第256話 ステカとステリン

 国王に国際航路の仕組み作りを、自分に任せて欲しいと啖呵を切ったが、よくよく考えてみると様々な難しい問題がある事に気付いた。


 現代日本に照らし合わせて考えて見ると、旅券(パスポート)や通関、検疫、搭乗前の手荷物検査など難問山積なのである。

 色々考えたが、考えれば考えるほど、膨大な資金と設備、人的資源が必要なことを思い知らされた。


 こうなりゃ、困ったときの神頼みだ。

 女神フィリアに相談してみよう。


 スマホの呼び出し音が鳴り、すぐに女神フィリアが出た。


「はいはーい、フィリアですぅ~」


「もしもし、カイトです、ご無沙汰してます」


「あっ、カイトくん?、おひさ~。

 電話して来るの、ずいぶん久しぶりじゃない?」


「はい、貧乏暇無しで、毎日忙しくしてます」


「何言ってんの~、知ってるんだからね、遂に公爵にまで陞爵したって言うし、航空産業大臣就任?、それに婚約者6人て、どういう事よ~!」

 毎度の事ながら、フィリア様は一体どこからその情報を入手しているのだろう……


「はぁ、成り行きで、こんなふうになっちゃいました~」


「そんな飛ぶ鳥落とす勢いのカイトくんが、貧乏な訳ないでしょ」


 確かに女神フィリアの言う通り、褒賞金も入ったし、金は唸るほどあるのだ。


「で、今日はどんな用?

 何か、困りごとでも有った?」


「はい、実は同盟国3カ国で国際航路の開設を考えてまして、その件でご相談があるんです…」


「うんうん、それで、どんな内容?」


「え~っとですね、国際航路なので、乗客にパスポートのような身分証明が必要だったり、麻薬や武器など輸出入禁止品が不正に持ち込まれないか、手荷物検査しなければならないし、仕組みを作るのが、大変そうだな~って思ったんです。

 フィリア様、何か良い案はありませんか?」


「なるほどね~。

 それなら、ステカを使えばいいんじゃない?」


「ステカって…何ですか?」


「ステカは、ステータスカードの略だよ」


「カードだと無くしそう、って言う人には指輪型のステリンもあるよ。

 因みにステリンは、ステータスリングの略ね」


「へ~、それは知らなかったなぁ」


「でもステータスって、誰にでもあるんですか?」


「カイトくん、異世界舐めるんじゃないよ~。

 一応、異世界ファンタジーなんだから、あるに決まってるでしょ!」

 何かよく分からない理屈であるが、この世界ではステータスは誰にでもあるらしい。


「ステータスカードは、登録した人のステータスを可視化するカードなの。

 普通、ステータスは特別な装置がないと見られないから、それを可視化出来るようにしたのが、ステータスカード。

 ステカは、登録した本人のステータスと連動するから、偽造できないしね」


「それにキャッシュレス決済もできるんだよ」


「きゃっ、キャッシュレス決済ですか!?」

 まさか、女神フィリアからキャッシュレス決済と言う言葉が出てくるとは思わなかった。


「へ~、それは使えるかも知れませんね」

 キャッシュレス決済が普及すれば、毎日お釣りを用意しなくていいし、釣り銭を間違うことも無くなる。

 飛行船の搭乗券購入を『キャッシュレス決済限定』にすれば、普及が進むかも知れない。


「それとカイトくんは、飛行船ポート使ってるよね、あれって特別なステータス認証機が内蔵されてるから、今までも自動でステータス情報収集してた筈だよ」


 そうか、只の駐機場なのに随分高いと思ったら、そんな機能まで付いていたのか。

「なるほど、飛行船の乗客は自動的にステータス情報が収集されていた訳ですね」


「そう、それに搭乗ゲートを潜る時に、全身を分子レベルの3D透過スキャンしてるから、事前に持ち込み禁止物を登録しておけば、自動で持ち込み阻止してくれるよ」


「持ち込み阻止って、どんなふうにですか?」


「禁止物を持ってる限り、飛行船に乗ることが出来ないんだよ」


「それって、全自動で乗船拒否するっていう事ですか…」


「それは、船室に積む貨物にも同じことが言えるから、何を禁止にするのか良く検討して設定するといいよ」


「なるほど~」


「確か、カイトくんが乗ってる飛行船のメインコンピュータから持込み禁止物の登録が出来た筈だよ。

 飛行船ポートキットのマニュアルに載ってるから良く見てみてね」


「分かりました、ありがとうございます」

 全自動で持込拒否が出来れば、税関や搭乗時の荷物検査が不要なのでとてもにありがたい。


「ところで、そのステカとステリンって、どこで買えるんですか?」


「それは、もちろん『異世界ネット通販パラワショップ』だよ」


 なるほど、結局は女神フィリアが儲かる仕組みになっているということか…


「ステカ自体は、魔導回路が内蔵された只のカードだから、そんなに高くない筈。

 それに登録機も不要で、ステカの上に両手を10秒間翳すだけで登録できるから簡単だよ」


「へ~、それは簡単だ!」


「え~っと、前にカイトくんにあげた『英知の指輪』あるでしょ。

 あれも実はステータスリングの一種で、上位のステータスリングになると、スキルの付加も可能なんだよ」


 因みに『英知の指輪』も、キャッシュレス決済に対応しているそうだ。


「それは知らなかったなぁ」


「あと余談だけど、この前カイトくんが使った飛行船の『生体探知レーダー』あるじゃない、あれは上空から地上にいる人のステータス情報をスキャンして、その情報から敵対勢力かどうか判断してるんだよ」


「なるほど~、あの機能はホントに便利で、助かりました。

 フィリア様、色々と情報ありがとうございました」


「うんうん、カイトくんのお役に立ててよかったよ。

 それじゃ、また何かあったら電話してね~、ばいば~い」


 そう言って女神フィリアは、ガチャっと電話を切った。

 相変わらず、せっかちな女神である。


 ステカとステリンか…、早速買ってみよう。


 オレは書斎に戻ってパソコンの電源を入れた。

 暫くするとOSが立ち上がり、デスクトップ上のショートカットから『異世界ネット通販パラワショップ』にログインした。


異世界ネット通販パラワショップ』の黄色に赤のド派手なロゴが表示された。

 因みに『異世界ネット通販パラワショップ』のログインも、最近ステータス認証に代わり、ログイン画面に『英知の指輪』を翳すとログインできるようになったのだ。

 これだと不正使用される心配がないから安心だ。


 検索欄に『ステータスカード』と入力して検索すると、18000件ほどの検索結果が表示された。

 順番に見ていくと素材や購入枚数によって単価が変わるのが分かった。

 材質は、お馴染みのPVC(ポリ塩化ビニル)やポリカーボネート、チタン合金、アルミ合金、セラミックなど多岐にわたる。


 中には表面にプリントできるステカもあり、キャラクターやアイドルの写真をプリントして、付加価値を付ければ、単価アップ出来るなぁと一人でニヤついた。

 カードのサイズは地球のクレジットカードより一回り大きい縦60mm、横100mm、厚さ1.2mmである。

 

 とりあえず、チタン合金に絞り込んで見る。 

 それでも500件ほど表示された。

 順に見ていくと、こんな感じだ。


 チタン合金カード 1千枚 6千GOD(スター金貨12枚)

1枚当たりの単価は小銀貨1枚と大銅貨1枚(1200円)か、結構高いな。


 数量が多くなれば安くなるようだ。

 チタン合金カード 1万枚 5万GOD(スター金貨100枚)

 1枚当たりの単価は小銀貨1枚(千円)と大銅貨1枚分安くなる。


 とりあえず、これくらい用意しておけば当分間に合うだろう。


 次にステータスリングを見てみると10万件以上も出てきた。

 こちらも材質はチタンで絞り込んで見る。

 デザインチタンリング 1千個 8千GOD(スター金貨16枚)

 デザインチタンリング 1万個 6万GOD(スター金貨120枚)

 恐らく、女性はリングを好む筈だ。

 こちらも1万個あれば当分持つだろう。


 次に決済端末を見てみる。

 『ステータスカード決済端末』で検索すると、3800件ほど表示された。

 1台当たり100GOD(大銀貨1枚)と意外と安い。

 こちらは、キャッシュレス決済を普及させるため、元々価格を安く設定しているらしく、ボリュームディスカウントの設定は無かったが、チャージ機能も付いているし、200台ほど買っておこう。


 サイトの説明によるとステータスカードは180のパラレルワールドで共通に使える仮想通貨『GOD』に対応しており、使用する世界により自動的に換算され決済されるそうだ。


 ショッピングカートを確認する。

 ①チタン合金カード       1万枚 5万GOD(スター金貨100枚)

 ②デザインチタンリング     1万個 6万GOD(スター金貨120枚)

 ③ステータスカード決済端末3型 2百台 2万GOD(スター金貨40枚)

 合計13万GOD(スター金貨260枚

 スター金貨1枚は円換算で10万円だから、今回は2600万円のお買い物だ。


 お届け予定日は、明日の午前中か。

 結構早く届くな。


 オレはマウスで『注文確定』ボタンを押した。

 すると『ご注文ありがとうございます』のメッセージ画面が表示され、ステータスが『発送準備中』になった。

 明日の到着が楽しみだ。

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