千秋5分
うなぎの
その声はよく響くバリトン
「ふむ、ところで君はどちらにするのかな?」
「そうですね・・・わたくしも同じものにしようかしら」
「同じもの?ぼくと?」
「ええ」
「ふむ・・・赤いきつね、そして、緑のたぬき。そんなものが実在するとは思えない、しかし、新たな発見というものは常にそう言った猜疑や常識の向こう側にあるものだ。そうだね?」
「ええ」
「ふふふ、
「よしなに」
「熱々のお揚げの甘さが染み込んだだし汁・・・なんとも楽しみだ。ところで、君は今正確な時間が計れない事を心配しなかったかい?」
「ええ、時計もタイマーもありませんし困りましたね」
「大丈夫、困ったときや行き詰ったとき、たいていのヒントは足元に落ちているもだよ。そう、今回の場合もね。そう、星だ」
「星?」
「その通り、今回、わたしたちが直面している苦難を乗り越える為に、この星の力を借りようじゃないか、つまり、重力加速度、そして、振り子。ああ!あそこをみたまえ!ちょうど上りやすそうな形をした木が2本生えているじゃないか。まさに自然の神秘だ。あれを梯子の木と呼ぶことにしよう!」
「ほんとう・・・まるで誰かが用意して下さったようですね?」
「ふふ、笑ったね?とっても素敵だよ。古来より笑いとは神を恐れぬ行為と言われて来た。今のぼくや、君にぴったりだね」
「ええ」
「重要なのは振り子を吊るす糸の長さなんだ。重要であって難しい訳ではないこれは簡単だ。2π√(L/g)=1となる計算式にそれぞれの値を代入して方程式を解くと0.25つまり25センチメートルとなる」
女、大きな木を見上げて。
「・・・はあ。25センチ」
「そう!25センチだ!だがここで問題が一つ浮かび上がってきた。その25センチをどうやって定義するのか」
「言われてみれば・・・困りましたね」
「大丈夫、この世界の神様はわたしを完全な持たざる者にはしなかったようだ。ああなんて慈悲深いんだ」
「それは?」
「これは日本国の紙幣、千円札だよ」
「まぁ・・・」
「どんな時でも持つべきものはお金だね?」
「そうかもしれませんわね」
「この紙幣の横一辺は15センチと定められている。ちょうど3つになるように折って・・・ふふ。みたまえ蛇みたいだろ・・ふふふ」
びよん・・びよん・・・。
「まぁ、ほんとう」
「あとは、手近なもので振り子を造り設置するだけだ。信じられない事に、すぐそこの川の支流に溶岩だまりが出来ている。お湯の心配も要らなさそうだ」
「この世界の神様に感謝しないといけませんね」
「君は神を信じるのかね」
「ええ、もちろん」
「実はわたしも信じているものがあるんだ。きっと、会えると」
「そうですか。会えるといいですね」
「ふむ・・・・あとはお湯を注いであの1秒周期の振り子が180回往復したら食べごろというわけだ。ただあの方法は、風など自然界の影響を受けやすい。そこでこんなものを用意した」
「それは?」
「タイマー付き専用どんぶりだよ」
「まぁ・・・!」
「これならお湯を入れて180秒正確に測ることが出来る。それにみたまえ」
「はい」
カチっ・・・シュッ!!
「お箸ホルダーだ」
「まあ便利!」
「さらにこれだ」
シュルシュルシュル・・・・ピンっ!
「まあ・・・・?」
「どんぶり内臓式の孫の手だ。これで待っている間背中が痒くなったとしても心配いらないね。実は一番苦労したのがこの孫の手なんだ・・・・なかなか思い通りの搔き心地にならなくてね・・・・結局、君の手を参考に作ってみたんだ」
「光栄ですわ」
「さぁでは早速調理に移ろうか」
「はい。ですけど・・・」
「・・・ふむ」
「大変申し上げにくいのですが・・・」
「なんだね?」
「300秒」
「300秒?」
「ええ、赤いきつねは熱湯5分。つまり300秒ですの」
「・・・・」
「この、素敵などんぶりは300秒に対応・・・」
「わたしは間違ってなどいないっ!!!!!一般的な即席ラーメンと言えば調理時間180秒、つまり3分のものが大半を占めているはずだ!これは、180という数字の約数が多く!数として優れているからに他ならない!」
「・・・」
「確かに300という数字の約数も同じく18個あるが、数字としての有用性が同じならば1秒でも早く調理できた方がいいに決まっている!」
「・・・あの」
「我々が失った2分間はどうやっても取り戻すことなど出来ないのだから!よって・・・・!」
「
「ふむ・・・・なにかなお嬢さん?」
「実は、わたくしは幼少の頃よりある特殊な訓練を積んでいます。我が家に代々受け継がれてきたとても古く歴史のある技です」
「そうか、それは大変だったろう。でも、その力が君や君の大切な人の役に立つ時がきっと来るだろうね。それで、その技というものは何なのかな?すまないね私は好奇心の奴隷なんだ」
「はい、2分という時間を正確に感覚だけで測定する技です」
「・・・なんという事だ・・・・!」
「お役に立てますか?」
「・・・これは、いや、すまない。運命だ・・・ぜひ君の力を借りたいところだったんだ」
「お役に立てて、何よりですわ」
「ふむ、ところで君はどちらにするのかな?」
おしまい
千秋5分 うなぎの @unaginoryuusei
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