第257話 業務多忙に付き権限委譲します

 翌日、ステカとステリンが届いた。

 朝一で、異世界宅配便のパルム・シントラが届けてくれたのだ。

 大量に届いた段ボール箱のひとつを開けると、梱包されたステータスカードが出てきた。

 サンプル用にステカ100枚とステリン100個を取り出し、残りは倉庫に入れた。


 自室に戻り、早速ステカを試してみた。

 テーブルの上にステータスカードを置き、両手を重ねて翳す。

 10秒ほど経つと、ステータスカードが光り『登録完了』の文字が浮かび上がった。

 ステカを手に持つと、オレのステータス情報が浮かび上がった。

 

 氏 名:カイト・ハヤミ・シュテリオンベルグ

 年 齢:19歳

 性 別:男

 職 業:公爵、領主、大臣、経営者

 称 号:女神の使徒、プリンセスキラー、ヴァージンキラー

 国 名:アクアスター神聖国、ソランスター王国

 賞 罰:ブルースター勲章受賞

 犯罪歴:なし

 残 高:0GOD(チャージ可能)


 まさか、プリンセスキラー、ヴァージンキラーが本当に称号になっているとは思わなかった…

 それに、国名にある『アクアスター神聖国』って…なんだ?

 文字は途中で切れているが、スクロールすると隠れていた部分も見えてきた。


 所 領:アクアスターリゾート領、シュテリオンベルグ公爵領(エルドラード、セントレーニア、エッセン他)

 婚約者:ジェスティーナ、アスナ、アリエス、フローラ、エレナ、リアンナ

 愛 妾:サクラ、リーファ、トリン、リオナ、マリン、レイチェル、ナツナ、ミナモ

 スキル:魅了、マルチリンガル、異空間収納、ゲート、リッチライフ、他

 アイテム:スターライトソード、アウリープ号、空飛ぶイルカ号Ⅱ、他

 レベル:778

 H P:338277

 L P:785718

 M P:837


 3ページ目以降も情報があるが、1ページ目の情報があれば十分だ。

 残高の欄にチャージ可能とあるが、どうやってチャージするのだろう。

 まさか…と思いながら、ステカの上に金貨を1枚置いてみた。

 すると、ステカが光り、金貨が消えると『チャージ完了』の文字が点滅した。

 女神フィリアの言葉じゃ無いが、『さすがは異世界ファンタジー』である。


 チャージが完了し、残高を見てみると、

 残高が500GOD(スター金貨1枚)に変化していた。

 換算レートは、異世界ネット通販パラワショップと同じスター金貨1枚=500GODだ。


 女神フィリアは、魔導回路が内蔵された只のカードだと言っていたが、こんなに多機能で、1枚あたり千円とは、逆に安いかも知れない。

 使いようによっては、新たなビジネスチャンスになるアイテムだとオレは思った。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 航空産業大臣を拝命して、一気に仕事が増えた。

 国王は、優秀な人材を部下に付けると約束したが、オレにしかできない仕事が山のようにあるのだ。


 取り敢えず、最初に片付けなければならない仕事が2つある。

 1つは、国際定期航路開設の大まかな運行ルール作りだ。

 これは、女神フィリアに相談して大きなヒントをもらったので、大方片付いたも同然であるが、ルールを文書化して国王に説明しなければならない。

 2つ目は、『航空産業省』が入る建物の設計である。

 これはオレの本業でもあり、2~3日徹夜すれば何とか形になるはずだ。


 問題は、その後である。

 航空産業省が軌道に乗るまで、恐らくこれらに掛かりきりになるだろう。

 今、想定している事案は大きく分けて下記の7つだ

 ①国際定期航路開設へ向けての詳細な運行ルール作り

 ②3カ国王都間定期航路の運行スケジュール作成と飛行船の調達

 ③航空産業省の部局と組織の設計、人材採用、人員配置

 ④既存省庁(商業庁、農業庁、水産庁)の業務分析と再構築、人員再配置

 ⑤商業ギルド、大手商家と生産者との諸契約・取引条件の見直し

 ⑥国内物流の現状分析と効率化対策の策定

 ⑦縦割り行政の打破、既得権益の白紙化、諸ルールの見直し


 その他に、リアンナ王女から頼まれたフォマロート王国の復興と産業振興も並行して手掛けねばならない。

 そうなると、オレの個人事業に割く時間が殆ど取れなくなることが予想される。

 あれこれ考えて、オレはひとつの結論に辿り着いた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 その日の夕方、アクアスターリゾート11階のダイニングラウンジに於いて緊急経営会議を開催した。

 出席メンバーは下記の通り。

 リアンナを除く5人の婚約者(ジェスティーナ、アリエス、フローラ、アスナ、エレナ)※リアンナ王女は所用で現在帰国中。

 アクアスター・リゾート関連各社の管理職5人(サクラ、エミリア、トリン、ローレン、ソニア)

 オレの専属秘書のソフィアと、大臣秘書官のアルヴィン・リンドバーグ。

 アルヴィンは情報大臣公邸の返上に伴い、アクアスターリゾートへ移動したのだ。

 因みに、この館には男性用宿舎がなく、別棟の従業員宿舎を使っている。

 この会議には、経営に関与していない王女3姉妹とエレナも呼ばれ、何事だろうと言う表情であった。


「みんな、忙しいところ集まってくれてありがとう。

 この中には経営に関与していないメンバーも居るが、これから話す内容を聞けば、呼ばれた理由が分かると思うから、オレの話を良く聞いて欲しい」


 オレは昨日、国王から航空産業大臣に任命された件を一堂に話した。

 産業振興には、今後物流の要となる航空が重要な鍵となるからという理由で、航空産業省と一纏めの役所になったが、その実態は航空省と産業省の別々の役所であること。

 しかも産業省は、商業、農業、水産業、鉱工業、林業、流通業など国内のあらゆる産業を横断的に統轄し、円滑な流通と産業振興を図るための上位省庁なので、その手綱を握るのは1人でも大変であること。

 『産業省』の下には、再編した商業庁、農業庁、水産庁など既存省庁が傘下に入るが、これらの省庁は縦割り行政で業務が非効率であったり、利権を我が物にしようとする輩が蔓延はびこり、少なからず機能不全に陥っていること。

 それにリアンナ王女の依頼でフォマロート王国の復興にも関与しなければならず、どちらも片手間では対応できないことを説明した。


「確かに、聞いているだけでも大変そうね」

 ジェスティーナが理解を示してくれた。


「そうなんだ。

 それで、アクアスター・リゾートやシュテリオンベルグ公爵領の企業経営をオレが直接行うのは難しくなったから、皆んなで分担して手伝って欲しいんだ」

 

「なるほど…、そう言う話ね。

 で、誰がどの会社を担当するか、決めたの?」

 アスナはオレに質問した。


「みんなの適性が良く分からないけど、一応割り振ってみた。

 今から発表するから聞いてもらえるかな?」


「聞いてみないと何とも言えないから、とにかく発表してみて…」


 オレは誰がどの企業を担当するか、素案を発表した。

 ◎ジェスティーナ

  エメラルド・リゾート株式会社社長

  シュテリオンベルグ開発共同企業体理事長

 ◎アリエス

  エルドラード・リゾート株式会社社長

  シュテリオンベルグ城の施設管理者

  ※エルドラード・リゾートは、シュテリオンベルグ城に併設するリゾートホテルの運営会社

 ◎フローラ

  アクアスター・エアロトラベル株式会社社長

  ※アクアスター・エアロトラベルは飛行船を運行する初の民間航空会社(新設)

 ◎エレナ

  シュテルンベルグ・ハウジング・サービス株式会社社長

  複合商業施設併設型市庁舎エルドラード施設管理者

  ※シュテルンベルグ・ハウジング・サービスは2880戸の市営住宅アパートの運営管理を行う会社

 ◎サクラ

  アクアスター・プロダクション株式会社社長

  アクアスター王都アリーナの施設管理者

 ◎アスナ

  アクアスター・トラベルサービス株式会社社長

  アクアスター・デベロップメント株式会社社長

  ※アクアスター・デベロップメントは王都の商業施設、ホテル、住宅、公共施設を設計施工する新設企業

 ◎エミリア

  アクアスター・リゾート株式会社社長兼総支配人

 ◎トリン

  アクアスター錬金工房アルケミー・スタジオ株式会社社長

 ◎ローレン

  アクアスター・ワイナリー株式会社社長

  アクアスター農園・薬草園・温泉管理責任者

 ◎ソニア

  アクアスター・エデュケーション・サービス株式会社社長

  ※リゾート&ホテルズ専門学校(王都校、領都校)を運営する新設企業


「なるほどね…。

 新設企業が4つもあるから、1人で2社面倒見なきゃならない人がいるのね」とアスナが頷く。


「一応、適性は考慮したつもりだけど、意見があれば言って欲しい」


「う~ん、やってみきゃ分からないし、取り敢えず私はこれでいいと思う。

 それに私、エメラルド・リゾートに興味あるし…」

 そう言ったのはジェスティーナである。


「経営なんてやったことないから、右も左も分からないけど、誰かサポートしてくれるの?」とアリエスが言った。


「最初に引き継ぎの時間を設けるし、幹部スタッフも紹介するから大丈夫だと思うよ。

 それに、オレが各企業に代表権のある会長として席を置くし、会社の経営から外れる訳じゃないから、安心して業務に励むといいよ。

 分からないことがあれば、アスナかサクラもしくはオレに聞けばいい」


「1つの企業を任せられるって、責任重大で大変そうだけど、やり甲斐あるわね」

 フローラは賛成してくれた。


「言い忘れてたけど、役員報酬の金額は自分で決めていいよ。

 ただし、事前にオレの承認が必要だけどね。

 業績に応じた役員報酬なら文句は言わないから」

 オレがそう言うと全員から歓声と拍手が湧き起こった。

 他のメンバーも、不安だと言いながらオレの案に賛成してくれた。


「それから、これはお願いなんだけど、各企業管理者は毎週オレに現状と課題を報告レポートして欲しいんだ。

 問題が発生した場合は、オレが直接介入して対応するから」

 毎週報告を聞くオレは大変だが、直接企業を経営するよりは時間的に余裕が出る筈だ。


「あとは、各企業、特に新会社は圧倒的に人材が不足しているから、定期的に人材を募集して自らの判断で採用すること。

 それと、各社長は必ず秘書を1名以上採用して、スケジュール管理や社内外とのアポイント等の庶務を任せること。

 なお、相談にはいつでも乗るので、必要な時は訪ねて来ていいよ」

 

「これから、各企業の経営者とそれぞれ個別に面談して経営方針を伝えるから順番にオレの書斎まで来ること、以上解散」

 こうしてオレの大胆な権限委譲の試みが始まった。

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