第335話 国王の裁定
オレは、王宮の地下牢にある上級独房に入れられ、手錠と縄は外された。
6畳ほどの薄暗い室内は、質素なシングルサイズのベッドと毛布、小さな机と椅子、洗面台と便所があり、思っていたよりもマシであった。
予想もしない面倒ごとに巻き込まれ、対応をひとつ間違えると後々厄介な目に合うと判断し、ありのまま正直に話し、牢へ入るのもやむ無しと思ったのだ。
一種の賭けのようなものであり、吉と出るか凶と出るかは国王の判断次第だ。
オレは、ここ2日ほぼ寝ていないし、最近は休む間もなく働き、
体を休めようとベッドへ横になると、すぐに睡魔が襲い、そのまま泥のように眠った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
目覚めると、辺りは薄暗かった。
王宮の地下にあるこの独房には、日光は入らないのだ。
オレが目覚めたことに気付いた看守が、食事を運んできた。
パンとスープだけの粗末な食事であったが、腹を満たすには十分であった。
飯を食ったら、後は何もすることはない。
最近は、運動不足を痛感していたので、独房内で体を動かすことにした。
スクワット、ランニングステップ、スイッチキック、プッシュアップ、プランク、クランチ、レッグレイズ、ヒップリフト、倒立腕立て伏せをそれぞれ1分ずつしたあと3分の休憩を1セットとし、それを12セット繰り返した。
運動器具を使うわけでは無いので、それほど汗をかかないと思うだろうが、これが結構キツい。
約2時間半運動すると、汗でビショビショとなった。
牢番の衛兵にタオルと着替えを要求すると、無言で持ってきてくれた。
洗面台でタオルを濡らし、体を拭き着替えた。
その内、また眠気が差してくると眠り、起きると運動しては飯を食い、運動してはまた眠ると言う生活を数日間繰り返した。
かれこれ1週間くらい経過したであろうか、門番が牢の扉を開けてこう言った。
「国王陛下のお召しである。
着替えて謁見の間へ参られよ」
どうやら、国王がオレに用が有るらしい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
謁見の間に行くと国王が1人でオレを待っていた。
「地下牢の居心地はどうであった?」
「はい、たいへん快適で、お陰様で運動不足と寝不足を解消できました」
オレがそう言うと国王は大声で笑った。
「流石はカイト殿じゃ、如何なる時間も無駄にしないとは恐れ入った」
「私をお呼びになったのは、どんな用件でございますか?」
「ふむ、カイト殿に儂の裁定を言い渡そうと思ってのう…」
「謹んで承ります」
「カイト・シュテリオンベルグ公爵…
セリーナ王女との不義密通の罪、諸般の事情を考慮し、無罪とする」
「陛下、寛大なご裁定、感謝申し上げます」
「ふん、白々しい…、最初から儂が無罪を言い渡すと思っていたであろうに」
「はい、8割方は、そうなるかと思っておりました」
「やはり計算ずくであったか…
お主も食えぬ男じゃのう…
牢を抜け出そうと思えば、いつでも抜け出せることぐらい儂も知っておるのじゃぞ…」
それは国王の言う通りだ。
地下牢を抜け出す方法は2つある。
1つは、英知の指輪のスキル『ゲート』を設置してそれを潜り、他のゲートから出る方法。
どのゲートから出たか分からないし、追うことは不可能だ。
もう一つの方法は、異次元収納からスターライトソードを取り出して、プラズマの
「恐れ入ります」
「あの王女姉妹は、儂でも見分けはつかんし、マリウスとて同じであろう。
ほんの出来心であろうが、犯した罪は軽くない。
今は王宮の奥に幽閉しておるが、もう2~3日反省して貰うしかないかう」
「畏まりました」
「お主は女神フィリア様の加護を受ける者…
いくら大罪を犯したとて、儂の一存では処刑できぬからのう」
それも恐らく国王の言う通りだ。
「フィリア様から任された仕事が終わらぬ内に私を処刑したとあっては、一悶着あるかも知れません」
「何よりも、儂にとってもこの国とってもカイト殿は恩人じゃからのう。
そう簡単に処刑などできんし、それにこの国の将来の繁栄はお主の手に掛かっておる」
「そう言っていただけて、嬉しゅうございます」
「それより、カイト殿を牢に入れた後が大変じゃったぞ」
国王の話によると、オレを地下牢に入れた後、ジェスティーナ、アリエス、フローラの王女3姉妹が謁見の間へ押し寄せ、玉座の国王を責めたてたそうだ。
カイトは騙されたのだ、何も知らなかったのだと、3人で一斉に国王に食ってかかりオレの無実を延々と訴えたそうだ。
「カイト殿、今日のところは屋敷に戻って、娘らを安心させてやってくれぬか」
「畏まりました」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
無罪放免されたオレは公爵邸へ戻った。
「ただいまぁ…」
オレがゲートから出るとジェスティーナ、アリエス、フローラ3姉妹とアスナとサクラまで居て心配そうにオレを出迎えた。
「ただいまじゃないわよ~、私達がどれだけ心配したと思っているのよ」
「なんで、あんな手紙だけ残して、ちゃんと説明していかないの?」
「ここ数日夜も寝られなかったんだからね、カイトのせいよ」
3姉妹とアスナは、畳み掛けるようにオレを責めた。
予想していたとは言え、オレへの風当たりはかなり強いものだった。
それだけ、みんな心配してくれたのだ。
「ところで、セリーナ王女とセレーナ王女はどうなったの…」
ジェスティーナが聞いた。
「2人は、王宮の奥の部屋に幽閉されているそうだ」
「えっ、陛下は2人を許してないの?」
今度は、アリエスが聞いた。
「2人の考えが浅はかだったのもあるが、オレを貶めた罪もあるし、婚約者の身とは言え不義密通とその幇助の罪だから、もう少しお仕置きしないと示しがつかないそうだ」
国王の話では、セリーナ王女はマリウス王子と婚姻しておらず、まだ婚約者の身であり、厳密には不義密通には当たらないとの判断だそうだ。
恐らく後3日間ほど、幽閉した後開放する予定であると言っていた。
しかし、王室の体面を傷つけた罪は大きく、マリウス王子とセリーナ王女の婚約は解消となり、セリーナ王女はアプロンティア王国に帰されるであろうとのことであった。
「セレーナ王女はどうなるの?」
そう聞いたのはアスナだった。
「陛下は、セレーナ王女の罪は問わず、身柄をオレに預けてオレがどうするか判断せよとのことだった」
「どうするか判断せよって、カイトはどうするの?」
今度は、ジェスティーナが聞いた。
「そうだな、オレとの婚約を解消して国へ戻すか…」
「アプロンティア王国へ返すってこと?」
「それか、何か違う罰を科して婚約者の立場はそのままにするか…」
「えっ、いったいどっちなの?」
「それは、アプロンティア国王に事の顛末を報告してから決めようと思っている」
「やっぱり、そうなるわよね~」
アプロンティア国王への報告は、避けて通れない道であるとオレは覚悟していた。
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