可愛らしい隣人
「ねえ、向葵さん。それ貸してください」
百均で売っていたドールの撮影に使用できるミニサイズのインテリアチェアに座り込みながら、彼女は小さな指で向葵が付けている眼鏡を指さした。
その椅子は一つ一つ手作りしているため、形やサイズの違いがあって気に入っていたが彼女の指定席になってからは触ることもできていない。
「これが気になるの? ユキちゃん」
ユキと呼ばれた青色を纏った妖精はこくこくと大袈裟に頷く。
良いことも悪いこともする隣人、妖精である彼女は寝床を求めて家に迷い込んできた。
彼女は自分よりも大きな生き物である人に怯えながらも
「インプかエルフとお呼びなら、よくよく気をつけてくださいな。フェアリーと私をお呼びなら、色々邪魔してあげましょう。良いお嬢さんとお呼びなら、あなたの良いお嬢さんになりましょう。だけど素敵なシーリーとお呼びなら、昼も夜も良い友達になりましょう」
と向葵に笑いかけた。
向葵は彼女を一目で気に入り、彼女のためにドール用のベッドを用意してあげた。
その日からユキは向葵の家の同居人になっている。
「……いいけど。メガネなんて借りてどうするの?」
「ふふ、気にしないでください」
はい、と向葵はユキの目の前にメガネを置いた。
「ありがとうございます」
そう言って、ユキは向葵がかけていたメガネを覗き込む。
鏡を覗き込むようにメガネのレンズを覗いている様子が普段とはまた違った可愛さを放ってる。
そして、ユキは言う。
「……目がチカチカします」
「それは、そうだろう。ふふ、僕の目に合わせてるんだから君の目には合わないよ。というか、本当にどうしたの?」
「……あの……その……こうして見たら向葵さんの見てるものが見えるのかなって……思って」
ふふ、と笑みがこぼれる。
「本当に可愛らい子、僕に見えるものは、きっと君には見えないよ」
君の目に、映るはずがない。
僕が見てるのは、君なんだから。
その思いを口には出さず、向葵は優しい手つきでユキの頭を撫でた。
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