第172話 エルメ島リゾート開発会議(後編)
「皆さん、お待たせしました。
それでは、ご案内致しましょう」
オレは目の前に
現実では椅子に座り、ただ足を上下させているだけなのだが、拡張仮想空間の中では立って歩いているのだ。
自動ドアの前まで来ると、ウィーンという音がしてドアが左右に開いた。
振り返ると他のメンバーが不思議そうな顔をして、オレの後に付いてきていた。
そうか、そもそもこの世界には自動ドアと言う物が無いからか。
「あっ、これは自動ドアと言って人を感知すると自動的に開くドアです」
おぉ~、それは凄いと誰かが言っている。
「ここがロビーで、正面がフロントです」
フロントにはフロントマンがいた。
しかしデータなので流石に動きはせず、黙って虚空を見ているだけであるが、リアリティはある。
「それでは、エレベーターで、屋上まで上がってみましょう」
「カイト殿、#えれべーたー__・__#とは、何ですか?」
そう言ったのはゼビオス・アルカディアであった。
この世界でフロア間の移動は、当然階段のみであり、エレベーターは無いのだ。
「あ、失礼、これも説明が必要ですね。
エレベーターはフロア間を上下に移動する乗れる箱とでも言いましょうか。
歩かなくても高速に階を移動できる一種の乗り物です。
論より証拠、どのような物か乗って確かめましょう」
オレはシースルータイプのエレベーターに乗りこんだ。
後を着いてきた13名全員がエレベーターに乗ったのを確認してオレは、屋上のボタンを押した。
外の景色が透けて見えるので、周りを見ていると景色が下の方へ流れていき、本当にエレベーターに乗っているような錯覚に陥った。
屋上に着き扉が開くと、そこには空中庭園が広がっており、色とりどりの南国の花が咲き乱れていた。
驚くほどリアルで、手を伸ばせば
歩いて屋上の端にあるフェンスまで来ると、眼下にはビーチの絶景が広がっていた。
エメラルドグリーンの海に白砂のビーチ、椰子の木が風に揺れ、陽光を浴びて海面がキラキラと反射し、眩しいくらいだ。
オレは前世でVRを体験したことはあるが、ここまでリアルでは無かった。
この拡張仮想空間のリアリティは、もはや現実と思えるほど凄いのだ。
他のメンバーも呆気に取られており、ホテルの設備を見て歩くどころの騒ぎではない。
オレは本来の目的を思い出し、メンバーを引率してホテル内の設備を見て歩いた。
屋上の展望露天風呂、カフェ&レストランを見た後、16階に降りて1フロアに3室しか無い400平米もあるラグジュアリー・スイートの室内を見て歩いた。
部屋は専用テラスとプールにジャグジーまで付いた4ベッドルームの部屋である。
16階なので眺めも最高だ。
この部屋でジャクジーに入りながら海を眺めたら最高だろうなとオレは思った。
その後、スイート専用ラウンジ、ジュニア・スイート、スタンダード・ツインルーム、2階のミニショッピングモール、レストラン、カフェ、イベントホール、1階の大浴場、インフィニティ・プール、エステ&スパなどを見て歩いた。
ようやく拡張仮想空間に慣れてきたメンバーからは幾つか質問も出たが、その殆どがオレには当たり前となっているシャワートイレだとか、エアコンなど、設備の話で、構造云々などの話は一つも出てこなかった。
約1時間ほどで、拡張仮想現実による高層ホテル探索ツアーは終了し、AVRシステムのスイッチ切ると、メンバー全員が放心状態であった。
恐らく、今見てきて拡張仮想現実の世界と現実世界のギャップに対応しきれて居ないためと思われる。
このシステムを理解しているオレでさえそうなのだから、他のメンバーには想像を絶する出来事であろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
再開した会議では次のことが決まった。
・リゾートで勤務する幹部スタッフは会員企業から転属させる。
・一般スタッフは領都エルドラードとセントレーニアで公募する。
・人数は幹部スタッフ25名、一般スタッフ360名とする。
・幹部スタッフの選考は各会員企業で1ヶ月後までに終わらせる。
・一般スタッフの選考は1ヶ月後に公募を開始し、2ヶ月後に面接試験を行う。
・一般スタッフは希望により、通いと住み込みのどちらでも可とする。
・ゲストの送迎には専用の座席数240席の大型飛行船を1隻用意し、領都エルドラードとセントレーニア間を1日3往復、宿泊者限定の無料送迎を実施する。
・大型飛行船は従業員の送迎用に1日2往復させる。
・領都エルドラードからは大型クルーザーによる1日1便の有料送迎も実施する。
・各店舗、レストランの割当は各企業グループの希望を聞き調整する。
・食肉の供給はアルカディア・グループとアクアスター・リゾートが担当する。
・魚介類の供給は水産組合長でもあるレオナード・イシュトリアが担当する。
次回の会議は1ヶ月後とし、それまでに各企業で幹部スタッフの選定して報告することとなった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
会議が終わり、オレとジェスティーナ、秘書のサクラは市庁舎最上階にある領主執務室の専用居住スペースに引き上げた。
「やれやれ、今日の会議は疲れたな」とオレが愚痴をこぼすと。
「カイト、お疲れさま。
その疲れ、私たちが癒やしてあげるわ。
ね、サクラさん」
ジェスティーナがそう言うと、オレたちのためにお茶を煎れてくれていたサクラが頷いた。
「はい、もちろんです」
彼女たちが言っている癒やしとは何のことか。
それは恐らく、性的なサービスであろうことは、容易に想像できた。
「それじゃ、二人に癒やしてもらおうかな」
オレの眼がキラリと輝いたのを見て、ジェスティーナとサクラは立ち上がりお互いに頷くと寝室へ向かった。
まだ夕食前だというのに良いのだろうか?
いや、良いに決まっている。
ストレス解消して、一汗流してからの食事は美味いに違いない。
その後、オレたち3人がベッドの上で激しい愛のバトルを繰り広げたのは言うまでもない。
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