暗闇の中で走る

大きな化け物がぽっかりと黒い口を開けて、この場所を食べてしまったかのような暗闇の中で、風が木々を揺らし、げらげらと笑い声をあげている。

遠い場所で獣が吠えた。

寂しいのだろうか、遠くまで響くように吠えている。

何度も聞こえてくる遠吠えが耳に飛び込んできて、全身がすくんだ。

がっと自分の膝ほどもある長さの草むらを蹴るように走り抜ける。

小動物や虫が逃げるために地面を走り回るが、暗闇の中では気づくことはできず、逃げ遅れた小動物や虫を踏み潰しそうになっていた。

いや、もしかしたら踏み潰しているのかもしれない。

焦るように足を動かす。

時折、速度を落として後ろを振り返りそうになったが、首を横に振り、走り続けた。

どれくらいたったのか、ようやく出口らしきものが見えた。

目印の淡い光が、暗闇に慣れた目では眩しく感じる。

動かしていた足が自然と止まった。

一度、ぎゅっと目を閉じてから開ければ、目に入ったのはドールハウスのような小さな町と綺麗な町に続く道。

確かめるように足を前に出す。

しっかりとした地面の感触。

無意識のうちに安心したのか息が漏れた。

疲れている足に力を入れて少しずつ速さをあげる。

チカチカと灯りが点いたり消えたりを繰り返している電灯を通り過ぎ、町へと急ぐ。

ようやくドールハウスのような大きさから、慣れ親しんでいた町の風景ほど大きさになった頃には、うっすらと太陽が顔を出していた。

人が住んでいなさそうな寂れた店が並んでいる。

中は埃くさそうだったが、確認できる程度の範囲では物は綺麗なまま、そこに残っているように思えた。

その窓に自分の姿が映る。

その姿に違和感を覚えて足を止めて、窓ガラスを鏡がわりに自分を見た。

窓ガラスにはボサボサの髪、傷ついた手足、薄汚れた服、泥で汚れている穴空きの靴が映る。

違和感を覚えたのは右目に巻いていた包帯が緩んでおり、その下のものが見えてしまっているからだった。

汚れた包帯の下にある青色。

「……早く迎えに来て、姉さん」

僕だけに与えられた彼女の魔力。

その証である青い瞳を窓ガラス越しに撫でた。

「あなたが僕を番に選んだのだから」

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