二章『極道の世界』
その1
鼻腔をくすぐる芳醇な香りが、無剣の意識を泥中の底から現実へと引き上げる。
うっすらと開かれる目が捉えるは、物質間の境界を歪める曖昧な視界。木目の天井という確信すらも得られないまま、彼女は掛け布団のもたらす真夏の日差しとは異なる心地よい暖かさと感触を味わっていた。
身体を起き上がらせようにも蓄積した疲労の影響なのか、開くのは口ばかり。
それでも夢を見る程の余裕もない熟睡故か、昨日よりは確実に体調が改善している確信が抱けた。
「お……母、さん……?」
布団で惰眠を貪る久しい感覚に、意識が覚醒し切っていない無剣はつい母を呟く。
半年前の事件以降、深い眠りにつけた認識はない。
意味もなく目を開き、理由なくどこかを見つめる。眠る時にしても明確な睡眠の意志を見せた覚えはなく、単純に限界を迎えた肉体が強制的に意識を
ならば今意識を繋げている場所は自宅か。事件に一つの決着をつけ、安眠を満喫出来るまでに折り合いをつけた証か。
誠に遺憾ながら、答えは否。
「お、おはようございますです、無剣。昨日は眠れたですか?」
扉を開き、顔を見せたのは自身に遺伝子を半分提供した肉親ではなく、黒髪を腰の辺りにまで伸ばした幼子。寝巻の上に薄桃のエプロンと同色の三角巾を纏った容姿は、食欲を誘う匂いと相まって予想を抱かせる。
無剣の応答を待たずに足を踏み入れると、慣れた足取りで窓まで進みカーテンを開く。
寝惚けて正常な返答に窮する者には速やかに太陽の光を浴びせるのが一番。若年たる鵜飼が学んだ経験則の一つである。
「ほあよー……」
「ほあよーです。朝食の準備は出来てますから、顔を洗ってからでも応接室にまでどうぞです」
寝起きの少女に合わせた挨拶を返し、鵜飼は静かに扉を閉じて来客用の寝室から台所へと引き返す。
他方、容赦なく攻め立てる陽の光は頭を不規則に揺らす少女の意識を強制的に引きずり出し、徐々に頬に紅葉を咲かせた。
「……またやってしまった」
一六年経過した今でも、寝起きの弱さを克服出来た試しはない。
目を覚ましたら素早く立ち上がるのがいいとか、目覚ましを遠くに置くと効果的とか、有効な手段をネットで発見しては同じ数だけ挫折を重ねてきた。今更、独学でどうなる訳もないのだろうか。
ある種の諦観を抱きつつベッドから起き上がると眼帯をつけ、無剣はふらついた足取りで鵜飼の出て行った先を目指す。
掃除は元より、足下の整頓も欠かさなかったのだろう。扉を開くまでの間に足を引っかけることもなく、宿泊するにあたって紹介されたルートを通って洗面台へと歩を進める。
烏星ビルディングという赤煉瓦造りのビル、その三階のフロアを丸々貸し切って切島相談事務所は立地している。烏星ビルディングそのものが決して大きい訳ではないが、だとしても一フロアそのものを改造している形であるためか、来客用の寝室を用意可能な程度の面積は確保されていた。
それは同時に、洗面台までの距離があることも意味する。
「つめたい……」
足下のフローリングは朝方特有の低気温を如実に反映し、無剣の足から体温を奪い去る。寝室のすぐ側にファー付きのスリッパがたてかけられていた事を思い出すも、今更引き返す気にもなれないと強硬。
結果、洗面台で顔を洗い終えた頃にはすっかり意識も平常のそれへと回帰していた。
「……」
水気の滴る顔を鏡越しに眺め、視線の先を合わせる。
目の下に浮かぶ隈は深々とし、レンズの如く絞られた赤目は他者を寄せつけぬ拒絶の意をありありと示す。今の表情から、かつての快活な姿を想像しろなどと言われれば、彼女自身にも困難を極める事態になっていたことだろう。
付近のタオルで顔を拭い、改めて眼帯を装着すると次の目的地である応接室へ身体を動かす。
距離が近づくにつれ、鼻腔を刺激していた香りが鮮明となり、そこから食材や料理の推測も朧気に前進した。
「ベーコン、コンソメ……懐かしい匂い……」
自然と口内に涎が溢れ、意識して喉を鳴らさねば口から漏れ出んまでに。
寒気の漂う廊下を抜け、応接室への扉を開く。
「お、起きましたですか。朝食なら丁度完成した所です。
あ、アレルギーとかはなかったですよね?」
「大丈夫ですよー、そこら辺は。精々納豆が苦手な程度で」
「おやおやおやおや、外国人ならまだしも珍しいですね」
「よく言われますねー。ネバついた食感、みたいなのがキツイんですよね……」
懐古するのは母親が存命の頃。
料理好きだった母が納豆嫌いを克服させるために、色々と工夫を凝らしていたこと。別の食材が苦手なこともあってか、あまり強く出られなかった父のこと。
朝食を前にして考えることでもないと頭を振ってみても、一度浮かんだ思考が中々離れない。
「駄目だ、駄目……今考えることじゃない……」
「食事時の度に思い出すのはしんどいですよ。ささ、とりあえず座って座って」
鵜飼の言葉に習って椅子に座ると、眼前に迫った料理が一層の食欲を誘う。
焦げ目がつくまでに焼き上げられたベーコンと、キャベツとジャガイモを細かく刻んだコンソメスープ。朝にしてはやや重いかもしれないが、壊滅的な食生活を行っていたこれまでを思えば、バランスも取れるといったところか。
両手を合わせて一礼し、食卓に並ぶまでの全ての労力への感謝を言祝ぐ。
「いただきます」
「いただきますです」
皿を囲う食器の内、まずは箸を手に取りベーコンを一齧り。
「美味しい……!」
一噛みするごとに小気味いい音を立てて口内に肉汁が広がり、肉の味わいが落ち込んでいた感情を持ち上げる。
実に安い女だな、と心のどこかで自虐を零し、左手をスプーンへ持ち替える。
黄金色、とでも形容すべきなのだろうか。微かにブラックペッパーを振りかけた後のある液体を口元へ持っていき──
「こっちも美味しい……!」
「おべっかでも嬉しいですね」
素直な感想を述べ、鵜飼もにわかに表情を綻ばせる。
無剣は食卓から視線を上げると、鵜飼の隣席にも一つ、朝食が立ち並んでいた。出来立てでこそあるものの、主が訪れないことには徐々に熱も奪われていく。
客人である無剣だけを歓迎した訳ではないだろうと、食卓を囲うはずだった少年の不在を問い質すこととした。
「切島さんは?」
「アイツならいつもの日課です」
「日課?」
極自然な調子で鵜飼は答えるも、昨日顔を合わせたばかりの男の習性など把握出来ようはずもなし。無剣は首を傾げて単語を半数した。
その意を汲み取ったのか、鵜飼は言葉を続ける。
「アイツは墓参りからの訓練を毎朝繰り返しているです。だから朝食も少し遅れるんですけど、んなの考慮して二度手間するのも面倒だから準備してるだけです。
どうせもうそろそろ帰ってきますですし」
「そ、そう……」
担当者から淡々と述べられてしまえば、質問者側は納得せざるを得ない。
鵜飼は慣れた手つきで料理を口へと運び、咀嚼。既に作り慣れたメニューなのか、特段、感嘆を口にせず静かに処理する。
食事中に持ち出す話題もなく、共通する話題もまた不明。元より二、三日程度の付き合いでは、互いの深部を掠めることすら叶わない。
故に、持ち出す頃合いは互いに皿の上を空にしてから。
「ご馳走様でした」
「ご馳走様でしたです」
両手を合わせて感謝を口にし、続けて無剣が口を開く。
「ところで、情報収集の件はどうなってますかー?」
昨日の今日で進捗が捗る訳もないが、依頼した少女としては否が応にも意識を傾けてしまうというもの。ましてや、臓器を売り払う覚悟まであるとなれば尚更。
残された左目に灯る焔に理解が及ぶのか、鵜飼もまた食器を片づけつつも言葉を選び、誠実な対応を心がける。
「情報収集ですが、早ければ昼にでも聞き取りにいけますですね」
「早いねッ」
作業の手間を想像出来ない者が軽率に語るかの如き迅速さに、思わず無剣も驚愕を零す。
とはいえ、何も無から情報を引き出した訳でも下された天啓に従った訳でもない。
隠す必要性もないためか、鵜飼は軽い調子で情報源を口にする。
「昨日無剣さんを襲った襲撃犯、切島が叩き潰した連中から比較的軽傷だった奴にちょっと質問したんですよ。
貴方達を雇ったのは誰ですか、と。
雇い主さえ分かれば、後は上役である澪音人材派遣を経由して話し合いの場を設けてもらうだけです。今はその承諾や相手側の都合を調整している所でしょうですね」
何せ急な話でありますですし、と続ける鵜飼の手にはビニール手袋が二つ。油ものを手早く処理するために洗剤とスポンジを活用する。
一方で無剣は速やかな手際に感心しながらも、徐々に一つの疑問が湧き上がっていた。
それは鵜飼がランドセルを背負っても相応しい体躯であったためか。
もしくは社長であるはずの切島がただひたすらに実働要員以上の活躍を見せないためか。
蛇口から捻られた清流が洗面台を叩き、アルカリ性洗剤によって皿から乖離した油分と共に泡立った成分を根こそぎ洗い落とす。
洗濯を終えて向かい合って座る鵜飼を一目すると、無造作に伸ばされた白髪を左右に揺らし、無剣は意を決して言葉を紡ぐ。
「鵜飼さん、その……仕事多くない……? 切島さんと比べて」
「そうですか、鵜飼は問題ありませんが」
常軌を逸した作業量による忙殺は、時として当事者から全うな感覚を奪い去る。それは数多のブラック企業が経営破綻に追い込まれない一因であり、自殺を選択肢へ加えないために遺伝子が構築した人間の防衛本能の一つでもある。
一見すれば変わらぬ表情だが、顔の裏にどれだけの疲労を隠していることか。
「だって私への対応に朝食に……多分、情報収集も鵜飼さんがやってるでしょ?」
「それはそうですけど」
「やっぱり多いってそれ」
「だって私には微かにでも烏星の血が流れてますから」
無剣の不安を押し切るように、鵜飼は自らの出自を明かす。
「烏星財団。表でも世界的に有名な財団ですが、そうなると当然ながら血縁も尋常ならざる数となりますです。
その一つが鵜飼の生まれた鵜飼家。血族経営が珍しくない烏星に於いて、上層部に食い込むことも叶わない程に血が薄い、端流も端流な家です。
その上、鵜飼は末妹。横並びの作業では、逆立ちしたって美味しい地位にはつけませんです」
だから無理を重ねているのか。
無剣の視線から感じ取ったそれを否定するように手を振り、鵜飼は言葉を続ける。
「そもそも無理なんてしてませんですよ、鵜飼は本当に平穏無事。この程度の仕事なら望む所なくらいです。
後、切島は実働でこそ本領を発揮する男。なので、そこさえ果たして下さればいいんですよ」
「そう……なら、いいけど……」
言葉とは裏腹に無剣は何かを言いたげであったものの、鵜飼自身が否定している以上は更に踏み込むこともない。故に視線を僅かに逸らして、口を噤んだ。
すると、机に置かれた携帯端末が着信を告げる振動とメロディを鳴らす。
聞き慣れない陽気な旋律はアニメかドラマの主題歌であろうか。世代の差が脳裏を過ったものの、無為に過ごした半年の中で放送された可能性もある以上は意味のない仮定か。
「はい、こちら切島相談事務所……えぇ、はい。私が連絡した鵜飼ですが……えぇ、分かりましたです。では昼辺りにお伺いしますです」
相槌を数度。
いくつかの言葉を交わして通話を切ると、無剣と向かい合う。
「無剣さん、連絡が取れました。昼前に事務所を出ますので、身支度をしておいて下さい」
「連絡って。まさか……!」
「そのまさかです。澪音人材派遣から連絡が取れて、向こうとの都合がついたみたいです」
ですので今の内に準備をしていて下さいです、と告げ、鵜飼もまた洗面台へと足を進める。
その様子を眺め、無剣は一人着席したまま声を上げた。
「外に出るんでしたら、その前に一旦シャワーを浴びたいのですが」
「シャワーですか。別に時間がかかっていいならお風呂でも沸かしますですが?」
「シャワーがいいので大丈夫です」
鵜飼からの提案を突っ撥ね、無剣は主張。
怪訝な表情を浮かべた幼子ではあったものの、右腕の包帯へ視線を向けると急速に彼女の要求を理解したのか。首肯してガスコントロールパネルへ足を進めた。
即座に準備は整い、無剣は鵜飼に遅れる形で席を立つ。
脱衣室には洗濯機と替えの衣服を置く棚、そして脱いだ服を入れるための籠が設置されていた。衣服を軽く手に取ってみると、それは正しく無剣の制服であり彼らは本当に要求を呑んでくれたのかと一人相槌を打つ。
手渡した鍵の返却を未だに済ましていないと気づくも、どうせ当分の間は帰宅することも叶わない。ならば今暫く切島に預けていても支障はあるまい。
もしも他に回収してもらう物があれば、その都度赴く必要があるのだ。一々鍵を渡すよりもある程度事が済んでから返却して貰った方が効率的というもの。
昨日今日知った他人を自宅へ上げる行為に抵抗はあるものの、背に腹は変えられない。
いつ着替えたのか覚えのない寝巻を左手一本で脱ぎ、無造作に籠へと放り込む。
「……」
残されたのは、包帯を巻いた右腕。
碌に洗濯も交換もされず、汚れに汚れたそれを左手で解く。
「なんでこんなものを」
包帯を目にする度、眼帯を視界に納める度に過る言葉を一人吐露。
濡らしてはならないと病院の関係者に告げられたが、そも半年前まで歩んでいた日常に純白の布が右腕に差し込まれることはなかった。眼帯など必要なかった。
両親に断りもなく相談事務所に赴く用事などなかった。
包帯を掴む左手に、力が籠る。
当然のように続く毎日。平穏なる日常。
理不尽に奪われ、不条理に砕かれた象徴を手にした感触に吐き気がする。
本来なら緩めるべき包帯が、腕を青く染める程に強く締められる。
「湯加減はどうですかー?」
「ッ……!」
無剣の意識を現実に引き戻したのは、扉の先で身支度を整えている鵜飼。
思わず掴んだ包帯を手放し、床に広がった所を拾い上げる。脱衣籠へ入れる訳にもいかず、代わりに着替えの棚へ収納しておく。
跳び込むように一糸纏わぬ姿で浴室へ足を運ぶと、左手でシャワーの蛇口を捻った。
適度に熱された湯水が清潔感に欠けた身体を濡らし、湧き立つ蒸気が適度な湿気を浴室全体に行き渡らせる。素肌を叩く感覚は心地よく、水滴が未だ凹凸に乏しく未発達な胴体を滑り下りる。
このまま、疲労諸共に嫌な思い出も流れ落ちてしまえばいいのに。
「ただいまー」
呆けていた無剣の意識を再び引き戻したのは、やたら威勢のいい玄関からのかけ声。
切島の声で身支度の途中であることを思い出した無剣は、身体を洗おうとシャンプーへ手を伸ばす。
「……まだ、まだ流せない」
黒く滾る激情こそ、今はまだ必要なのだ。
欠片足りとて、一粒足りとて手放す訳にはいかない。
家族と右目を奪った相手に、全てを清算させるまでは。
思考が深く沈み込んだ故か。それとも、まさかそのようなことが起こるはずがないと思い込んでいたためか。
「おい、切島ッ!」
「お湯は湧いてるんだろ、だったら別に──」
水音が鼓膜を振るわさなかったのか。
浴室と脱衣室を隔てる扉が開かれ、不審な音に無剣が視線を向ける。
視界に跳び込んできたのは──
「……」
脂肪を絞り、鍛え上げられた肉体。ボディビルダーが作り上げる筋肉の鎧とは異なる、必要な肉のみを的確に備えた身体は駆動面に於ける最適解。既に若干の赤みを帯びた全身は滴る汗と相まって、今日もまた訓練を施した後なのだろうと推測させた。
鍛え抜かれた肉体の上からは数多の銃創と裂傷の痕が生々しく刻みつけられ、いっそグロテスクなまでの芸術を形成する。
問題があるとすれば、それを目撃する無剣もまた一糸纏わぬ容姿であること。
「え、え。え……?」
「あぁ、先客がいたのか」
事態が飲み込めず、困惑の声を零すばかりの無剣とは対照的に、切島は一番風呂を逃したことだけが問題だとばかりに額へ手を当てた。
そして齢一六の少女がシャワーを浴びているという意味も理解せず、少年は浴室への一歩踏み出した。
「え、なんで……私は……?」
咄嗟に身を屈めてしゃがみ込んだ無剣の質問にも、切島は首を傾げて答えるばかり。
「別に一緒にシャワーを浴びるくらい問題ないだろ、金も浮くしな」
「……安い身体と、タダの身体は違いますのでー……ドア、締めてくれません……?」
「ええー、でも──」
否定され、なおも切島は言葉を紡ごうとする。
いい加減、温暖差に無剣も一定の肌寒さを覚え始めた頃だろうか。
「お嬢さん《レディ》の扱いも知らないんですか、切島ァッ!!!」
背後からの叫びが二人の鼓膜を劈いた。
「……」
借りてきた猫、ということわざがある。
江戸時代初期に於いて貴重であった猫を、他の家が鼠狩りのために借りたはいいものの本業を果たすこともなく大人しくしている様を由来とする慣用句。
転じて、普段とは違って大人しい様を指して用いられることが主な使い道である。
応接室で縮こまって顔を下げている無剣は、ある意味ではこれ以上なく的確に用途を満たしていた。
正面に座する二人からは窺えないものの、下げられた顔は茹で上がったタコよろしく朱に染まり、不規則に自由落下する汗が足下を湿らせる。
「別に減るもんでもないでしょ。気にするなよ」
「……」
切島なりの慰めなのかもしれないが、加害側が口にしてはならぬ内容に鵜飼は射殺さんばかりの鋭利な眼差しを注ぐ。
使用中の浴室へ侵入してきた切島は、あの後鵜飼に引きずられる形で強制連行されたがために無剣はあの後、慌てて全身を洗って清潔を保つことが叶った。一方で切島自身も、一度連行されてからは彼女の退室を待ち、そこから改めてシャワーで汗を流したのが事の剣末である。
残る問題といえば、部屋全体に充満する気まずい空気。
「ほら、さっさと食って出かけますですよ」
「んだよ……お、いい感じの焼き加減。いつもいつも美味いなぁ」
促されて焦げ目のついたベーコンを齧り、小学生の如き満面の笑みを浮かべる切島。
歳が極端に離れている訳ではないものの、切島が無剣の方を意識する様子は皆無。故意ではないにしても年頃の少女の裸を目撃しておきながら赤面の一つもなく、視線を這わせる仕草も絶無となれば、まるで自分に魅力がないとでも言われている錯覚を覚える。
確かに凹凸には乏しいが、と自身の胸元に手を当てる無剣を他所に鵜飼は鋭利な視線を突き刺す。当の本人は、何故そのような視線を注がれているのかすら検討もつかない。
「切島ぁ……」
「なんだよ鵜飼。大体お前が言ったんだぞ、外で汗流したら風呂なりシャワーなり浴びろって」
「新人社員だってもっと融通が効くですよ、流石に」
悪態を零し、切島が空にした皿を片づける。
皿を洗い終えた鵜飼が窓際に設置された古めかしい振り子時計で時刻を確認すれば、既に一一時を回っていた。いつの間にそこまで経過していたのかと疑問に思うも、落ち着くにはやや騒動が数あったかと自己解決する。
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