バラの花:序

 憎たらしい人。むごい人。あなたは私に望んでばかり。下品な遊びに響く低劣な嗤い声。あなたの奔放さと強烈に火走る才能が、どれほど私を締め付けてきたでしょう。ええ、わかっているわ。私はあなたの全てに応えてやるのだと。いつもあなた、私に挑むでしょう、そうやって、ねえ、私を怒らせたい? だめよ、ヴォルフィ。あなたにはできないわ。だって、私、あなたが今何を考えているか、何をしたがっているか、すぐにわかるんですもの。怒って、泣いて、苦しんで、それでも私のことを愛してるって、いつも最後に言うでしょう? そんなあなたがいちばん可愛い。大丈夫。たくさん泣いて、たくさん笑って、あなたは私に、あなたのやりたい事を、ただ、示せば良い。ほら見せて。あなたの内側、いま、何がある?


 きっと私はあなたを傷つけているでしょう。でも、あなただって、それがわかっているくせ離れない。私に触れる時は心して。ゆっくりと、あなたの肌を。そう、ゆっくりと。そうして滴る血のぬくもりは、あなたと私が共に在る、たしかなしるしとなるでしょう。しるしの数も数えきれぬものになった頃、あなたを愛する人々が口を揃えてきっと言う。

「モーツァルト、君は天才だ」

なんてね。

違うのよ、私はあなたに笑っていてほしいし、あなたのままで飛び回っていてほしい。昔、あなたが私の姉さんにこっぴどく振られた時、


「僕を好かぬキミなんか、僕だって大っ嫌いだ!」


ってクラヴィーアを叩いて叫んでた。


私、あの頃からずうっと、あなたのことが大好きよ。だから、私に歌わせて。あなたが紡ぐ言葉の音を。かわいいかわいい、私のヴォルフィ。

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