第267話 アプロンティア国王からの褒賞

 アプロンティア王国のレオニウス国王から、オレに相談があるので、少人数で来て欲しいと連絡があった。

 何故、少人数なのか分からなかったが、ジェスティーナ他、婚約者フィアンセたちは、権限を移譲した会社の運営に忙しく、オレは護衛のステラとリリアーナの2名のみを伴い、『ゲート』でオレに充てがわれたクリスタリア王宮(別名水晶宮クリスタルパレス)の客間に移動した。


 そして謁見の間で待つレオニウス国王に拝謁した。

「国王陛下に於かれましては、ご機嫌麗しく恐悦至極に存じます」

 オレは型通りの挨拶をした。


 国王の横には、オレとすっかり顔なじみとなった外務大臣のライゼン子爵と軍務大臣のシュトラーゼ伯爵が控えていて、オレに会釈した。

「シュテリオンベルグ公爵、わざわざ我が王宮までお越しいただき申し訳ない。

 今日、貴公に来て貰ったのは褒賞を授与したいと思ったからだ」


 なるほど、そう言うことか。

 どうせ、断っても貰え貰えとしつこく迫ってくるに違いないので、オレは有り難く頂戴することにした。

「はぁ、それは、とても有り難いことです」


 レオニウス国王はライゼン子爵に指示して褒賞の目録を読み上げさせた。

「貴公は我が国に於けるクーデターの企てを事前に察知し、その発生を未然に阻止した功績を称え、名誉公爵位並びに、褒賞金として金貨10万枚を授与する」

 なるほど、そう来たか。


「いやぁ、本当は正伯爵位を検討しておったのだが、貴公がソランスター王国で公爵に陞爵したと聞いてのう…

 我が国が伯爵位を叙爵したところで、公爵に伯爵位など…、かえって失礼になると思おてのう、申し訳ないが名誉公爵位で勘弁してくれぬか」

 レオニウス国王は褒賞決定までの内情を説明してくれた。

 因みに名誉公爵位には領地も屋敷も与えられないが、その代わり毎年金貨1万枚の恩賞が出るそうだ。


「畏まりました。

 有り難く頂戴致します」


「そうかそうか、受けてくれるか、安心したぞ」

 レオニウス国王は、胸を撫で下ろしていた。

「ところで、ひとつ貴公に頼みがあるのだが…、聞いてくれんかのう」


「どのような頼みでしょう?」


「儂の娘を嫁に貰って欲しいのだ」


 はあ?、娘を嫁にだと?

「陛下、私に何人婚約者がいるかご存知ですか?」


「おお、知っておるぞ。

 つい最近、リアンナ王女と婚約したと聞いたから…

 全部で6人じゃな!」


「その通りでございます。

 さすがに、もうこれ以上は無理でございます」


「そこを何とか…

 貴公は、公爵であろう。

 公爵と言えば押しも押されぬ大貴族。

 嫁が6人でも7人でも、たいして変わり無かろう」


「そうは、申されましても…、嫁を貰えば一生涯面倒を見なければなりませぬ…

 そうホイホイと、簡単に嫁を貰ってはおられませぬ」


「では、持参金を付けるぞ。

 金貨10万枚でどうじゃ?」


「金の話だけではありません…

 ところで、何故陛下は私に娘を嫁がせたいのですか?

 アプロンティアとソランスターの縁なら、マリウス王子とセリーナ王女の婚約が決まっているではありませんか」


「確かに、我が娘とクラウス国王の第1王子の縁談は纏まった。

 しかし、儂は貴公と直接縁続きになりたいのじゃ。

 貴公は『女神様の使徒』であり、此度の戦でも未知なる力を使い、戦争を終結に導いたではないか。

 儂は、貴公を身内として味方に付けておきたいのじゃ」


 なるほど、これは所謂いわゆる政略結婚と言う奴で、オレが今までしてきた婚約とは明らかに違う。


「そんな、会ったこともない王女を、いきなり嫁に貰ってくれと言われても困ります」


「では、会ってみるか?

 儂の娘は自慢の器量良しじゃぞ」


「いいえ、それは遠慮させていただきます。

 会えば断れなくなるかも知れませんので…」


 国王は執拗に娘を嫁にと食い下がって来たが、オレが首を縦に振らないので、遂に諦めたようだ。


「それじゃあ、代わりと言っては何だが、我が領地にあるサファイア・レイクをリゾートとして開発してくれぬかのう…」

 サファイア・レイク?

 聞いたことのない地名だ。


「聞けば、貴公の本業は建築設計とリゾート開発と言うではないか。

 見て貰えば分かると思うが、あそこは実に美しい湖でのう。

 儂は、他国からも観光客を呼べると踏んでおるのじゃ。

 どうじゃ、儂と組んで新しいリゾートを作らぬか?」


 レオニウス国王の提案は、確かに魅力的なものであった。

 グループに3箇所のリゾートはあるが、アクアスターリゾートは営業休止中だし、そろそろ新しいリゾートを企画しても良い時期ではある。

「分かりました、そのお話検討させていただきます。

 ところで、そのサファイア・レイクと言うのは、どこにあるのですか?」


「ここから、200kmほど離れた山岳地帯にある湖じゃが、サファイアのように美しいことからサファイア・レイクと名付けられたのじゃ。

 そこにはサファイアパレスと言う離宮があってのう、儂も年に1~2回保養がてら行くのじゃが、温泉もあるし、湖畔から眺める山々の雄大な景色は実にいい…

 それにスキー場もあるからのう、夏場以外はスキーも楽しめるのじゃ」


 国王によるとサファイア・レイクは標高1200mの山岳地帯にあるサファイアブルーの湖で、標高3000m級の山々に囲まれた景色は絶景だそうだ。

 すぐ近くに大きな滝があり、観光地としても有望なのだが、交通の便が悪く、今までは余り行く人がいなかったそうだ。


 しかし、オレには飛行船と言う交通手段があるし、200kmであれば30分ほどで飛べるので、オレにとっては絶好の開発案件なのだ。


「分かりました、検討させていただきます」


「まだ時間も早いし、折角だから、これから行ってみてはどうじゃ?

 案内人を付けるから、今日は離宮に一泊して温泉にでも入ってゆっくりと骨休めするが良かろう」


 折角なので、オレはレオニウス国王の言葉に甘えることとした。

「それでは、案内させる者を用意するから、貴公は飛行船に乗って待つが良かろう」


「畏まりました、それではそうさせていただきます」

 オレは名誉公爵位の目録と褒賞金の金貨10万枚を拝受し、飛行船で待った。


 ステラとリリアーナには、サファイア・レイクと言うリゾート候補地視察のため、今夜はサファイア・パレスと言う名の離宮に宿泊する旨を伝え、同行するよう指示した。


 それから30分ほど待っていると、以前世話になった迎賓館長のカルロスとメイド服を着た女性5名、男性4名が乗り込んできた。

 何やら食材や酒他、色々なものが貨物室に積み込まれ、どうやら今夜は歓待してくれるらしい。

「公爵閣下、本日は私カルロスが国王陛下の命により離宮をご案内させていただきます。

 同行致しますのは、私の他、料理人2名、護衛の兵士2名、メイド5名の合計10名でございます」


「了解です、皆さん、宜しくお願いします」


 オレは全員のシートベルトを確認し、電源スイッチを入れ、ハッチ開閉ボタンを押すとタラップが格納され、自動でハッチが閉まった。

 コンソールのヘッドアップディスプレイには現在の気象情報と周囲の地図が3Dで表示されている。

 離陸ボタンを押すとジェットエンジンが起動し、下向きの噴射を開始した。

 カルロスに聞いたサファイア・レイクの位置情報をマップシステムに入力した。


 船体がふわりと浮かび上がると『おぉ~』と言う野太い声と『きゃ~』言う女性の悲鳴が船内に響いた。

 そのまま、ゆっくりと地上30mまで浮上すると上昇速度を加速し、一気に地上6000mまで上昇した。


 水平飛行に移ると、手動航行でサファイア・レイクを目指した。

 時速450kmの最高速度で航行すると30分足らずでサファイア・レイク上空に到達した。

 下降しながら、有視界飛行で離宮を探すと湖の畔に、美しい宝石のように輝く建物が見えてきた。

 これが、サファイア・パレスらしい。


 オレは、サファイア・パレスの正面にある広場に飛行船『空飛ぶイルカ号Ⅱ』を着陸させた。

 すると建物の中から、管理人と思しき男が出て来て、何事が起こったのかと驚きの表情でこちらを見ていた。


 ハッチを開け、オレに続いて迎賓館長のカルロスが顔を出すと、管理人の男が安心したような表情となった。


「サファイア・パレスへようこそお越し下さいました。

 夕食に酒肴をご用意させて頂きますが、先にサファイア・レイクの名所をご案内させていただきたく存じますが、如何でしょう」


「分かりました、それでは案内をお願いします」


「はい、ご案内するのは、この者でございます」


 カルロスが紹介したのは、同行したメイドの1人であった。

「シュテリオンベルグ公爵閣下、私はセレーナと申します。

 本日は、私がサファイア・レイクの見どころをご案内させていただきますので、どうぞ宜しくお願い致します」


「こちらこそ、宜しくお願いします」

 そう言って、セレーナと言う名のメイドを見て驚いた。

 キラキラと輝く超絶美少女で、しかもオレ好みの『どストライク』なのである。


「では、こちらへどうぞ」

 そう言ってオレと護衛のステラとリリアーナを先導して湖へ向かって歩きだした。

 カルロスも少し遅れて付いて来た。

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