第290話 女子高生いりませんか?
次の日の午後、エメラルド・リゾートの飛行船ポートに2隻のクジラ型大型飛行船が到着した。
王都からアクアスター・グループの新入社員463人を乗せてきたのだ。
飛行船のタラップが接地し、ハッチが開くと、物珍しそうに辺りを見回しながら、たくさんの人が降りてきた。
今回、新入社員たちを引率してきたのは、ローレンとソニア他、メイド達10名である。
一度、高層ホテル棟「スターウィング」の前に集まり、採用された会社ごとに順にチェックインを行った。
総客室数533室、客室定員1562名を誇るエメラルド・リゾートであるが、新入社員463名が追加で宿泊しても稼働率は40%にも満たない。
新入社員たちは、低層ホテル棟「オーシャン・ウィング」と高層ホテル棟「スター・ウィング」のスタンダード・ツインに2名1組で宿泊するのだ。
17時が近づくと『スター・ウィング』のルーフトップラウンジには、続々と社員が集まって来た。
アクアスター・グループの各採用先ごとにテーブル分けされ、指定された席に座った。
定刻となり、ステージ脇の司会者席に秘書のセレスティーナが登壇した。
今日のセレスティーナは白地に花柄のワンピースを着て、髪をハーフアップにしていた。
「只今からアクアスター・グループ社員交流会を開催します。
開会に当たり、グループ総帥のカイト・シュテリオンベルグ会長よりご挨拶をいただきます」
オレはステージに上がり、マイクを前に会場内を見渡すと約600名の社員たちが、緊張した面持ちでオレに注目していた。
「グループの会長を努めますカイト・シュテリオンベルグです。
本日は、遠路遥々エメラルドリゾートに、お集まりいただきありがとうございます。
さて、本日ここに居る皆様は、合格率3%の狭き門を突破して入社された優秀な方々です。
そして、あなた方は我々の会社に将来性を見出され応募した先見の明がある方々です」
オレは、そこまで喋って会場を見回すとウンウンと頷いている者が何名かいた。
「さて、ご存知のように当グループの中核事業は観光とリゾートです。
それに、付随する様々な事業を展開して来た結果、今ではグループ企業は15社に増えました。
主に全く新しい分野を開拓していく会社ですから、その評価は賛否両論があります。
便利だと歓迎する勢力もいますが、既得権益を守ろうと参入障壁を張り邪魔をする勢力もいます。
しかし、当グループの商品やサービスは圧倒的に競争力が高く、その価値が認められれば、間違いなく一般市民に受けいられるものばかりです。
社員の皆さんは、根気よく商品の便利さや優位性を説明して下さい」
そこでまた中断して会場を見回すとみんな真剣にオレの言葉を聞いていた。
「さて、これから重要なことをお話しますから、よく聞いて下さい。
当グループは営利企業であり、利益がなければ社員に給与を払えないし、会社を存続させることも出来ません。
しかし、利益を第1優先するのではなく、お客様に満足していただくことを第1優先にして下さい
お客様に満足していただくと言うことは、価格に見合った価値やサービスを提供すると言うことです。
もちろん接客態度や言葉遣いも大切ですが、お客様との約束を守ることが大切です。
また顧客満足度を上げようとして過剰なサービスを提供する必要はありません。
大事なのは「価格に見合った適切な商品・サービス」です。
お客様が満足していただければ、それに見合う利益は自ずと付いてきますから」
「今日はグループ全体の初めての社員交流会です。
あなたたちの先輩社員は、これまで頑張って働いたご褒美として、このリゾートに4日前から8日間の旅行に来ています。
私は、頑張った社員には、その頑張りに応じた賞与や、旅行等のご褒美を用意したいと思っています。
具体的な評価基準や褒賞の内容は、これから話し合って決めて行きたいと思います。
新入社員の皆さんも、このようなリゾートに旅行に来られるよう頑張って働きましょう。
さて、美味しい料理が控えていますので、私の挨拶はこの辺にしたいと思います。
皆さんを歓迎するため、今日は美味しい料理とお酒をたくさん用意しています。
大いに食べて飲んで、同じ会社の同僚、同じグループの社員たちと語り合っていただきたいと思います」
オレの挨拶の後、アスナの乾杯の発声により全員で乾杯した。
約600名の人々がグラスを合わせ乾杯する様子は実に壮観であった。
オレの隣ではジェスティーナが、フルートグラスを傾けながらこう言った。
「この中から、将来グループの中心となって会社を盛り立ててくれる人が出てくるといいわねぇ…」
「そうだね、切磋琢磨しながら、ダイヤの原石が磨かれてホンモノのダイヤとなって輝いてくれるといいが…」
「ところでカイト、昨夜も随分と頑張ったみたいじゃない」
「ん~、トリンに嵌められたと言うか、成り行きと言うか、お陰でオレの体力ゲージは、ほぼゼロだよ」
「お疲れみたいだけど、こんな機会、滅多にないんだから、せいぜい交流を深めるといいわ」
ジェスティーナは意味有りげに言った。
その時、オレのスマホが鳴った。
見ると女神フィリアからであった。
「もしも~し」
「あ、カイトくん、今電話大丈夫かな?」
オレの都合を気遣うとは、女神フィリアにしては珍しい。
この前の件があるから、気を使っているのだろう。
「はい、フィリア様、大丈夫ですよ」
「今日は、3点ばかり話があって電話したんだけど…」
「はい、何でしょう?」
「まず、アクアスター・リゾートの復旧の件なんだけど…
工事が思いの外早く進んでて、来週には完了しそうなの」
「え~っ、予定より2週間も早いじゃないですか」
「そうなのよ、異世界宅配便の工事班が頑張ってくれたみたいなの」
「それはありがたいです」
「カイトくん、来週になったら現地で確認してくれないかなぁ」
「分かりました、そう言う事でしたら、旅行が終わったら見に行ってみます」
「あっ、そっか、今バカンス中だったよね、楽しんでる?」
「はい、お陰様で」
「そうだよね~、毎晩女の子とHなことしてるみたいだし…」
「えっ、なんで知ってるんですか?」
「あ、いやいや何でもない…
え~っと、2つ目の話は、賠償金の件なんだけど、カイトくんの口座に送金しておいたから確認しておいてね」
賠償金とは、女神フィリアの番竜ポチがアクアスターリゾートに壊滅的被害をもたらしたことへの休業補償と慰謝料の合計スター金貨30万枚(円換算で300億円)のことを指すのだ。
それをオレのネット銀行口座へ振り込んだというのだ。
ここで言うネット銀行とは、パラワバンク(正式名称:パラレルワールドネットワークバンク)のことを指し、ネット通販「パラワショップ」での商品の購入の他、ステカにチャージしてキャッシュレス決済にも使えるのだ。
「ありがとうございます。
今回の旅行費用も賠償金を充てにしてたので助かります」
「3つ目の話なんだけど…、カイトくん、女子高生いらない?」
「はぁ?、じょ、女子高生ですか?」
「うんうん、しかもピチピチの可愛い女子高生」
「え、また何でですか?」
「ん~、話せば長くなるんだけど、その娘も可哀想な娘でね~」
「え~っと、名前は『星野ひかり』って言うんだけどね…
高校では学級委員長やってて、成績はトップクラス、美人だし性格もいいし、人望も篤かったのよ」
女神フィリアの話では、死因は交通事故とのことだった。
学校帰りに横断歩道を渡ってる小学生の女の子が、信号無視で突っ込んできたトラックに引かれそうになっていたところを助けて事故に巻き込まれて亡くなったのだ。
「いや~、それは可哀相ですね」
オレがこちらへ転生したのも交通事故が原因だったから、無念さは良く理解できる。
「ね~、カイトくんもそう思うでしょ」
「分かりました。
優秀そうだし、うちで引き取らせてもらいます」
「カイトくん、ありがとね、そう言ってくれると思ってたよ」
「それじゃ、明日そちらに向かわせるから、宜しくね~」
そう言うと女神フィリアはブチッと電話を切った。
果たして、どんな娘が来るのか、今から楽しみだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます