第199話 王太子ライアス

 ライアス王太子とフローラ王女は、階段をゆっくりと降り、拍手喝采の中、手を上げて答えた。


 どうやら、そのまま会場を一周して感謝の意を表すようだ。

 ライアス王太子はフローラ王女の手を取り、得意満面の笑みを浮かべていた。


 場内を左回りに一周するとオレ達のテーブルの前にやってきた。

 フローラは、アリエスとジェスティーナの姿を見つけると嬉しそうな表情を見せ、駆け寄ると2人と抱き合って再開を喜んだ。

「アリエス、ジェスティーナ、来てくれてありがとう」

 フローラ王女がアプロンティアへ旅立ってから、僅か2週間であるが、いつも一緒に過ごしていた3姉妹にとって、とても長く感じたことだろう。


「カイト様、妹たちの引率お疲れ様でした」

 そう言ってフローラはオレをねぎらってくれた。


「2人の妹君いもうとぎみを無事お連れしましたよ」

 そう言ってオレはフローラに微笑んだ。


 ライアス王太子は、オレ達3人を見て明らかに驚いている様子だった。

 ライアスの顔は引きつり、口は半開き、目も泳いでいるのが分かった。


「き、キミたちは…

 な、何故ここにいるんだ」

 ライアス王太子は、絞り出すような声で言った。


「なるほど、あなたが、ライアス王太子殿下でしたか…

 私は、ソランスター王国使節団代表を努めますカイト・シュテリオンベルグ伯爵です。

 そして、この2人はフローラ王女の妹、アリエス王女とジェスティーナ王女、私の婚約者フィアンセにございます。

 その節はお世話になりました」


「フローラ王女の妹だと…」

 ライアスは、信じられないと言った様子で唖然としていた。

 オレたちの隣で、そのやり取りを聞いていたレオニウス国王が言った。

「なんじゃ?、ライアス、伯爵とは顔見知りであったか?」


「は、はい、陛下…

 この方々が、昼間城下じょうかで道に迷っておられたので、教えて差し上げたのでございます」

 王太子は、アリエスとジェスティーナをナンパしたことを誤魔化そうとした。


「な、なんだと、ライアス…

 フローラ王女との婚礼の儀が迫っておると申すに城下じょうかなどに行きおって!」

 レオニウス国王は、王太子ライアスを睨みつけた。


 オレは、この場で王太子のナンバを暴露するのは得策ではないと考え、王太子に話を合わせた。

「陛下、王太子殿下とは存じませんでしたが、城下じょうかで道に迷っていた所を親切に教えて下さったのです」


「そ、そうでしたか…」


 国王は王太子に向き直りこう言った。

 「それが誠であっても、お前が城下じょうかに出たのは他の目的があった筈…

 お前は明日フローラ王女を妃に迎える身。

 放蕩三昧も、いい加減にせい」

 レオニウス国王は王太子を窘めたたしなめた


「は、はい、陛下。

 このライアス、陛下の言葉、肝に銘じまする」と膝を折り、頭を下げた。


「お前という奴は、王太子としての自覚が足りん」

 国王は来客の目を気にしてか、それ以上追求するのを止めた。


 フローラ王女は困惑した表情で、レオニウス国王と王太子のやりとりを聞いていたが、今の件をどう思ったのだろうか。


 街中で手慣れた感じでナンパしていたチャラ男が王太子?

 婚礼の前日に街で女をナンパして、いったい何をしようとしていたのか。

 この男はきっと余程の女好きに違いない。

 オレも女好きには違いないが、手当たり次第という訳ではない。


 アリエスとジェスティーナは、街で会ったチャラいナンパ師の正体が、姉が嫁ぐ王太子であることに眉をひそめた。


「フローラ王女、ライアスは根は悪い奴じゃないのだ…

 こんな奴だが宜しく頼む」とレオニウス国王は頭を下げた。

 そして怒りが収まったのか、国王は王太子とフローラ王女を連れ、隣のテーブルへ歩いて行った。


 後で聞いた話であるが、ライアス王太子には、既に5人の妾がおり、その中には子を成した女までいると云う。

 きっと女癖の悪さは生まれつきなのだろう。

 ライアス王太子に特筆すべき才能は無く、可もなく不可もなくと言った男なのだ。

 レオニウス国王は、随分と息子に甘い親のようだ。


 その後、オレ達は各国の王族と挨拶を交わし親交を深め、宴は2時間ほどで終了した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 その夜、ジェスティーナとアリエスは、姉のフローラの独身最後の夜を共に過ごすと言い、迎賓館内のゲストルームに泊まることとなった。

 これから離れ離れとなって暮らすので、最後の夜は3姉妹で語り明かすのだそうだ。

 その警護のため、ステラとセレスティーナを除く4名の護衛(アンジェリーナ、レイフェリア、フェリン、リリアーナ)を引き連れていった。


 オレは1人で寝ることとなり、早めにベッドへ入った。

 それから間もなく、誰かがドアをノックした。


 ドアを開けると、そこに立っていたのは純白のナイトドレスにガウンを羽織ったレイチェルであった。

 背中までの黒髪ポニーテールがよく似合い、笑顔が可愛い癒し系の美少女である。

 彼女は、エイントワース男爵家の3女で、オレの妾候補として採用したのだが、癒しのピアノで、人々の心を和ませる『癒やしの天使』としての顔も持つのだ。


「レイチェル、こんな遅い時間にどうした?」


「ジェスティーナ王女様にカイト様の夜伽よとぎを命じられ、参りました」

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