第333話 カイトの遺言
その夜、オレは一睡もできず、朝を迎えた。
6時過ぎには、サクラと護衛達4人が起き出してトーストとベーコンエッグにコンソメスープと言う簡単な朝食を用意してくれた。
「朝ごはん、できたわよ~」
サクラが各部屋をノックして廻り声を掛けると、それまで寝ていた女子たちがようやく目を覚ました。
オレは朦朧とした状態で、タープの下に置いたままだったキャンピングチェアに腰掛けた。
いつもは、爽やかに感じる朝の光が、今日のオレにはとても眩しく感じた。
ジェスティーナも起きて来て、サクラと護衛達に朝食の準備をしてくれてありがとうと礼を言い、オレの方へやってきた。
彼女は、昨日一番最初に寝たのだから、疲れもなく今日もご機嫌だった。
「おはよ、カイト…、どうしたの疲れた顔して…」
オレの様子がおかしなことに気付いたジェスティーナは、心配して声を掛けた。
「実は、朝まで眠れなくてね…」
その時、セレーナとセリーナ王女も、疲れた顔でタープの下に姿を表した。
「皆さん、お早うございます」
2人とも、如何にも疲れたと言う顔をしていた。
「あらあら、どうしたの?
ここの3人、朝から疲れた顔して、昨日何かあったの?」
セレーナとセリーナには、昨夜の事は絶対に口外するなと口止めしてあるのだ。
「いいえ、特に何も…」
ジェスティーナは、何かあるなと思ったが、それ以上は敢えて聞かなかった。
12人全員が揃い、朝食を済ませると、タープとバーベキューに使ったテーブルやキャンピングチェア、七輪を片づけ、飛行船に乗り、早々にクリスタ島を離陸した。
そのまま一路、領都エルドラードにあるシュテリオンベルグ公爵邸を目指した。
飛行船『空飛ぶベルーガ号』は、僅か15分で公爵邸屋上の飛行船ポートに着地した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
オレは、
「2人に来てもらったのは、今回の件にどう対処するか、摺合せしたいからだ」
「私達もそう思ってました」
2人の王女は神妙な顔つきでオレに言った。
「選択肢は次の2つだ…
1.ありのまま包み隠さず国王陛下に話し、沙汰を待つ。
2.昨夜の事は3人の心の奥底に封印し、墓場まで持って行く。
2人は、どちらを選択すべきだと思う?」
オレの言葉に2人の王女は、お互いの顔を見合わせた。
最初に姉のセリーナが口を開いた。
「昨夜、あの部屋を出た後、私たち2人で話し合いました。
そして出た結論は、過ちを犯したら、その罪を償うべきだと言うことです。
私たち2人が事の経緯を事細かに国王陛下とマリウス王子にお話しします。
そして、どのような裁定が下されようと、その決定に私は従います。
カイト様を巻き込んでしまい、結果的に当事者としてしまったこと、改めて深く深くお詫びいたします」
セリーナ王女は頭を下げ侘びた。
次に口を開いたのはセレーナであった。
「元々はと言えば、私の浅はかな考えで、カイト様を窮地に陥れてしまった事、今更ながら悔いております。
国王陛下から、どのような罰が下ろうと、私は甘んじて受け入れ、その決定に従います。
カイト様を巻き込んでしまったこと、深く深くお詫び致します」
セレーナ王女は深々と頭を下げた。
「2人の意向は、良く分かった。
あれからオレも一人で考えたが、ありのままを包み隠さず話して、どのような罰が下ろうとも甘んじて受け入れようと思う」
3人とも「ありのまま包み隠さず国王陛下に話し、沙汰を待つ」で意見が一致し、国王との謁見のタイミングは、オレが調整することとなった。
オレは、ゲートで王宮に赴き、侍従長を通じて国王陛下との謁見の時間を明日午前10時にセッティングしてもらった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その夜、オレは一人で自室に篭もり、
そして今回の件を、オレとセリーナ王女、セレーナ王女の3人で、ありのまま包み隠さず国王陛下に話し、沙汰を待つと
それからオレは、最悪の事態を想定して遺書と遺言を書き始めた。
遺書は、オレと少なからず縁を結び、近い将来オレの正妃となる
遺言は、アクアスターグループのそれぞれの会社の今後の経営について、事細かに記したものである。
オレが居なくなったからと言ってグループ企業各社の社員約800人を路頭に迷わせる訳にはいかないからだ。
企業ごとに今後の会社の方向性など、必要な事項を事細かく箇条書きにして、各企業の社長に指示する内容であった。
合計17通の遺書と20通の遺言が完成したのは、明け方であった。
その後、オレは少し仮眠を取り、1人で朝食を取ってから、秘書のセレスティーナを呼んだ。
「カイトさま、お呼びでございますか?」
「セレスティーナ、君に重要なミッションを与える。
これからオレが言うことは一切他言無用だ、いいな」
「はい、畏まりました」
「今日、オレは午前10時に国王陛下と謁見の約束をしている。
その謁見には、セリーナ王女とセレーナも同席する予定だ。
恐らく話は長くなると思うが、オレは恐らくその場で捕縛されるだろう」
オレの言葉を聞き、セレスティーナは何か口を挟みそうな仕草を見せたが、オレはそれを制して、先を続けた。
「午前11時を過ぎたら、この手紙をジェスティーナに渡して欲しい」
セレスティーナは、無言でオレから手紙を受け取った。
「その手紙には、オレが捕縛される理由が書かれているから、セレスティーナは後でジェスティーナから理由を聞いて欲しい」
「カイト様…、その理由を今伺う訳には参りませんか?」
「セレスティーナの気持ちは分かるが、物事には順序というものがある。
申し訳ないが、後でジェスティーナから聞いて欲しい…」
「分かりました…」
「次のミッションだ……
ひょっとすると、これが一番大切なミッションになるかも知れない…
セレスティーナ…、もしオレが処刑されたら、この遺書と遺言をそれぞれの宛名の人に渡して欲しい。
もし、万が一無事に戻って来れた場合は、その遺書と遺言を全てそのままオレに返して欲しい…」
「か、カイトさま……」
セレスティーナは、カイトの身に何か途轍もない災厄が降りかかったのだと気づき、激しく動揺していた。
「セレスティーナ、何度も言うが、これは君にしか頼めない重要なミッションだ。
くれぐれも宜しく頼んだよ」
オレの悲壮な覚悟を知ったセレスティーナの頬を、一筋の涙が伝った。
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