第334話 カイト投獄される

 翌朝10時少し前、オレはセリーナとセレーナの王女姉妹を伴い、謁見の間にいた。

 定刻になるとクラウス国王が玉座に姿を表した。


「陛下、お早うございます」


「おう、カイト殿、何用じゃ、それにセリーヌ王女とセレーナ王女まで一緒に…」


「陛下、これからお話しする内容は、第1級のトップ・シークレットに御座いますれば、お人払いを…」

 オレの言葉に、ただならぬ気配を感じた国王は、側近たちに下がるよう命じた。


「どうやら、面倒ごとのようじゃのう…」


「左様でございます。

 これから私がお話致しますことは、嘘偽りない事実で、一切脚色はございません。

 事実をありのまま申し上げますので、最後までお聞きになり、陛下が思うままにご裁定下さいませ」


「つまり、この3人が関係する話じゃな…

 カイト殿、腹蔵なく申してみよ」


 オレは、最初に結論から話した。

「陛下、私はここにおられますセリーナ王女と肉体的な関係を持ちました」

 そこまで話すと国王は、いきなり玉座から立ち上がり、オレを指差すと鬼のような形相で怒鳴り散らした。

「き、貴様は、不義密通がどれほどの重罪か分かっておるのかぁ~!」


「はい、十分に承知しております」


 王女姉妹は、普段の温厚な国王としか接したことが無いせいか、あまりの豹変に怯えていた。


 それでも、何とか自分を制し、国王は玉座に座った。

「続きを申してみよ!」


「はい、それでは事の経緯を順を追ってご説明致します」

 オレは事の発端から話し始めた。

 祖国アプロンティアとソランスターの架け橋となる役目を担ったセリーナ王女は、マリウス王子と婚約してから3か月間経過するのに、一向にしとねを共にする気配がない事を不安に思っていた。


 ある日、意を決したセリーナ王女はマリウス王子の寵愛を得るべく、同衾を申し出たが、今日はそんな気分ではないとあっさり断られた。


 その日以来マリウス王子は、プライベートな場でセリーナ王女を避けるようになり、一緒に住んでいるのに別々の部屋で寝起きし、顔を合わせる機会もめっきり減った。


 自分に魅力が無いからマリウス王子が振り向かないのか、それとも何か違う原因があるのか分からず、セリーナは独り思い悩んだ。

 その頃、妹のセレーナがセリーナ王女の部屋に遊びに来るようになり、2人で様々な話をして気を紛らわした。


 ある日、話題が夜の生活ナイトライフの話となり、オレとの性交渉が如何に気持ち良いか妹のセレーナが姉に話した。

 それを聞いたセリーナ王女は、1度でいいからそのような性の快楽を体験してみたいと言い、妹のセレーナを羨ましいと妬んだ。


 セリーナ王女は、マリウス王子と一度もしとねを共にしたことが無く夜の生活ナイトライフを共に過ごした事が無い事を妹に打ち明けた。

 それを聞いたセレーナは、何とか姉のセリーナにも自分と同じような性の快楽を体験させてあげられないかと考えた。


 そして、自分と姉は身内も間違うほど瓜二つであることに注目し、妹と姉が入れ替わる事を思い付き、姉に提案した。

 姉のセリーナは、そのことを聞き思い悩んだ末、妹の提案に同意し、ある日カイトの寝室で妹と入れ替わり、望み通り性の快楽を体験した。

 オレはある時、ひょんなことから秘事の相手がセレーナではなく、姉のセリーナであることに気付いた。


「以上が、事の顛末でございます」

 オレが話し終えると国王はセリーナ王女とセレーナに確認した。

「2人ともカイト殿の申したことに、嘘偽りはないか?」


「ございません」


「何か付け加える事はあるか?」


「はい、恐れながら、陛下に申し上げます。

 カイト様は、私ども2人が入れ替わっていた事実を知りませんでした。

 罰するのであれば、我ら姉妹を罰して下さいませ」

 今、セリーナ王女が国王に奏上したことは、オレと2人の打ち合わせの時には話していないことだ。


「ふむ、では、カイト殿は、何故2人が入れ替わったと分かったのだ?」


「それは…、首筋のホクロの位置の違いです」


「ほぉ~、ホクロの位置とな…」


「はい、セレーナのホクロの位置は、首筋の左ですが、私がたまたま見た時は首筋の右にホクロがあったのです」


「なるほど…、確かに普段は見えん位置だし、一目見ただけでは見分けはつかんからのう……

 2人とも儂に、そのホクロを見せてくれ」

 国王の命で、2人の王女は後ろ向きになり、長い黒髪を掻き揚げ、国王にホクロを見せた。


「ホクロの話もまことのようじゃのう…」

 国王は、腕組みして考え込んでしまった。

 そして10分くらい経った頃、ようやく口を開いた。


「ここには、もう1人の当事者がおらん…

 その者からも話を聞いて、それから裁定するとしよう」

 国王は、呼び鈴で隣室に控えていた侍従を呼び、誰かを呼びにやらせた。

 暫く待っていると、その人物が現れた。


「陛下、お呼びでしょうか?」

 それは、国王の長男マリウス王子であった。

 マリウス王子は、オレとセリーナ王女、妹のセレーナまでいることに気付き、驚いた様子だった。


「お前を呼んだのは他でもない。

 目の前におる男がマリウスの婚約者いいなずけを寝取ったそうじゃ」

 国王はいきなり本論に踏み込んだ。


 それを聞いたマリウス王子は絶句していた。

「な、なんと言うことを…」

 しかし、思ったよりも反応が薄いことにオレは気付いた。

 普通であれば、自分の婚約者いいなずけが寝取られたと聞かされれば、激昂し、半狂乱になってオレを責め立ててもおかしくない筈だ。


「マリウス、お前の愛しいセリーナ王女が、カイト殿に寝取られたのだぞ、なぜもっと怒らん?

 カイト殿の胸ぐらを掴んで殴っても良いのだぞ」


「陛下…、私はこれでも怒っているのです」


「ふ~む、どうみても、そのようには見えんがのう…」

 国王は、マリウスの態度を見て何かあると気付いた様子だ。


「カイト殿、儂に説明したことを、マリウスにもう一度話してやってくれぬか」


「畏まりました」

 オレは、国王に説明したのと同じ内容をマリウス王子に話した。


 黙ってオレの話を聞いていたマリウス王子であったが、途中から表情が険しくなったのが分かった。

 それは、マリウス王子が、プライベートでセリーナ王女を避けるようになった話の辺りからだ。


「マリウス、この3人は、お前を裏切り寝取られた婚約者いいなずけ、その婚約者いいなずけを寝取った男、もう1人はそれに加担した重罪人だ。

 然るべき沙汰を下さねばならんが、寝取られたお前の言い分もあろう。

 しかし、何故お前はセリーナ王女を遠ざけ、婚約して3ヶ月も経つのにしとねを共にしておらんのだ?

 寝取られたのは、お前にも一因がありそうじゃからのう…

 儂は、その理由を聞きたいのじゃ」


 国王の言葉に、マリウス王子は押し黙ってしまった。


「こんな、非の打ち所がない若くて美人で気立ての良いセリーナ王女を、何故お前は遠ざけるのじゃ…、何が不満なのじゃ」


「それは……、私が悪いのです」

 マリウス王子は、消え入りそうな小さな声で言った。


「なぜ、お前が悪いのじゃ?」


 マリウス王子は目を伏せ、国王と視線が交錯するのを避けた。


「ハッキリせい、お前はもうすぐこの国の王太子と成る身じゃぞ!」

 それから暫く、国王は手を変え品を変え説明させようとしたが、マリウス王子は黙り込んで返事をすることは無かった。


「話したくないのであれば、もう良い…

 何れにしても、こやつらが犯した罪は覆らん」

 そう言うと、国王は呼び鈴を鳴らし、隣室で控えていた侍従を呼んだ。

「衛兵を呼べ、この3人を捕縛し、地下牢に閉じ込めるのじゃ」


「へ、陛下、カイト兄さまを牢へ入れるのはお止め下さい」

 そう言ったのは、マリウス王子であった。


 普通なら婚約者いいなずけのセリーナ王女が捕縛されるのを静止すべきところだが、本来憎むべきオレを助けようとはおかしな話だ。


 国王の命令で、20名ほどの近衛兵が謁見の間にバラバラと駆け込み、オレとセリーナ王女、セレーナ王女の3人に手錠を掛け、後ろ手に縄で縛り、王宮の地下牢へ連行した。

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