佐々木くんと白尾ちゃん

「ねえ、佐々木くん」

 そう白尾は名を呼んだ。

「なに?」

「私が死んでも泣かないでね」

「……うん」

 俺はただ頷いた。

「じゃあ、また明日」

 白尾はそれだけ言って帰っていった。

白尾の背中を見送ってから俺は一人で家に帰った。

一人になって考えてみる。

俺と白尾の関係は、なんだったんだろう?

友達というにはちょっと違う気がするし、かといって恋人同士と呼ぶほどの関係でもないと思う。

だけど、俺達は互いを愛している、と思うんだ。

言葉にはしていないけど、触れ合う手が、視線がそれを肯定していた。

ただ、そばにいるだけで安心できる。

仲の良いクラスメイト、そんな関係だろうか?

今となっては、それすらも疑わしい。

あの時、白尾の手を掴んでいたらどうなっていたのか。

それはもう、わからないことだ。


***

 次の日、いつものように登校して教室に入ると、白尾はまだ来ていなかった。

少しだけほっとする。

昨日のことがあっただけに顔を合わせるのが気まずかったからだ。

しかし、その翌日もその次の日も白尾は学校にこなかった。連絡もないらしい。

最初は風邪でも引いたんだろうかと思ったが、さすがに一週間以上休むとなるともしかすると何かあったんじゃないかと考えてしまう。

そして二週目に突入したある日のこと。

担任の教師から、白尾が死んだことを告げられた。

死因は事故死だったそうだ。

事故が起こった場所はここから遠い街にある海沿いにある崖の下だったという。

詳しいことは教えてもらえなかったが、とにかく自殺ではなかったことに安心した。

いや、もちろん白尾が自ら命を絶つなんて思っていなかったが、それでも最悪の事態は免れたのだ。

そう、白尾は自殺じゃない、事故死だった。

だから、

「約束を破った白尾が悪い」

俺は泣いても許される。

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