第287話 歌姫と錬金術師見習い

 斯くしてレイチェルのピアノ伴奏によるアイリスのソロコンサートが急遽行われることとなった。

 幸いなことに『エメラルド・ヴィラ』のスカイテラスには、グラントピアノが備え付けられていたのだ。


 しかし、残念ながら音響設備までは無いので、アイリスはマイク無しで歌うのである。

 グラントピアノをプールサイドまで運び、ピアノの前にアイリスが立った。

 彼女から少し間を置き、みんなが椅子を持ち寄って即席のコンサート会場が出来上がった。


 今日のアイリスは、猫のワンポイントが可愛い白いクルーネックTシャツと脚のラインにフィットするスキニージーンズと言うラフなファッションだ。

 彼女は細身で美しいボディラインと美脚モデルのような綺麗な脚を持ち、白いメッシュキャップの後ろからちょこんと出た背中までの金髪ポニーテールの超絶美少女である。

 片やレイチェルは、花柄のサマーワンピースを着てピアノ椅子に座り、背中までの黒髪をハーフアップにした笑顔が可愛い癒し系の美少女である。

「皆さま、こんばんは、アクアスター・プロ所属のアイリス・リーンです。

 カイト様から、ぜひ歌って欲しいとリクエストを頂戴しましたので、何曲かご披露させていただきます。

 ピアノ伴奏は、癒しの天使レイチェルにお願いしました。

 レイチェル、宜しくね」



 まずはレイチェルのピアノソロからスタートである。

 聞く者を虜にする彼女の癒やしの音色は、見事であった。

 オレは、最初に聞いた頃よりも一段と腕を上げたなと思った。


 途中からアイリスのボーカルが加わる。

 美しい金髪ポニーテールを左右に揺らしながら、小柄な体のどこから出てくるのか不思議なくらいにパワフルで圧倒的な声量はマイクを全く必要としなかった。


 最初の曲は彼女が作詞作曲したオリジナル曲『ライズ』である。

 大平原に朝日が上がる力強い朝をイメージした曲で、彼女のデビュー曲となる予定だとサクラが教えてくれた。


 次の曲は『美の女神ビーナス』という曲だ。

 この曲は、ソランスター王室の王女3姉妹、つまりフローラ、アリエス、ジェスティーナの美しさを美の女神に例えた曲であるとサクラから聞いていた。

 7オクターブの音域を自由自在に操る伸びやかで美しい歌声に人々は感動した。

 伴奏するレイチェルのピアノ演奏も素晴らしかった。


 3曲目は『アクアスターのテーマ』である。

 森と湖、そして背後にミラバス山が聳え立つ大自然にあるアクアスター・リゾートの美しさを歌った曲で、オレとサクラはアクアスターグループのテーマ曲にしようと決めた素晴らしい曲である。


 4曲目は『永久とわの光』と言う曲だ。

 いつまでも変わらぬ愛を、輝き続ける永久とわの光に例えた静かなラブバラードである。

 スローテンポの曲であるが、低音域から高音域まで淀みないアイリスの澄んだ歌声は人々を魅了した。


 5曲目は『エメラルド・ブルーの楽園』である。

 この曲は、エメラルド・リゾートの美しい自然を歌ったCMソング用にアイリスに作ってもらった曲で王都などで大々的なプロモーションを行う際に使う予定である。

 リズム感、音程、声量、表現力、声質こえしつ、音域、容姿すべてが揃った七拍子の歌姫は聴衆を虜にした。


 予定していた5曲を歌い終わると、その場にいた全員が立ち上がりスタンディングオベーションでアイリスの熱唱とレイチェルの伴奏を讃えた。

 鳴りやまない拍手にアイリスはアンコールに答えてもう1曲歌うことにした。

 レイチェルと2人で打ち合わせて決めた曲は『星に願いを』と言う曲だ。


 あのディ○ニーの有名な曲ではなく、レイチェルが作った曲にアイリスが詩を付けたオリジナル曲である。

 既にとっぷりと日が暮れ、満天の星空の下、アイリスの叙情的な歌声は、その場に居る者を歌の世界に引き込み全員に感動を与えた。

 曲が終わると、アイリスとレイチェルは立ち上がり、何度もお辞儀し手を振って歓声に応えた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「うちの弟子たちが、カイト様とお話ししたいって聞かないので連れて来ました」

 そう言ってトリンが3人の錬金術師見習いを連れてきた。

 彼女たちは、王都の魔術学園錬金術科卒業の新人でトリンの元で半年以上にわたり修行を続けてきたが、6歳から厳しい修行を続けて来たトリンと比べると、実力には雲泥の差があるのだ。


 トリンの弟子が一人ずつ自己紹介した。

「カイト様、トリン師匠の1番弟子で秘書も兼任しておりますビアンカと申します。

 どうぞ宜しくお願い致します」

 ビアンカは、頭の回転が早そうなスラッとした長身で黒髪ポニーテールが似合う美少女である。


「ご領主様、私は2番弟子のマリエルと申します、どうぞ宜しくお願いします」

 マリエルは、スタイルが良く男好きする体をした肩までの金髪をハーフアップにした美少女である。


「カイトさま、私はティナと申します、宜しくお願いします」

 ティナは、3人の中では一番小柄で、まだ幼さが残る銀髪おさげの美少女であった。


「3人共、仕事に慣れたかい?」


「はい、もう大分慣れましたが、錬金術は奥が深すぎると言うか、覚えることが多すぎて、なかなか進歩しないんです」とビアンカが言う。

「しかも仕事量が多くて、材料の補充とか調合とか毎日目が回るくらい忙しいんです」とマリエルが言った。

「それに師匠が厳しくて、私は毎日叱られてばかりです」

 そう言ったのはティナであった。


「あんた達何言ってるの。

 厳しいとか忙しいとか言うけど、私は6歳からこの修行に耐えてきたんだよ。

 スタートが遅いんだからスパルタになるのは、しょうが無いでしょ!」

 とトリンの言葉は手厳しい。

 お互いに言いたいことが言えるのだから、師匠と弟子の関係は悪くないようだ。


 トリンはその場では、そう言っていたが、後でこっそり教えてくれた。

「カイト様、彼女達、ああ言ってましたが、言われたことは最後までキチンとやるし、物覚えも良いし、あれでなかなか優秀なんですよ。

 特にビアンカは見込みがあると思います。

 私が11年掛けて習得した技を倍のペースで教えてるんですから、どうしても厳しくなるのは仕方ないんです」

 トリンにはトリンの考えがあって厳しく仕込んでいることが良く分かった。


「ところでカイトさま、あの桟橋を渡った先にある塔は何ですか?」


「あれは、海中展望塔で螺旋階段を下りて海底まで行くと『アクアリウム・ラウンジ』って言う部屋から海の中が覗けるんだ、オレたちは昨日あの部屋に宿泊したんだ」


「えぇ~、いいな~、カイトさま、私も泊まってみたいです」

 とトリンはオレを見つめてお願いのポーズをした。

 それに呼応するようにトリンの弟子たちもお願いのポーズをした。


「カイト、泊めてあげたら?

 私たちは、ここの2階の部屋で寝るから」

 そう言ったのはトリンたちの話を傍で聞いていたジェスティーナであった。


「王女様、いいんですかぁ~、ありがとうございます」

 トリンは満面の笑みを浮かべジェスティーナに礼を述べた。


「そうだな、オレたちはこっちの部屋で寝るから、トリン達『アクアリウム・ラウンジ』に泊まっていいぞ」


「え~、わたしカイトさまと一緒に寝たいです~」とトリンが駄々を捏ねた。


「カイト、一緒に寝てあげたら?」とジェスティーナが助け舟を出した。


「う~ん、まぁ寝るだけならいいかな。

 オレは、疲れてるからトリンの相手はできないぞ」


「分かりました、それじゃあリオナとマリンも誘っていいですか?」


「まあ、雑魚寝になるけど8人までは泊まれるから、その範囲なら問題ないぞ」

 ということで、オレはトリンたちと一緒に『アクアリウム・ラウンジ』で眠ることとなった。


 ガーデンパーティは、予定を大幅に延長して3時間半でお開きとなった。

 銀ねこ亭の女将と亭主と新任の秘書たちは、オレに挨拶して自分たちの部屋へ帰って行った。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


『アクアリウム・ラウンジ』には、リオナ、トリン、マリンと錬金術師見習いの3人(ビアンカ、マリエル、ティナ)、歌姫アイリス、癒やしの天使レイチェルの合計8人の少女たちが泊まりに来た。


「おいおい、トリン1人多いぞ。

 8人て言うのは、オレを入れて8人だからな」


「え~、カイトさま、それ早く言って下さいよ~」


「まあいい、オレはカウチで寝るから、キミたちはベッドで寝なさい」

 そう言って、オレはカウチソファで寝ることにした。

 少女たちの中に男が1人寝るのもどうかと思ったのでちょうど良かった。


 美少女8人が一緒の部屋でお泊りとなると実に騒がしい。

 みんなほぼ同年代なのだから色々と話は尽きない。

 深夜まで女子トークは続いたようであるが、オレは昨夜の疲れもあり、いつの間にか眠ってしまった。


 深夜、オレは下半身に違和感を覚え目を覚ました。

 誰かがオレのシンボルを刺激しているのだ。

 ベッドサイドの微かな灯りを残して辺りは暗く、ベッドでは少女たちの寝息が聞こえ熟睡しているようだった。

 こんなことをするのは1人しかいない。

 タオルケットを剥ぐと案の定、犯人はトリンであった。

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