ユリの花:うつろびと

 貴方と共に在ることは、ゆるやかにうごめき淀んだ渦に身を任す。そんなたのしみがありました。貴方といると、わたしは自分が何をしでかすか、皆目見当つかなくなってしまうのです。貴方の手をとり、貴方の景色を見、貴方の瞳に映るわたしが見える。そうして、そう、そうしてようやっと、わたしは自分の姿を知るのです。


 自分でも、わたしは一体何者だろうと、わからなくなる時があります。そんな時いくら自分にそれを問うてみても、答えは一向に出て来ません。そのような考えそのものが、きっと向いていないのです。ただ、またこうしてやさしい淀みに身を任せ、深く奥の、つややかに佇む透明を見つけては、ああ、わたしはただ、人間だったと思い知る。そうして初めて、わたしは呼吸の仕方を知るのです。

 ・・・・・・けれども、こうも思います。もしかするとわたしは、もう疾っくに死んでいるのかもしれないと。深く深く眠りについた、あの時すでに死んでいて、目を覚ましたこの現実は貴方の夢なのかもしれません。











 ごめんなさい。少し、可笑しくなってしまいました。とつぜん要領を得ないことを云うと、貴方もお困りでしょう。でも、なに、何もかもはっきりしなくたって、良いじゃあありませんか。する必要がありません。わたしは貴方の夢に遊ぶひと。それで良いのです。貴方がわたしの手を引けば、ほら、わたしは貴方の思うとおりに動くでしょう。笑うでしょう。嘆くでしょう。さて、次は ?



 こうして、ずうっと遊んでいられます。色んなわたしの顔を、作って、壊して、作って、愛で、作って、放る。貴方はずうっと子どものまま。


 わたしは貴方の夢なので、なんでも作ってくださいね。大丈夫。最後にきちんと崩れますから、跡形も残りません。さあ、お別れしましょう。きっと、またここに戻って来てください。どれだけ時間が経ったって、かまいません。


 わたしは貴方の夢に遊ぶひと。何度だって死に、何度だって生きましょう。この世はわからないことだらけ。そうでしょう? ヨハネス。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る