片思い

 一度、気に入った物を手放さない子どもがいるように、この思いもそういう執着の類だろう。

だって、そうじゃなきゃ過去の人である彼に恋心を抱くなんて

「……絶対、おかしいもん」

 私はただ、彼が真剣な目で筆を動かしている様が、私の言葉に喜んでくれる様が嬉しいだけなんだから。

これは恋心じゃなくて、ちょっといきすぎた友愛。

「……話し合いも終わったし、今日はどこに行く? どこにでも付き合うよ!」

「…………」

「五百蔵くん? どうしたの? あ……またあの人見てたんだ。最近、よく見かけるね?」

「……そうだね」

 困ったように五百蔵伊月は笑う。

私はそんな表情を見たくなくて、わざとらしいくらいに明るく笑いながら言った。

「そんなに気になるんだったら話しかければいいと思うな! 共通の話題とか探せばあるはずだし。ああ、例えば最近、発売した本の話題とかどう? きっと楽しいよ」

「……大丈夫だから気にしないで」

 ああ、失敗した。

下手なお節介をしようと思ったのが悪かったのか、一歩引かれてしまった。

「……ごめん」

 本当は、五百蔵くんは私の物だから誰にもあげないんだと言ってしまいたい。

だけど、その言葉を口にできないのは五百蔵くんの今の主は私でも、本来の待ち人は私じゃないからだ。

「ほら、早くしないと置いていっちゃうよ?」

「……待って! すぐ行くから」

 私は夢を見ている。

それは私の隣にずっと彼が居続けることを。

彼はいつものように彼女を見つめているだけだったけど、その目が私に向いてくれることを。

友愛だなんて、傷つかないための嘘だ。

私は彼を愛している。

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