MinoritieS→X編.4「退部同盟-1」

「おーい、あかりちゃーん。」

昼休みすぐに、誰かの呼ぶ声がしてドアの方を向く。沙羅さんと詩帆さんが廊下の方にいた。沙羅さんが陽気に手を振っている。

「どうも、学校では初めてですね。」

彼女たちの方へ駆け寄って軽く挨拶をした。

「ん、ああ、そうだね〜。同じ学年でも話さないもんだね。」

「それで、何か?」

「いやいや、せっかく同じチームに入ったんだから、よかったら一緒にご飯でもどうかな〜って、ね?」

沙羅さんがそう言うと、志帆さんが頷いた。

昨日、色々あって「MinoritieS→X」という音楽チームに入ることになったことは今でも鮮烈に印象づけられた記憶だった。そしてその中で同じ寺ヶ丘静央の生徒なのが沙羅さんと志帆さんなのだ。ちなみにほぼ初対面である。

まあ、全校生徒の人数が多いからか、同じ学年でも話さない人や付き合いのない人は多く、今まで顔見知りでもないのはおかしな話でもない。

「あ、はい!私で良ければ。」

「オッケー、では学食行きますか〜。」

なんとなくソワソワする。あまり知らない人と話すのは得意でもないからかな。

「阿澄さんはさ〜、バリトンだっけ?」

「あ、はい!…沙羅さんはアルトなんですよね?」

「そう!同じサックスなのもそうだけど、低い音域担当できる人が来てくれたのもありがたいよね〜。うちら、メロディとか張れる楽器は多くても、サポートのバランスが悪いからさ〜。」

10人各々の担当楽器でうまく構成しようとする分、その構成や編曲にやや難があるらしい、ということみたいで。

「うん、ベースが来てくれたの嬉しい……」

「あ、でも全然ですし…期待しないほうが…」

「いやいや、あの即興について来られるなら大したもんでしょ〜?」

あの時はお膳立てしてもらったというような感じが強くて、あんまり自分の中で納得がいってない。最後の方なんて、吹き方もめちゃくちゃだったし。

「いやそんな…お二人みたいには…」

いつもの癖で謙遜しすぎていると、また沙羅さんが続けた。

「まあ言っておくと、私らもあの吹奏楽部の退部者だから、ね?」

「え?」

やや遠慮がちに詩帆さんは笑っていた。


「私は1ヶ月で…。」

「えっと…半年です…。」

2人とも私より前にあの部活を辞めていた。

その事に驚きを隠せないまま、私は学食のランチを口に運んだ。

「ってことは……皆さんもいたんですね、あそこに。」

「本当に一瞬ね。一年もいたあかりちゃんには及ばないよ。」

「いや………その………えーっと、なんでまた退部を?」

いた期間だけでマウントを取れるとは思っていないので、ぎこちなく返事をしながらそんなことを聞いた。

「苦手だったんだよね、あそこの空気。」

そう言ってへにゃっと笑う沙羅さん。

「まあ、それ以外に限らず部活というもの自体に、私自身が合う合わないの問題があったのかもしれないけど。」

それに、と加える。

「あの場所があったから、音楽はどこでもできるんだなって改めて思えたし。」

ね、と隣の詩帆さんに話しかけて、遠慮がちに詩帆さんは頷いた。

「だから、あかりちゃんもさ、引け目だとかそういうのは感じなくていいんだよってこと、それを言っておきたくて。」

目を丸くしながら沙羅さんを見た。

「音楽がしたいってこと、楽しさを求めるってこととそれが必ずしも部活ばっかりに繋がるわけじゃない。そんな人がいたって十分いいはずだよって私は思うから。」

「ありがとうございます…これから頑張ります。」

要するに挨拶も兼ねて元気づけたかったのか、と私が納得しつつお礼する。

ふふん、と鼻を鳴らしてそうな表情でそう言った沙羅さんの後ろ、少し見知った顔が私をチラリと見たような気がして。なんとなく私は気まずく、居た堪れない気分になった。



「ありがとうね。」

挨拶と親睦会とその他事務的連絡を含めた昼食会を終えて、灯ちゃんと別れた私たちはそのまま自分たちへと戻っていく。その最中に私は詩帆にそう声をかけた。

「え?」

「あかりちゃんの事、気にかけてくれて。」

「あ…うん。」

頷いたのち、彼女は続ける。

「肩身が狭いのは…私もそうだったから。」

「そっかー…私、図太いみたいだからな〜…全然そういうの分からないな。」

学校での彼女の身について案じていたのは詩帆の方だった。

退部後の微妙な人間関係によって、心細さや孤独を感じる瞬間。その支えになるものが必要になるということだった。私はしたいように自由に振る舞う分、そういうことには疎い。

「それもいいと思う…強くてブレなくて、芯があるってことだし。」

「そういうもんかなぁ。」

「裏返せば、短所は長所にもなりうる………から。」

「ふふっ、ありがと。」

ちらりとスマホを見ると、現在時刻の下にとある通知がきていた。

その差出人と内容にやや眉を顰めた。あまり気分が乗らないが、仕方ないのだろう。

「ああ、詩帆。今日の夕方練習ね、私遅れるから。帰りは先行ってていいよ。」

「え、うん。わかった……?」

首を傾げながら、彼女は了承する。


「ちょっと、人と会わなきゃいけなくなったから。」


差出人は吹奏楽部のとある人間だった。

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