🚱12 御遣いとは

「御遣い様、ようこそお越しくださいました。我らはあなた方を歓迎いたしますぞ」


「みつかい?」


 愛唯あおいの鸚鵡返しの問いかけに、集団から一歩踏み出した男性が答える。


「この泉は、女神ファリテー様の心が清水となって湧き出るもの。我らの祈りが届き、あなた方が現れたという事は、女神ファリテー様の遣わした御遣い様でございましょう」



 何というか、勝手な人達だ。


 まず、私達がなぜここにいるのかという説明になってるようでなっていない。

 この人達が、神さまにお願いして──たぶん何かの助けになる人物を望んだのだろう──私達が現れたというが、なぜ助けを求めたのか、何故それが私達だったのかの説明がない。


 そして、いきなりようこそお越し、歓迎しますぞと言われても、こちらの都合や感情は二の次なのね? 黙って連れ出したら誘拐と変わらないよね?


 私達を御遣みつかいだと断言してるけど、私達は女神様とやらに会ったこともないし、この人達を助けてやれとも誰にも言われてない。

 泉に祈ったら私達が出て来たからと言って、この人達の勝手な理屈に過ぎない。


 そして、喚び出された人が必ず自分達の役に立ち、助けになると思い込んでるけど、そんなのこっちにしたら、知ったこっちゃないやんと言いたい。ただの女子高生に何を期待しているのか。


 こんな、漫画や映画のような事が現実に起きているのが、どこかドッキリなんじゃないかと思っている私が居る。


「さっきまで何言ってるのか解らなかったのに、急に通じるようになったけど、ご都合主義のドッキリ企画とか、人を騙してるんじゃないわよね?」


 愛唯あおいの疑問はもっともだ。私だってそう思ってる部分がある。

 そして、幾ら胡散臭くても、これは現実だ、しっかりしろと語りかける自分もいる。


 シュルリ


 乾いてきたのか、パーカーのフードに隠れて頭に張り付いていた髪が一房、肩に垂れてくる。


 真珠色の透き通った白髪。


「⋯⋯ちょっと、萌々香ももか。髪。元の色出てるよ? 水に濡れて直ぐ落ちる染料使ってるの?」


 勿論、美土里は知っている。私が子供の頃から、総白髪である事を。厳密には白髪ではなく色素の極端に薄い白っぽい金髪だ。父親が北欧圏の人で遺伝父親譲りだ。帰化したので、名前も国籍も日本だけど。


 普段は染めている。勿論、お風呂で髪を洗っても一度や二度で落ちるような染め粉は使っていない。


 爪と同じく、人と違う姿は虐めや迫害の元なので、普段は隠している。


 けど、なぜ今、地の色が?



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る