🚱7 蒼の色



 普通の川でも、上流のダム湖が放流される時、最初はゆるゆる水が増え始め、あれ? と思った時には、一気に水嵩が増し、押し流されると聞いたことがある。


 今、魚が泳ぐのにたまに飛び跳ねるくらい水が減った後、ジワジワと下半身が浸り始めていた。


 愛夏音あかねも思い当たったのか、今すぐ上がれと叫ぶけど、貧血でも起こしたかのように小刻みに震え手足に力の入らない状態では無理だった。


「美土里だけでも先に⋯⋯」

「何言ってんの、助けに来たんよ、一緒に⋯⋯!」

「共倒れすることは無いやん、上がって!!」


 全身が怠くて顔も上げられず俯いたまま怒鳴る。

 私を助けに来て、美土里が一緒に流される謂れはない。


「仲良く死ぬつもり? 捕まって」


 外灯に手をかけ、片腕を私達に差し出す愛夏音あかね


 幸い、落ちた場所は道のすぐ横なので、美土里の伸ばした手が届く。


「何⋯⋯? あれ⋯⋯」


 愛唯あおいの掠れた声を不審に思って、顔を上げると、私のすぐ後ろを見て戸惑って⋯⋯ううん、怯えているみたいだ。


 なんだろうと振り返った時、見えたのは一面の蒼。


 蒼──やや緑がかった深い青色。その昔、青とは植物の葉などの山の青々とした色のことだったらしい。だから、信号も青と言いつつ、少し緑っぽいのだと聞いたこともある。


 その、昔家族旅行で見た富士の忍野八海おしのはっかいの透き通る緑がかった水の色を思い出す美しい蒼色が、私と美土里に覆い被さろうとしていた。



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