第275話 新市長アーロン・リセット

「君にエッセン市長を任せたいと思っている」


「えっ、私にですか…」


「そうだ、アーロンにエッセン市をリセットして欲しいんだ」


「こ、公爵…、いきなりダジャレですか?」

 アーロン・リセットは呆れ顔でオレを見ていた。


「いや、ダジャレじゃなくて、真面目な話だ」

 オレはアーロン・リセットにエッセン市の現状を詳しく説明した。

 ギルド連合幹部が裏帳簿を作り、不正を隠蔽し私腹を肥やしていた事。

 不正を白日の下に曝し、不正に関与していた者を厳罰に処したこと。

 現ギルドは職権により廃止、代わりに「公設ギルド」を設立し、ギルドマスターを王都のギルドから選抜予定であること。

 エッセン領をエッセン広域市として再編し、5つの区に分けること。

 エッセン市に公設市場を設置し、ギルドメンバーや領民が生産した商品を、直接販売できる仕組みを作ること。

 エッセン市開発共同企業体を設立し、領内外から出資を公募すること等を説明した。

 

 そして、ギルド連合の長年に渡る不正により、発展を阻害されたエッセン市政を一新させ、強力に牽引していく新市長が必要なことを滔々と説明した。


「なるほど…、そう言うことでしたか…

 分かりました、私で宜しければ、ぜひやらせて下さい」


「ありがとう、アーロンなら引き受けてくれると思っていたよ」


「ところで、どのような街づくりをお考えですか?」


「うん、まだ素案の段階だが、不正防止に力を入れようと思ってるんだ」


 オレはアーロンに街づくりの構想を披露した。

 ◎ギルドの機能は、最低限にして不正が起きにくい環境を整備

 ◎6ヶ月毎に外部機関による定期監査を実施

 ◎ステカを利用したキャッシュレス決済を全市に導入

 ◎原材料の仕入・支払、商品の販売・支払にステカのキャシュレス決済を利用

 ◎キャッシュレス決済の取引は自動で記録され課税対象取引が明確になる

 ◎税額は自動計算により算出され、毎月月末に自動引落しで納税

 ◎キャッシュレス決済端末を期間限定で希望者に無償配布

 ◎その原資は旧ギルド連合幹部から没収した資産を充てる

 ◎公設ギルドと公設市場が営業を開始するまでの1ヶ月間、全ギルドメンバーは休業とする

 ◎その間の休業補償として1人当たり金貨10枚(100万円)を支給

 ◎ギルドメンバーは約8千人いるので、金貨8万枚の持ち出しとなる

 ◎金貨10枚はギルド幹部に搾取された分をメンバーに還元する意味もある

 ◎旧公爵邸と旧ギルド本部は取り壊し、新しく建設する

 ◎王都と領都からの飛行船定期航路を開設(アクアスター・エアロトラベル)

 ◎エッセン市内の観光開発とリゾート建設の検討


「なるほど…、盛りだくさんですね…。

 ところで公爵、ステカって何ですか?」


「あ~、アーロンはステカを知らなかったか」


 オレはアーロンにステカについて詳しく説明した。

「因みにステリンと言うのもあって、そっちはステカの指輪版だ」


「へ~、そんな便利なモノがあるとは知りませんでした。

 領都にも導入したらどうですか?」


「そうだな、今度は飛行船に乗るのにステカが無いとチケットも買えなくなるから、早速手配しよう」


「アーロンの直属の部下となる人材を2名ほど、王宮にお願いしてあるから、決まったら紹介するよ」


「分かりました、こちらの引き継ぎは1週間で終わらせて来週から着任できると思います」


「了解、アーロンの手腕に期待しているよ」


「お任せ下さい、きっと良い街にして見せます!」


 そのような経緯でアーロン・リセットのエッセン市長就任が決まった。

 領都の副市長は、アーロンの部下のモラレス・グリーンが引き付くこととなった。

 モラレス・グリーンは、地元で公募し採用した優秀な男だ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 オレが公爵邸に戻ると、秘書のセレスティーナが国王陛下から人材の件で候補者が決まったから、戻ったら謁見の間に来るようにとのことだった。

 オレは隣の部屋へ行くような感覚で『ゲート』を使って、1200km離れたフローリア王宮へ移動した。


「陛下、人選が終わったと聞きましたが…」


 オレが謁見の間に入ると、クラウス国王は、3人の男と話をしているところであった。


「おお、来たか、待っておったぞ。

 この3名がカイト殿の部下となる男たちだ」


 3人の男はそれぞれ自己紹介した。

 最初の男は眼光鋭い30代半ばの厳つい男だった。

「シュテリオンベルグ公爵閣下、お初にお目に掛かります。

 私は、レイン・サンダースと申します。

 これまでは王都の商業ギルドで副ギルドマスターを務めておりました。

 どうぞ、よろしくお願い致します」


 2番目の男は、物腰の柔らかい、如何にも役人と言った感じの眼鏡を掛けた男だ。

「公爵閣下、お初にお目に掛かります。

 私は、シェロン・レスポーザと申します。

 これまでは内務省で経理関係の仕事をしておりました。

 どうぞ、宜しくお願い致します」


 3番目の男は、恐らく軍人であろう。

「公爵閣下、お初にお目に掛かります

 私は、ライナー・レーゼンハウトと申します

 これまでは、軍務省に所属し、第7師団で憲兵隊の隊長をしておりました。

 宜しくお引き回しのほど、お願い申し上げます」


「カイト・シュテリオンベルグです。

 話は既にお聞きかと思いますが、エッセン市の再生に力をお貸し下さい。

 皆さんの手腕に大いに期待しております」


 彼ら3人の新たな配属先は下記の通りである。

 レイン・サンダース    エッセン市公設ギルド・ギルドマスター

 シェロン・レスポーザ   エッセン市会計部長

 ライナー・レーゼンハウト エッセン市警察本部長


「カイト殿、どうじゃ優秀な人材ばかりであろう」


「はい、陛下ありがとうございます。

 これで、何とか人材の目処が付きました」


 オレは彼らと小1時間ほど話して公爵邸へ戻った。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「カイト、お帰りなさい…

 今日は、随分とお疲れみたいね」

 オレが自室に戻ると、ジェスティーナが待ち構えていた。


「ジェスティーナ、心配してくれてありがとう」

 確かに最近は働き詰めで疲れが顔に出ていたのだろう。


「食事の用意が出来てるから、ビーナスラウンジに来てね」


 オレは7人の婚約者フィアンセたちと夕食を楽しみ早めにベッドへ入った。

 今日は疲れているので、早めに寝ようと思ったのだ。


 ウトウトとし始めたところでドアがノックされた。

 返事をするとドアが開き入ってきたのは、純白のナイトウェアに身を包んだレイチェル・エイントワースであった。


「ご主人さま、夜伽に参りました」

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