第266話 従業員説明会
翌日早朝、アクアスター・リゾートに異世界宅配便の施工チームが到着し、オレの前に整列した。
責任者は、いつものパルム・シントラである。
「ハヤミ様、お早うございます。
この度は、私共のせいでご迷惑をお掛け致しまして、大変申し訳ございません。
誠心誠意、復旧作業させていただきますので、どうぞ宜しくお願いします」
パルム・シントラは低姿勢で、オレにそう挨拶した。
「はい、こちらこそ宜しくお願いします」
パルム・シントラは、オレに一礼すると、施工チームは一斉に作業を開始した。
重機を入れて土地を掘り返し整地するのかと思ったら、そうでは無かった。
見たこともない巨大な装置が土砂を飲み込み、瓦礫その他の物を分離して純粋な土砂のみを吐き出して整地していくのであった。
これなら効率的に復旧作業が遂行できるという訳だ。
それでも復旧完了まで優に2ヶ月以上掛かると予想されていた。
作業の進捗状況を時々見に来るとパルム・シントラに告げて、オレは『ゲート』で公爵邸へ戻った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
王都へ避難していた執事長のローレンとソニア他全従業員、錬金工房のメンバー、それにアクアスタープロダクションの研修生全員は、飛行船『空飛ぶクジラ号』に乗りシュテリオンベルグ公爵邸(エルドラード・リゾート)へやってきた。
初めての者にとって片道1200km、3時間半の距離はちょっとした旅行である。
従業員たちは、アクアスターリゾートが営業不能に陥り、復旧までには2ヶ月以上掛かるので、その間エルドラード・リゾートに滞在してもらうことにしたのである。
16階の大会議室にオレのスタッフ他、アクアスターリゾートの全従業員に集まってもらった。
◎侍従とメイド達39名
◎アクアスターリゾートの従業員28名
◎錬金工房のメンバー4名
◎秘書9名と大臣秘書官のアルヴィン
◎アクアスター・プロダクションのメンバー30名
◎
◎護衛達10名
◎妖精族のスー
その数、総勢約130名である。
いつの間にこんな大所帯になったのか…
それだけオレの責任が重くなったのだと思うと、感慨も
「今日、全従業員並びに関係者諸君に集まった貰ったのは、
全員が、オレの話を
中には、リゾートが閉鎖となったら解雇されるのではないかと心配している者も少なからず居たのだ。
「まず初めに、
「
奴は300年もの長きに渡り、ミラバス山火口の底で寝ていたが、オレたちが地下でエネジウム鉱石を採掘する際の騒音で安眠を妨害されたと
ワイバーンに縄張りを荒らされたと言う
「みんなに、とても恐ろしい思いをさせたこと、責任者としてまずはお詫びしたい」
オレは深々と頭を下げた。
「最初に、みんなが心配している雇用の問題から話しておきたい。
全従業員の雇用は、このオレが保証する」
すると会場全体から「おぉ~」と言う声が上がった。
「先ほども話したように、
「
「そのことを女神フィリア様に説明した所、オレの言い分は尤もだと…
全面的に非をお認め下さり、補償に応じてくれることとなった」
そこまで話すと会場全体から拍手が沸き起こった。
「次にアクアスター・リゾートの現状を説明したいと思う」
オレは、リゾートの被害状況を詳細に順を追って説明した。
敷地内は、
上下水道は上水濾過装置、下水浄化装置とも破壊され復旧不能なこと。
電気は水力発電が一部使えるものの通常の2割しか電力を確保できないこと。
農園と薬草園は壊滅的な被害を受け、今年の収穫は不可能な状況であること。
重要な食料となる牛や豚、鶏など家畜を飼っていた畜舎は全壊したこと。
錬金工房が半壊状態だが、錬金釜や貯蔵してポーションは無傷であること。
源泉が湧出していた櫓が破壊され、温泉を汲み上げることができないこと。
爆風により、本館の窓ガラスがほぼ全て吹き飛び、加えて雨や煤などが風に乗って侵入し、営業できる状態でないこと。
アクアスター・リゾートの温泉が使えない、食料、上下水道、電力の確保が難しくホテルの営業も居住も不可能であることを説明した。
それを聞き会場からは、どよめきが起こった。
次に復旧工事について説明した。
生活インフラ、農地・薬草園、建物・構築物、道路などの復旧は、女神フィリアの指示で異世界宅急便の施工チーム50名が派遣され、今日から始まったこと。
必要な資材や設備器具、農具、農作物や薬草の種、家畜などは全て無償で提供され、現場監督として異世界宅配便のパルム・シントラが工事終了まで派遣されること。
「現在のところ、復旧までには最短でも2ヶ月を要すると予想されている」
オレの説明に会場からは、再びどよめきが起こった。
「しかし、女神フィリア様から十分な休業補償が得られるので、その間の君たちの給与は保証されるから心配しなくてもいい」
それを聞き会場からは、拍手と歓声が沸き起こった。
「それで、その休業期間中に何をするのか、幹部スタッフが集まって考えた。
その中で案として出たのは、このエルドラード・リゾートの開業準備と新規雇用するスタッフの教育を行ってもらうことだ」
会場からは、うんうんと頷く様子が見て取れた。
「でも、それだけでは、圧倒的に時間が余ってしまう。
それで色々考えた末、次の結論を出した」
「アクアスター・リゾートはオープンしてもうすぐ1年となるが、その間キミたちは身を粉にして働いてくれた。
お陰様で、アクアスター・リゾートの収益は、順調に推移しており、それを社員に還元したいと思っている。
その還元の方法は何かと言うと……
それは、全社員を対象とした1週間の社員研修旅行の実施だ。
滞在先はオープン間近のエメラルド・リゾートを考えている」
オレの言葉を聞き、その場にいた全員が立ち上がり、拍手と大歓声の嵐が鳴り止まなかった。
まさか、ここまで反響が有ろうとは思わなかった。
オレは、会場の盛り上がりを手で制しながら先を続けた。
「エメラルド・リゾートに宿泊して、顧客目線で研修中の従業員たちを指導して欲しい。
そこで気付いたことをエメラルド・リゾートの新人スタッフに教えてやって欲しいんだ。
そうすることで、彼らの気付きになると思うから」
この事は、ジェスティーナ新社長を通じ、ゼビオス・アルカディア副社長やエルビン・サエマレスタ専務など、幹部役員の了承を得ているのだ。
「エメラルド・リゾートは、総客室数533室とアクアスター・リゾートの20倍もの超大型リゾートだ。
高層ホテル棟、低層ホテル棟、ビーチヴィラ、プライベート・ヴィラの4種類ある宿泊施設の、どのグレードのホテルを選んでもいい。
もちろんオールインクルーシブだから、当然食事も飲み物も無料だし、君たちの好きなものを選んでいい。
それに13種類あるアクティビティも選び放題だ。
自由に使って、その感想をフィードバックして欲しい」
オレの話に従業員たちは興味津々といった感じであった。
「旅行期間中には、食事会やイベントも企画しているが、その他は基本自由行動だ。
無論、仕事の有るものは仕事を優先してもらうが、その期間極力仕事を入れないように配慮する。
それと言い忘れていたが、家族がいる者は家族も無料招待する。
連れていきたい家族がいれば、あとで希望を取るから、その時に申告して欲しい」
オレがそう言うと、再び会場からは万雷の拍手が沸き起こった。
今回の旅行は、アクアスター・リゾートの営業休止と言う大ピンチを、逆にチャンスと捉え、社員研修と慰安旅行を兼ねて、エメラルド・リゾートの開業直前の仕上がり具合をホテル業のプロの目でチェックしてもらうと言う、正に一石二鳥の計画なのだ。
もちろんその間の食費や原価として係る費用は会社(アクアスター・リゾート)負担となるが、通常の宿泊料金に比べれば安いものである。
社員研修旅行は、1ヶ月後に実施する旨を発表してその日の説明会は終了した。
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