🚱9 中指の爪

 キリリと中指の先が軋む。


「痛⋯⋯」

「あ? 萌々香ももか、また、爪が⋯⋯」


 美土里みどりが、愛夏音あかねと繋がってない方の手で私の左手の中指を握って隠し、私を力づけるようにより身を寄せてくれる。

 水が苦手である事と同じく、これも幼馴染みの美土里しか知らないことだけど、私の手の中指は、爪磨きをした訳でもないのにトップコートを塗ったような艶と、研き込んだような滑らかな表面をしている。つけ爪でもこうはいかないほどに。

 手触りもガラスや水晶のようである。

 しかも体温が上がるような、運動をした時や神経がたかぶった時は、真珠や色の淡い螺鈿のように、虹色の艶を出す。


 人に見せたら気味悪がられるだろうから、あまり人に手は見せないようにしている。秋冬なら手袋もはめたままで過ごす。

 今は、学校も休みだし校則も厳しくないので、すべての爪にトップコートを塗って誤魔化している。


 その中指の爪が、青みの強い真珠色に染まってキリキリと痛むのだ。

 まあ、青っぽいのは周りの色を反射してるのかもしれないけど。


 怠い身体を支えながら、そんな事を考えている間にも、愛唯あおいは抜け出そうと暴れるし、愛夏音あかねは泣き叫んでいる。

 美土里も、愛夏音あかねに引っ張られながら、私を抱き寄せて震えている。


 漫画や映画のように、異常事態に陥ってもあれこれ動けるものではないよなと、どこか他人事のように考えていると、愛夏音あかねの悲鳴と共にジワジワと水の檻が縮み始めた。


 このまま、私達溺れちゃうの!?



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る