第291話 転生者「星野ひかり」

 星野ひかりは、戸惑っていた。

 自分は、学校帰りに交通事故に遭った筈なのだが、気が付くと辺り一面が白い霧に包まれた不思議な世界にいたからだ。


 女子高からの帰り道、ひかりは自宅近くの交差点で信号待ちしていた。

 信号が青に変わり、隣にいた小学校低学年くらいの女の子が元気良く駆け出した。

 ひかりも横断歩道を渡り始めたその時、信号無視したトラックが交差点に突っ込んできたのだ。

 咄嗟に体が動き、ひかりは女の子に追いつくとランドセルを思い切り手で押して反対側の歩道に突き飛ばした。

 それが最後の記憶だ。


 白い霧の中から、フィリアと名乗る女神が現れた。

「ひかりちゃん、私は女神フィリア。

 この世界を含む180の世界を管理しています。

 あなたは、女の子を助けようとして残念ながら命を落としました」


 ひかりは戸惑いながらもフィリアに聞いた。

「女神様、あの子、助かったんですか?」


「安心して、かすり傷を負っただけで命に別状はないよ」

 女神フィリアは笑顔で言った。


「私、これからどうなるんですか?」


「ひかりちゃん、落ち着いて…

 本来なら、魂も記憶も消去して全く別の人間として生まれ変わるんだけど…

 今回は、あなたの称賛すべき行動に免じて、今の姿のまま、別の世界に転生するって言うのはどうかな?」

 フィリアは随分フレンドリーに話す女神だと、ひかりは思った。


「転生?、ですか?」

 ラノベと言う小説のジャンルがあり、異世界に転生する話が流行ってると聞いたことがあるが、まさか自分がそのような状況に置かれるとは思わなかった。


「そう、私が管理する世界の1つなんだけどね。

 先に転生している人が何人かいるんだよね。

 ひかりちゃんのこと、面倒見てくれると思うんだけど、どうかな?」


「ホントですか?」


「うんうん、その人は面倒見いいし…

 それにひかりちゃんの夢も、きっと叶えてくれると思うんだよね」


「えっ、私の夢を叶えてくれるんですか?」

 ひかりには小さい頃からの夢があったのだ。

「私、その世界に行きたいです」


「それじゃ、ちょっと聞いてみるね」

 女神は、スマホらしき物を取り出すと、どこかへ電話し始めた。


「あ、カイトくん、今電話大丈夫かな?」

 女神フィリアは、カイトと呼ぶ相手と話し始めた。


 その後、しばらくその相手と、ひかりのことを色々話していた。

「カイトくん、ありがとね、そう言ってくれると思ってたよ」

「それじゃ、明日そちらに向かわせるから、宜しくね~」


 女神フィリアは電話を切るとこう言った。

「ひかりちゃん、良かったね、カイトくん受入オッケーだってさ」


「その人、カイトさんて言うんですね」


「そうそう、カイトくんも現代日本からの転生者だから…

 それに、女性の転生者も2人いるから仲良くしてね」


「それじゃあ、ひかりちゃん、早速転生させるからね。

 いってらっしゃ~い」

 女神フィリアがそう言うと、辺り一面が真っ白になり、気が付くとひかりは眩しい太陽の下に立っていた。


 気温は間違いなく30℃を超えており、南国特有の椰子の木やハイビスカスの赤い花が咲き乱れ、白い砂浜にエメラルド・ブルーが眩しいサンゴ礁の海、どう見てもここは南国リゾートだ。

 女神フィリアからは何の説明もなかったが、恐らくカイトと言う人物はここにいるのだろう。


 女神フィリアは、転生が決まると有無を言わさずこの世界に送り出した。

 もう少し詳しい説明を聞きたかったと、ひかりは思ったが、今となっては後の祭りである。

 しかも今着ているのは、夏用のセーラー服だ。

 上は清楚な白に紺の角襟、下は紺色のスカートで赤いセーラースカーフを巻いている。

 この姿で、南国リゾートにいるのは、如何にも違和感があった。


 見渡すと500mほど先のビーチに波と戯れる少女たちを見つけた。

 その中に黒髪の日本人らしき美少女を見つけた。

 女神フィリアが言っていた日本からの転生者だろうか…

 どこかで見たことがある少女だと思いながら、近くまで行って声を掛けてみた。


「あの~、こちらにカイトさんという方はいらっしゃいますか~?」っと、大声で叫んだ。


 すると、その中の少女3名が、ひかりの傍まで走って来てこう言った。

「はい、いますが、どちら様ですか?」

 相手がそう答えてくれたので、言葉は通じるようだ。


「あっ、申し遅れました。

 私、星野ひかりと申します」


「えっ、もしかしたら昨日カイト様が言ってた娘じゃない?」

「うんうん、確かにそうだね」

「へ~、これはまた可愛い子が来たね~」

 などと3人で話している。


「はい、聞いてます聞いてます。

 それじゃ、私たちがご案内しますね」


 3人の少女に先導され、ひかりはビーチから少し離れた高層ホテルの入口を入った。

 フロントを素通りして、そのままエレベーターホールへ向かい、オーナー専用室直行と書かれたエレベーターに乗った。


 少女たちは何れも鮮やかな水着姿のままで、3人ともメッチャ可愛いと思った。

 1人は肩までの黒髪ポニーテールで、ハーフっぽく見える笑顔が可愛い小柄の美少女で、年はひかりと同じくらいだろうか。

 もう1人は、背中までの栗色ポニーテールの清楚系美少女で、どう見ても日本人には見えないが言葉は通じるようだ。

 もう1人は、細身で透き通るような白い肌に背中までの黒髪ポニーテール、大きな黒い瞳で、どう見ても日本人にしか見えない。

 少し日焼けしているが元の世界のトップアイドル、早見莉央奈によく似ているのだ。


 エレベーターが最上階に到着すると、秘書の女性が待機しており、広いスカイラウンジがある部屋へと案内された。

「カイトさまぁ~、ひかりちゃん、連れてきたよぉ~」

 カイト様と呼ばれて振り返った男性は、想像よりもずっと若い20歳くらいの青年であった。

 その周りには、7人の美しい女性が居て、ちょうど朝食をとっている最中であった。

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