🚱8 水の檻

 透き通った緑がかった青色の水の壁が、私と美土里を飲み込もうとしている。


 あまりに透明度が高く、水壁の向こうに、蘆やイグサ、ガマの穂、花菖蒲やトチノキなど、対岸を彩る植生が透けて見える。


 いや、例え上流でダム湖からの放流があっても、山に溜まった水が出て鉄砲水になっても、私達を覆い被さるように波が立ち上がるっておかしくない?


 常識では考えられない事態が起こっていた。


 なんて言っている間に、私を抱き寄せた美土里ごと飲み込まれる。


「美土里!! 萌々香ももか!!」


 水の檻の外から、愛夏音あかねの私達を呼ぶ声がした。


「ちょっと、何よ、これ⁉」

「うっそ⁉ こんな、水が? なに? 水色の巨大アメーバとか⁉」


 有り得ないものを見たらしい愛唯あおいの悲鳴と、それを巨大アメーバと例える愛夏音あかねの声。


 私を川に突き落として、道の上から見下ろしていた愛唯あおいがなぜか、水の檻の中に飛び込むように落ちてきた。


「いっ⋯⋯た。何なの」


 球状に、泡のように作られた水の檻の中で、私達三人は周りを見る。

 檻の中はちゃんと酸素があって、呼吸が出来るだけまだましだが、異様な事態であることには変わりはなかった。


 美土里の、愛夏音あかねと繋いだ片手は水の外に伸び、繋がったままだ。


「ちょっと、もう、やだ。何なの、これぇ。誰か助けてよぅ。美土里、体重かけていいから早く上がって来てよぉ」


 泣きわめきながら、愛夏音あかねが美土里を引き上げようとしている。が、私を抱えているからか、異様な事態に放心しているのか、美土里は動けない。


「ちょっと、冗談じゃないわよ、何なの? これ。出してよ!」


 愛唯あおいが、ヒステリックに怒鳴りながら、水の檻を掻き分けたり叩いたりするけど、一瞬は水の外に手が出るものの、すぐに弾かれるように中に押し込められる。


 勿論、出ようとしても、身体は弾かれて出られなかった。


 こんな、マンガかSF映画みたいな現象、現実味がなくて、美土里も私も、川の中にへたり込んだまま、何も出来なかった。



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