ユリの花:ゆきましょう
貴方とは、本当に、たくさん遊び、お話ししましたね。貴方が作るいろんな顔を見て、わたしは知りました。ああ、貴方の中には、貴方の愛する人々が星のように瞬いているのだと。泣き、笑い、怒り、悩み、みなが生を謳歌する。お認めにならないかもしれないけれど、貴方はご自分の周りの人々を、嫌なところもひっくるめて、ぜんぶ、愛したかった。いえ、愛していたのだと思います。そうでしょう? 言葉や態度では貴方の想いはなかなか上手に伝わらない。だから音を紡いで込めた。貴方が慈しむ人々への、やさしい愛を。すべての人が救われますようにと。
わたしたちはきっと、同じ夢を見ていたのでしょう。この世のすべての人々が愛し愛され、赦される世界を夢見てた。ああ、やっとわかりました。ああ、そうか。わたしは、赦されたかった。
その為に、生きることに理由を求め、誰かに「あなたが必要だ」って言って欲しかった。誰にも求められないわたしに価値なんて、到底感じられなかった。自分で自分を赦せなかった。だから、誰も知らない黄泉へ希望を見出すようになり、己が魂さえも裏切って、わたしは目を閉じた。哀れです。けれど、貴方はそんなわたしすら軽々と拾い上げ、微笑みかけてくれました。貴方の大きな愛に触れ、その命こそが美しいのだと知りました。
わたしは貴方にとっての何者かに成れたでしょうか。野暮な問いですか? ではいつもの冗談と思って、わたしの提案を聞いてください。あなたの心に流れ続けた隣人愛を、歪ながらわたしも夢見た人間ですから、わたしのことはひとつ「愛人」とでも呼んでみるのは如何でしょう。色々考えてみましたが、これよりユニークで素敵な名前はありません。誤解して貴方は笑うでしょうか。そうですね。貴方はひとしきり笑った後に、きっとピッタリだって喜んでくれるでしょう。
ありがとう。なんて、余所余所しいですか。でもありがとう以外にもう言葉が見つからないのです。貴方はわたしを見つけてくれた。最後に一度だけ、もう一度わたしを見つめてください。ありがとう。わたしのことはどうか、忘れてください。ここから先は、ひとりで行きます。わたしもわたしの為に歩いてみたいのです。あなたが教えてくれたこの足で、腕で、心臓で、瞳で世の人たちと話してみたい。最初はうまくできなくて、もしかすると泣いてしまうかもしれません。やっぱり死んでしまいたいって、思うかもしれませんね。ふふ、ええ、大丈夫。春が来れば、きっとまた、無邪気な貴方が微笑みかけてくれますから。
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