第274話 エッセン市再生計画

 ハラグロイネンを始めとするギルド連合幹部3人は、情報省諜報本部長のキアン・ベルアーリとその部下により、その場で捕らえられ、市庁舎の地下牢に監禁された。

 そして翌日から連日厳しい取り調べが行われたのである。

 並行して表帳簿と裏帳簿、在庫の会計監査、ギルド連合幹部の家宅捜索と財産調査を行い、如何にして私腹を肥やしていたか明らかにした。


 彼らの逮捕容疑は、脱税であるが、領主から任命されたギルドマスターと言う地位を利用した背任容疑もあり、全容が明らかにされるまでには暫く時間が掛かった。


 一見、繁栄しているように見えるエッセン市であるが、本当は更なる発展が可能だったのだ。

 それを阻害していたは明らかにギルド連合であった。


 約3週間に渡る徹底調査の結果、ギルド連合幹部による脱税と汚職の全容が明らかとなった。

 ◎表帳簿に記載された取引内容は、その9割が虚偽の記載であること

 ◎各ギルドとギルド連合の実際の手数料額は、表帳簿の2.5倍

 ◎脱税額は過去5年で金貨12万7千枚(127億円)にも達すること

 ◎脱税には各ギルドの幹部職員24名が関与していたこと

 ◎帳簿在庫と実在庫に差異があり、7割以上が帳簿在庫よりも少なかったこと

 ◎多くの仕入業者と結託して、リベートを要求し、各ギルドマスターが自分の懐に入れていたこと

 ◎販売業者からは、優遇を条件にバックマージンを要求し、各ギルドマスターが懐に入れていたこと

 

 その1週間後、オレは処分を決め、エッセン市民の前で通達することにした。


「親愛なるエッセン市民、並びにギルドメンバーの皆様。

 私は、この地を引き継いだ新領主のカイト・シュテリオンベルグです」

 オレは市庁舎5階のバルコニーに立ち、市庁舎前広場に集まった3万人を超える市民を前にこう切り出した。


「私がこの地の領主となり、真っ先に疑問に思ったことがあります。

 それは、高い技術力を持った多くの職人が優れた製品を生産しているにも拘わらず、エッセン領の旧領主は税収が芳しくないと自分の財産を切り売りし、補填していたことです。

 何かおかしいと感じた私は、職権で3つのギルドと上部組織であるギルド連合を密かに調査しました。

 その結果、ギルド連合幹部による脱税、汚職、背任行為が明らかとなりました。

 彼らは、半公務員と言う立場を忘れ、公共組織であるギルドを私物化し、自らの私腹を肥やすためのみに注力していたのです。

 その結果、今分かっているだけでも5年間で金貨12万7千枚の脱税を行い、仕入業者へのリベート要求、販売業者へのバックリベートの要求など、悪事の限りを尽くしていたのです。

 この事はギルドメンバーを始め、全領民への背信行為であり、赦されざる大罪です。

 よって、ギルド連合会長ハラグロイネンを始め、不正に関与した者を断罪する事としました」


 オレは今回の事件の処分を次のように発表した。

 ①ギルド連合と現行ギルドの解散及び廃止

 ②下記の3名は全財産没収、鞭打ち100回の上、領外追放

  ギルド連合会長兼商業ギルドマスターのスコブール・ハラグロイネン

  ギルド連合副会長兼工業ギルドマスターのボルダケ・ヴォルゾー

  ギルド連合副会長兼魔導具ギルドマスターのミルカラーニ・コアクトー

 ③脱税と汚職に関与したギルド職員24名は、財産の2分の1没収、鞭打ち10回の上、領外追放

 ④領主代行兼執政官のカール・ベルリッツは、管理監督責任を問い解任

 ⑤市長のジャック・ブリトーは管理監督責任を問い解任

 ⑥汚職に関与した仕入業者は、3ヶ月~6ヶ月の資格停止

 ⑦汚職に関与した販売業者は、3ヶ月~6ヶ月の資格停止


 次にギルドの再生計画を発表した。

 ①新ギルド「エッセン市公設ギルド」を設立する。

 ②内部外部監査体制を確立し、6ヶ月毎に定期監査を実施する。

 ③新ギルドマスターには、王都の商業ギルドから選任した者が着任する

 ④市内中心部に「エッセン市公設市場」を開設し、ギルドメンバーや住民が生産した商品を直接販売できるようにする。

 

 次にエッセン領全体の再編と振興計画を発表した。

 ①エッセン領全体をエッセン広域市とする

 ②現エッセン市を中央区、その他の地区を再編し東西南北4つの区を新設する

 ③領主代行兼新市長を選任し、近々着任させる

 ④エッセン市開発共同企業体を設立し、領内外から出資を公募する

 ⑤エッセン市に新たな産業を誘致する

 ⑥旧公爵邸を解体し、新公爵邸を建設する


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 オレは、エッセン市を後にし、領都エルドラードへ戻った。

 今日はある目的があって複合商業施設併設型市庁舎エルドラードへやってきたのだ。

 そして真っ直ぐに11階の副市長執務室へ向かった。

 ドアをノックすると返事があり、扉を開けると、そこにいたのはアーロン・リセットであった。


「カイト様、お久しぶりです。

 いや公爵閣下とお呼びすべきですかな」

 アーロンは、満面の笑顔でオレを迎え、熱烈に歓迎してくれた。

 彼は元王国外務省官僚でオレの補佐官を務めていたのだが、今は領都エルドラードの副市長を委嘱している有能な男だ。

 アーロン・リセットは、疲弊した領都エルドラードの復興を陣頭指揮しているのである。


「やあ、アーロン、今日は君に頼みがあって来たんだ」


「えっ、改まってどうされました?」

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