閉じるのが見えた。
次々と過ぎた扉が閉じていく。
私はただ
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