弐話:みこと開き 其の参
ー参ー
「しっかし大した【廻廊】だね、こりゃあ。こんな規模の個人【廻廊】は初めて見たよ」
えー私達は今、異空間に迷い込んでいます。
それしか説明の仕様が無いです。
あの忌々しい無数の手によって放り込まれたのはどこまでも扉の続く世界。
明治とか大正とかそんな頃に多そうな木造の果てしなく薄暗い廊下、そこに私と幽真は居ます。
一体何時間経ったのだろう、相当長い間この【廻廊】を幽真のスマホの光を頼りに巡り歩いている。
ま、残念な事に圏外表示なので連絡出来ません。
まさに物語のあるある展開。
「みこと、【廻廊】って何?」
「心の中の世界が可視化された特異空間のことだよ。基本的には集団ヒステリーとか都市伝説とか、そんな共通意識化で自然に出来るものなんだけど、一部には個人で生み出しちゃう場合もあるんんだよ。てっきりはるまは知ってるものだと思ってたけど」
「特異空間自体は知ってたんだけど、それを【廻廊】って呼ぶのは初めて知ったよ。ほら、だから言ったでしょ、僕は霊能に疎いって」
へぇ、てっきりまた謙遜しているものだと思っていたけど、ほんとだったんだ。
こんな風に会話しながら私達は脱出方法を探している最中。
会話でもしてなきゃ冷静でいられないからね。
「にしても【忌み付け】は何なんだろうね?こんなに廻っても分からないなんて」
「うーん、検討がつかないなぁ」
……【霊能】と【忌み付け】は密接な関係を持つ。
【忌み付け】があるから【霊能】は成り立ち、強い【忌み付け】程【霊能】の質を高める事が出来る。
此処に理由や理屈は関係無い。
そういう結果だけが存在する、私達【霊能者】ですらそれが知り得る限界だ。
古くから研究を続けられてきたというのに、【霊能】を始めとした要素はどれも未解明のままなのだ。
そして、同じようにして【廻廊】にもその法則性が当てはまる。
つまり私達は【忌み付け】を理解する事による脱出を試みているのだが……残念ながら未だその解明いは至っていない。
しかし、脱出方法を探す上で分かったことは三つ程ある。
一つは扉には開くものと開かないものがあること。
一つは空いた扉の先にはまた廊下が続いていること。
そして最後の一つは……。
「みこと!!やつらが来たよ!!」
……不定期に手の襲撃イベントが起こること。
開かない扉から不気味に指を拗らせて出てくる様子はホラー映画のワンシーンそのものだ。
やつらの目的が何であれ襲ってくるなら倒すまで!
私は心を研ぎ澄まし、刀を取り出す。
空間の歪みから出てくるのは私の愛刀【獅志丸】だ。
焼き詰めに小乱れの一般的な日本刀。
響きがかっこいいのと刃文がライオンの毛のようだったのでそう名付けてみた。
そりゃ名刀とか妖刀とかの方が見た目も切れ味もいいだろうけど、あくまで【怪異】捕縛を重点に置いた【霊具】使いの私にはこの程度で十分。
それに
私にとっては価値あるものに変わりないのだから。
「はいっ!よっ!そりゃぁっ!!」
次々に飛び掛かってくる手を鞘で薙ぎ払う。
私は【怪異】を討伐することが目的じゃないから、基本鞘から刃を抜くことはない。
今は法律が厳しいもんだから、例外こそあるものの、基本は下手に意志ある【怪異】を切ってしまえば私が訴えられる可能性がある。
【霊力】さえ込めれば十分な火力は出せるから、わざわざ危険を侵す必要もないってわけ。
数分程度リズムゲームの如く進行を妨げていると、手は私達に近づくのを諦め、暗くて不気味な廊下の奥に消えていった。
これがある程度の間隔を開けて行われる。
作業自体は大したことないんだけど、量が量だけに割としんどい。
「みこと、ナイスファイトだったよ!にしてもあいつらなかなかしぶといな……本体は何処に居るんだ?」
「はぁ……はぁ……早く出口か本体見つけないとね。限界もいつか来るだろうし」
襲撃の際、この
理由は単純、奴らに
【霊力】を込めた砂を相手に掛け、心の内に起こった恐怖心を増幅させ、あたかも自身が強い立場であるかのように見せかける……そんな手段を使っているそうだ。
本人曰く【霊能】による身体強化が上手く扱えないそうで、そのような姑息な手段しか使えないらしい。
基本、相手の露出した粘膜部分を刺激するため、当然奴らに効果があるはずがない。
以上により現在
……まぁ、進展はないんですけども。
「みこと、大丈夫?疲れてないか?」
「勿論疲れてるけどまだまだ疲れてないよ」
どこまでも並ぶ扉をノックしたり、ノブをひねったりしながら、私達は会話を続ける。
カチャカチャと無機質な金属音と私達の声だけがこのだだっ広い廊下にこだまする。
「一言で矛盾してるよ。言いたいことは分かるけども」
「はるまこそ平気?長い間周りの警戒してるから疲れたんじゃない?」
「みことよりは断然疲労は少ないよ。ごめんね、みことに任せっきりにしちゃって」
「ううん、大丈夫。そりゃあはるまは頼りないし役立たないし少々苛つく場面もあるけどさ、【霊能探知】のおかげで私は危険を避けられてるわけで。それに……私があの手に連れ去られそうになった時助けようとしてくれた。はるまは私を離そうとしなかった。だから感謝してるよ。ま、前よりも評価は下がったけど」
「感謝を述べつつ厳しい言葉を投げかけるとは……さては僕の心のへし折り方を熟知しているな?」
「はは、そうかもね。だって私とはるまは似てるから」
トントン、扉の一つを軽く叩きながら、私はそう返した。
相も変わらず、その音も【廻廊】にこだまし、至る所からノック音が聞こえてくる、そんな錯覚を抱かせる。
「僕とみことが似てる?そんなことないだろう。みことは僕なんかより強いし勇敢じゃないか」
「……勇敢、か。残念だけどそれは違う。私は……誰よりも
私が強くなろうとしたのは、失うことが怖かった、それだけなんだ。
私は誰よりも臆病だから。
恐怖なんて抱いてないって。
私自身にそう思い込ませて、そう
「……今更だけどみことはどうしてこの道に進んだんだ?」
「それは言えない。怖かった以外に私に言えることはないよ」
スマホの光で映し出された二つの影の片方がわずかに項垂れる。
薄暗い廻廊の闇は私を飲み込む深淵のように思えてくる。
……怖い。
そう、私は怖いのだ。
また何かを失う事が。
底の見えないどん底で足掻く私自身を想像するのが。
「……そっか。変なこと聞いてごめん」
「変なことじゃないよ。誰だって馴れ初めは気になるものだろうし」
不公平、私だってそう思ってる。
事情聴取と称して
それでも、忘れたいことはある。
封じ込めておきたいことは誰にだってあるんだから。
「……ありがとね、はるま」
私は一つのドアを背に寄りかかり、
笑っていれば、恐怖なんて気にしないでいられるから。
これが私の生きる奥義。
「……みこと大丈夫か?さっきから言動がブレブレだぞ」
「ふふ、そうかも。でも気にするほどじゃないよ」
「そうには思えないけどなぁ……で何に対しての『ありがとう』なので?」
「今一緒に居てくれることに対してだよ。一人じゃなくて良かったなって思って」
一人だったら恐怖に耐えれなかっただろうから。
きっと、私を見失ってただろうから。
「……その程度で『ありがとう』を使わないでくれよ」
「何で?私に言われて嬉しくないの?」
「その言い方何かヤンデレっぽくて怖いんですが。ありがとうって言われるのが嬉しくないわけじゃないよ。けど、何度も言われると特別感が無くなるっていうか……まぁ、そう感じるのは僕だけかもしれないけど」
「なら多分はるまだけだろうね」
「そんなズバッて切り捨てないでもらえます!?う~ん、僕の感覚の方が普通な気がするんだけどなぁ」
私を気遣ってなのだろう、はるまは私の答えに対して敢えて激しく反応する。
ほんと優しさを持った人だなぁ。
そして私なんかよりもよっぽど勇敢な人だ。
こんな所で他人に気遣える、それだけども十分に勇敢だと私は思う。
無為に戦う事が勇敢のすべてでは無い、そう私は思う。
「ぷっ、はるまって意地っ張りなとこあるよね」
「あのう、それ煽ってます?」
「いや、そんなつもりはないよ。意地っ張りって『自分の意見を貫き通せる筋の通った人』ってことなんだから、悪い意味なはずがないでしょ」
「……それ言い方変えただけでは?」
「まぁ、そうなんだけどね……はぁ、やっぱ私疲れてるのかも。いつになく悲観的になっちゃてるし、今だって弱音はいてるしさ」
「ふぅん……いつもより悲観的、ねぇ……」
「その匂わせ口調に悪意を感じるのは私だけでしょうか」
「悪意はないよ。ただ……僕はレアなみことを見れてるんだな、瞼の奥底に残しておかなきゃな、って思っただけだよ」
「むぅっ!レアキャラっていうな!!忘れてくれ!!」
「ははは、すっかり元気になったみたいだね!良かった良かっーー来るっ!!」
そうこうしていると、いくつかの扉が大きな音を立てて揺れ出す。
「さっき来たばっかなのに……頻度高くなってない?」
「ああ。あっちも本気になってきたみたいだね。ほら、あの数を見なよ」
視界に入るだけでも百は超えるぐらいの不気味な手の集団が前方から近づいてくる。
地面や壁を這うもの、空中に浮かんで迫ってくるもの、様々なタイプの手が一斉に私達に地下浮いてきているのだ。
「みこと、これ対処できそう?」
「……ちょっと厳しいかも。よし、逃げるか!」
「逃げるってどこへ?」
「後ろにはいないから。多分あいつらはこれ以上先に進ませたくないんだよ。だから一旦後退して、体制を立て直す。ほら!行くよ!!」
私ははるまの左手を掴んで走り出す。
体制を立て直すなんて言い訳を使ったけど、正直私はやつらが怖い。
少しでも離れたい、それだけなんだ。
しかし、私はそれ以上逃げることは許されなかった。
理由は簡単、私の左手が体に付いて来なくなったから。
「はるま!何してるの!!早く逃げないと追いつかれるよ!!」
やつらの方をじっと見て立ち尽くしている。
そして、私の方を振り返ってにっと三日月型に口を伸ばす。
「分かったよ、みこと。この【廻廊】の【忌み付け】が」
「凄いよはるま!!で、それと立ち止まってるのは何の関係が?」
私の質問を無視して幽真は続ける。
「みことの会話していておかしいと思ったんだ。神社で語り合ってた時のみことは明るくて、親しみやすくて、それでいて芯のある強く逞しい性格だなって、僕はそう感じた」
正直のところ、今すぐにでも
でも、それは出来ない。
その手は私から掴んだもので、私の為に伸ばしてくれたものだから。
私はぎゅっと強く彼の温かな手を握る。
「【廻廊】に入ってからだんだんと弱気に、精神虚弱な風に変わっていくみことを見たときは、閉鎖された空間にいることとか、薄気味悪い薄暗さとか、そういう負の環境的作用で本来の性格が見え隠れし始めたんだなって思ってた……みことには申し訳ないけど、僕は、まだ関係の浅かったさっきまでの僕はそう考えてしまったんだ」
「申し訳ないだなんてむしろ私の方が謝りたいよ。はるまの前で弱気な発言ばかりして、無駄に気を使わせちゃって……で、それがどう絡んでくるの?早くしないと追いつかれるよ!」
「あはは、そう焦んなさんなってば。物事には順序があるの。それにあの手が近づいてきてくれれば検証が出来るからさ」
「検証って?」
「まぁまぁ、落ち着いて、ね……話を戻すよ。僕はみことの状態をそのように捉えていたわけなんだけど、それが間違いだったんだよ。みことは異常な状態……
【霊力】を受けていた?
何時、何処で、どうして?
「いろいろ疑問に思うだろうけど一つ一つ解説していくね。まず【霊力】の作用を受けている根拠はみことが証明した……ていうか自分で言ってたよね。僕は実質初対面なわけだからそういう性格ってことで済ましたけど、みこと自身は違和感を感じていたんだろうね。『いつになく悲観的』、みことのその言葉にまず僕は注目し、みことが精神異常を受けている可能性を思いついた」
「……でもそれっておかしくない?私が効果を受けてるのにはるまに何の異常も無いのは何で……って、うわっ!!」
遂に手の群れが私達を飲み込んだ。
怖い、逃げたい……これも精神影響のせいなのか?
「それは説明が出来るよ。僕とみことが異なっていた点。この【廻廊】内で僕達が違っていたことは……?」
その様子を見ていた私も冷静さを取り戻してきた。
そうだ、私達には確実で決定的な相違点がある。
私と
「手と接触した回数!!」
「イグザクトリー!!相手が何をしてくるか分からなかった当時は、危険を回避するためにみことに手を払ってもらっていた。戦闘向きではない僕はあの時後ろで待機していたわけだから、僕達の行動で異なる点と言えるのはそれだけなんだ。此処が【廻廊】であることに惑わされていたけど、【霊能】はこの手の付属効果なんだ!!」
なるほど、【廻廊】という特殊空間によってもたらされた異常ではなく、この手を媒介として感染したのであれば説明が付く。
てか
もうこんな手は怖くない。
ただ絡みついてうっとおしいだけの【怪異】でしかない。
「それで、その【霊能】をこいつらが私に掛けた理由は何なの?」
「大分良くなったみたいだね。理由なんて単純さ。【忌み付け】を見破られないためだよ」
「だから、【忌み付け】が何なのか分からないの!じらしてないで教えてよ!」
「じらしてないさ……ただタイミングを見計らってただけだよっ!!」
勿論私の右手を握ったまま。
「ふぇっ!!?」
私はよく分からないまま
さっき言ってた検証とやらをするつもりなのかな?
「みことが僕に気付かせてくれたんだよ、ありがとう!!」
握手するように、
何が何だか分からないでいると右手が強く引かれた。
私達、正確には
その手はどんどんと【廻廊】の奥に向かって私達を導く。
行く手を塞ぐ扉は次々と開け放たれ、だんだんと廊下全体が明るくなっていくのを感じる。
何十枚と開いた扉を超えていき、やがて私達は広い空間へと投げ出された。
「はるま……【廻廊】抜け出せてないよ?」
「半々外しちゃったみたいでね……けど結果オーライさ、君に会えたんだから」
一瞬私のことかと思ったが、すぐにそれが違うことに気付く。
常夜灯のような黄昏色の広場の真ん中に佇んで……いや、座っていた。
白い裸体の人型が、身体に何本もの細長い腕を生やした怪物が、この【廻廊】の使い手が私達の目の前で、地面に伏して泣き喚いていた。
「何、デ……ワたチに……近づケタ?」
「此処の【忌み付け】を暴いたから、それだけさ。君が敢えてその手から僕達を遠ざけるように【霊能】をかけていたから分かったんだよ。ずばりこの【廻廊】の【忌み付け】は『その手を掴む』ことだ」
なるほど、さっきの私への感謝はこれのことか。
私が
ちなみに【忌み付け】は【霊能】の使用者の心内に秘められた欲望やトラウマそのものだとされている。
そこに明確な理由など存在しない。
それ自体が意味なのだから。
そして、その忌みが【霊能】をより強固にし、一方で弱点や急所としての意味を持つのだ。
「より正確だと『繋がる』行為そのものかな?手や扉は繋がりとその境目の象徴、僕達を此処に連れ込んだのは出会いという『繋がり』を果たしたから、そういうことだよね?まぁ、他にも連れ込む条件があるだろうけど……僕の予想は大体当たってるかな?」
「ツナガリ……ワたチ、怖イ……痛イの嫌イ……一人、怖イ……でモ、一人ガ良イ……違ウ?」
【怪異】が立ち上がり、こちらを振り向く。
顔は一本の腕から生えた大きな手によって隠されている。
背丈は2mと大きめだ。
首の当たりにネックレスのような物を付けている。
「話は通じないかぁ。困ったなぁ……此処から出してもらうように交渉しようと思ったんだけど」
リュックをその場に置き、背伸びをしながら幽真は残念そうにそう言う。
「はるま、どうする?」
「みことも分かってるでしょ。もう構えてるじゃんか。僕からはよろしくとしか言えないよ」
距離はおよそ50m。
「りょーかいっ!」
【廻廊】は謂わば使い手の心想世界。
使い手に問題が起きない限りは創り保つことが可能。
つまり、私がすべきことは……。
「【廻廊】の主、今から貴方を拘束させていただきますっ!!」
私は全速力で白い肌の【怪異】に向かい走り出す。
「ワたチのそバに……近づクなァッ!!」
相手は私を妨害するために無数の手を創り出す。
次々と向かい来る手を薙ぎ払いつつ、怪異もジョ〇ョ読むのかな、なんて下らない事を考えていた。
うん、いつも通りになってきたね、私っ!!
距離は残り10m程度。
「来ルなァァッ!!!」
【怪異】は今度は五本の腕を伸ばして私に攻撃を仕掛ける。
どこぞのエテ公のような攻撃手段であるが量もリーチも段違い。
絡みつく手と相まって避けるのが中々難しい。
それでもなんとか飛んで躱し、その腕に飛び乗り、だんだんと距離を詰める。
さてと、そろそろ十分
「はあぁぁぁぁ!!!」
腕の攻撃を躱し、体を捻って鬱陶しい手を払い除け、そして私は思いっきり刀を振るう。
距離はおよそ5mで周りに障害物はない。
確実に相手に当てることが出来るはず。
【霊力】が刀より飛び出し、鮮やかな弧を描く。
【霊具】使いにも様々な流派が存在する。
私は【一刀流】、比較的扱いやすく人気のある流派の剣術を使う。
そして、【一刀流】にはいくつかの切り札がある。
そのうちの一つが【
敵の攻撃を長時間受け流し続ける程、より質の高い斬撃を、より多い回数打ち込む事が出来る、そんな奥義。
そう、今まさに描かれた弧そのものだ。
そうして斬撃は空を伝い、相手の胸元へと切り込む……ことはなかった。
六本目の腕、顔を隠していたその手が斬撃を払い除けたのだ。
【覇斬】は方向転換して壁の中に消えていく。
払った当の本人は威張るわけでもなく、ただ二つの白く濁った目から朱色の涙を流すばかりである。
恨めしいように、悲しげなように、口元を歪ませているだけである。
私は奥義を外し放心……等するはずがない。
だって、これが狙いなのだから。
弾かれることなんて想定のうち!!
「残念だね。今のはったり、だよ」
そう、今のはダミー。
私は怪異の注目を引き付けるための囮。
本番は此処から。
それも私では無く……。
「とりゃあっ!!!」
怪物はその気合の籠もった声に反応し、上を向く。
視線の先には当然
理由は単純に戦闘に参加していないから。
現状揃った情報で考えると、『手を繋ぐ』可能性が低かったからだろう。
だからこそ、積極的に前に出てくる私を敵視し【霊能】を掛けていたのだ。
そして、あの【怪異】の考えることは今も同じ。
近づいてくる対象に注意を向けてしまうのは至極当然のことだった。
まさか後ろに隠れていた人物が上から来るなんて予想すら出来ないだろう。
「近寄ルなァッ!!!」
【廻廊】の主は顔を隠していた手で防御態勢を取ろうとするがもう遅い。
私が邪魔になる障害物を予め寄せておいたのだから。
もう
「いっけぇっ!!!」
「こっちをよーく見とけ!秘技『丸ごと砂一杯掛け』!!」
……なんか決め台詞ダサいんですが。
一気に空気が冷めたんですが。
私まで恥ずかしいんですが。
「痛イイイイイイイィィィィィッ!!!」
怪物は表現できない悲鳴と共に
本日二度目の砂転け
「痛てて……どう?僕の秘技は?」
「うん、はるまがいいなら良いんじゃないかな」
「何か含み気な言い方するね。にしても気づいて無いかとヒヤヒヤしたよ」
「背伸びが上から攻めるって意味だってのは気づかなかったよ。でも、リュックから砂の入れ物がはみ出してたから何となくはるまのやりたいことが理解出来たかな」
「ははは、分かりにくくてごめんね……さて君、いい加減僕らを出してもらおーー」
青白かった顔は真っ赤に染まり、その表情は憎しみそのものであった。
「許さナい、許サなイ、許さナイッ!!ワたチ、顔、見たクなイッ!!」
【廻廊】の主はその手の一本を扇のようにして私達を仰ぐ。
襲い掛かるとてつもない風圧に私達は後ろに吹き飛ばされる。
次々と扉を超えていき、通り過ぎた扉が閉まる、その繰り返し。
そう、つまりは本日三度目の扉渡り。
悔しさとか、怒りとか、そんな感情を置き去りにして私はこう思った。
また、逆戻りですか、そうですか。
ただ茫然と、心非ずに、そう思った。
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